篝火(かがりび)

エピソード文字数 1,406文字

 すべてが優しい篝火(かがりび)に照らされていた。
 ホロホロ鳥を頬張(ほおば)り、笑い合う子どもたち。
 その世話を焼く愚連隊、いや、今ではトーラ国では知らぬ者がいない、フリーダ隊の若者たち。
「並べって。うるせぇ、お前ら話を聞けっ!ヤケドすんぞっ!」
 大声で注意を与えつつ、ヴァイノは笑顔で子どもたちの列を整える。
「これ、竜騎士様が焼いたの?すげぇっ!うまいっ!」
 救護院の少年の一人が、アルテミシアを尊敬のまなざしで見上げている。
「アルテミシア様は、ホロホロ鳥

はお上手ですからね」
 アスタが焼きあがったホロホロ鳥を切り分けながら笑う。
「本当にアスタは私に辛口だな。だけってなんだ、だけって」
 何度目かに焼き上げたホロホロ鳥を持っているアルテミシアが、不満そうにアスタをにらむ。
「ほかに何がお得意でしたっけ?」
 疑わしそうな淡墨(あわずみ)色の瞳が姉弟子に向けられる。
「ほかには、その、あの、えーと、えーと」
「ミーシャは、リンゴのお菓子が上手だよ」
 すぐ後ろからついてきた王子が助け舟を出す。
「そうだ!この間

は成功したんだ!」
「レヴィア様がつきっきりでね」
 別の味付けのホロホロ鳥を料理人から受け取ったスヴァンが笑う。
「つきっきりでもいいですよ」
 トーレが取り分け用の、新たな皿を持ってきた。
「あれは食べられましたから。いえ、美味しかったですから」
 鮮緑(せんりょく)の瞳で、威嚇(いかく)するように見上げられたトーレが慌てて言い直す。
「野菜も焼きあがりました、よ。お肉ばっかりじゃ、ダメ!」
 フロラの金髪が、(かまど)の火に美しく()えている。
「もー、ほら、口の周りがべとべとじゃないの。こっちおいで」
 小さな女の子の顔を、メイリは濡らした布で優しく拭いた。
「めいりさま、ありがとー」
 顔をくしゃくしゃにして女の子が笑う。
「ホロホロ鳥は足りそうか?」
 ジーグに尋ねられた料理人が、満面の笑顔で答えた。
「まだまだ!たっくさんありますよ!ジーグさんも召し上がって下さい」
「帝国風のも、美味しいね」
「そうか?私はトレキバの味が好きだな」 
 蜂蜜をたっぷり塗った帝国の味付けのものと、香草と岩塩を擦り込んだトレキバの味のホロホロ鳥を食べさせ合いながら、竜騎士二人が笑っている。
「お前らぁ、それやんならどっか行けっ」
 篝火(かがりび)に照らされているだけではなく顔を赤くしているヴァイノが、しっしと追い払う仕草をした。
「何だ、ヴァイノも食べたいのか?ほら」
 アルテミシアの指に()ままれた、こんがりと美味しそうに焼けたホロホロ鳥が、ヴァイノの口元に差し出される。
「そーじゃねぇっ」
 ヴァイノが怒鳴ったとき、アルテミシアの手をつかんだレヴィアが、その指ごとホロホロ鳥をぱくりと食べた。
「だーかーらーっ!」
 照れたしかめっ面を浮かべるヴァイノの横で、救護院の少女がアスタに(ささや)いた。
「竜騎士様お二人は、あっつあつ!ですね!」
 二人を冷やかす、イタズラそうな少女の瞳を見下ろしながら、アスタは満足げにうなずいた。
「ほんとにね。…お幸せそうで何より。お二人とも」
 弾けるような若い命たちが、篝火(かがりび)に萌え立っている。
 その頭上。
 満天の星を浮かべた世界が、広くすべてを包み込んでいた。
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