第13話主婦 京子

文字数 1,065文字

午後2時過ぎ、40代中頃の女性が入って来た。
飛鳥が「いらっしゃいませ、お久しぶりです、京子様」と声をかけると、顔を少し赤らめ、飛鳥の前に座った。

京子は、飛鳥が置いたレモン水を一口、「ふっ」と顔を和ませ、店内を見る。
「何も変わっていないわね、女子大生の時から通っているけれど」

飛鳥は、京子の前に、モカを置く。
「はい、ほとんど変えていません」

京子は、目を閉じて、モカを一口。
「ああ・・・これが飲みたくて・・・」

しばらく一口の余韻を楽しんで、目を開けた。
「飛鳥君、長女の2年先輩だよね」

飛鳥は、「はい」と微笑む。
そして、ひと言加える。
「今は、京子さんだけで」

京子の顔が、赤らむ。
「ありがと・・・私が同じ大学の先輩として?」
そして、少し笑う。
「頼もしい後輩?でも可愛らしい後輩だなあ」

飛鳥もクスッと笑う。
「親父の玄信が言っていましたよ」
「京子さんが入って来ると、店が華やぐとか」

京子は、その言葉で目頭をおさえる。
「あ・・・玄信さんか・・・渋くて・・・かっこよくて」
「大変、お世話になりました、お礼も言えずに」

飛鳥
「少し前までミラノにいて・・・今は・・・フィレンツェらしい」
「ミケランジェロとか言っていました」
「何か、珍しいものがあれば、買って来るらしい」

京子は、驚いたような顔。
バッグをゴソゴソして、数冊の本を出す。
「偶然かなあ、フィレンツェ写真集を買ったの」
「さすが神保町で、シリーズ物で、ローマとかナポリ、シチリアもあったかな」
「でも、フィレンツェが欲しくてね」

飛鳥は、それ以外の本を見る。
「チョコレートを使ったケーキのレシピ本と・・・フランス詩ですね」
「さすが、先輩です、いい趣味です」
と、言いながら、出来立てのシュークリームを京子の前に。

京子は、このシュークリームで、顔がパッと輝く。
「これこれ・・・いつも、これだったの」
「ここに座って、玄信さんの前で、シュークリーム」
「もう・・・今は女子大生気分だ」
「うーん・・・まろやか・・・生地も、まったく同じ」
「私の青春の味・・・そのもの」

しかし、京子は涙もろい。
「あの頃に戻りたいよ・・・」
「今は、おばさんで主婦だもの」
と、目に涙をためる。

飛鳥は、ステレオを操作。
BGMが「ハリーポッター」のテーマに変わる。

京子は、涙を拭いた。
「これも流行ったの」
「英文学だったから原書で読んで、映画も見て・・・悪友女子とね」

飛鳥が頷いていると、京子はクスッと笑う。
「ねえ、若返りの魔法があったら、私とデートしてくれる?」

飛鳥は笑顔。
「もちろんです」
「秘密の部屋で?」

京子は、ますます顔を輝かせている。
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