ネピオルネス編(3)

エピソード文字数 3,314文字

「……ごめんね、ティマ」

アミィは、かすれる声でそう言うと、そっと、ティマの手を握った。

握り合う手。見つめる目。アミィはやっぱり変わってなかった。変わってなかったんだ。それがわかって、ティマは嬉しかった。

ありがとう、アミィ。ますます涙がこぼれて、ティマがそれを伝えようと唇を開きかけた時、

「おーう、アミィー!」

突然、男の声がした。二人は驚いて声の方を見る。青い車から、ティマの見知らぬ男達が身を乗り出している。

「何してんだよこんなとこで? もうとっくにクラブに行ってると思ったぜ」

「隣の子、アミィの友達? いいじゃん。一緒に遊ぼうよ」

男達はあっと言う間に車から降りて来て、ティマの腕を掴む。拒むティマ。しかし男達はティマを無理矢理車に乗せようとする。

「駄目! その子は駄目だって! 離してあげて!」

「なんでだよ? アミィの友達だろ? かわいいじゃん。いいことしようよ」

「ティマはそんな子じゃないの! 離してよ!」

アミィがティマの腕を掴む男の手を無理やり引き剥がす。力余って男の手を引っ掻いてしまう。

男は憎々しげにアミィを見下す。そして、吐き捨てた。

「モルニ人のくせに……」

優しかった男達。

優しかったはずの男達。
アミィは、男達の本心を知った。

体当たり。アミィは男の手からティマを奪い取る。ティマの腕を取り、アミィは走り出す。

「待てよこら! ざけんなよ!」

男達が怒り狂って追ってくる。獣のような男が四人。ティマとアミィは逃げる。走る。走る。

足がもつれる。捕まりそうになる。伸びてくる腕をかわして、再び、走る。角を曲がり、路地に逃げ込み、そして、

「きゃあ!」

転んだのは、アミィだった。ティマも一緒に倒れる。もつれて転がる二人。男達が追いつく。

「ふざけやがって。アミィ、何様のつもりだよ!」

男の一人が近づく。アミィが、何か言った。男達に吐きつけた言葉、それはモルニ語だった。

「いい気になってんじゃねーぞモルニ人め! モルニに帰れよ!」

男がアミィの顔を蹴り上げる。ティマが悲鳴をあげる。アミィの鼻から鮮血が噴き出す。

「汚ねーんだよお前らは! ちょっと優しくしてやったら調子にのりやがって! おめぇもモルニ人なんだろ? おとなしくしろよ!」

男がティマの腕を掴む。アミィが男の腕につかみかかる。アミィがまた、蹴り飛ばされる。ティマが泣き叫ぶ。

「助けて! 誰か助けて!」

「うるせーよこのヤロー! 静かにしろよ!」


「その子達を離しなさい!」

不意に、女性の声。

顔を上げた男達は、自分達の背後に、

銃のようなものを構えた、白いドレスのサイドテールの少女を見た。
それは、魔壊銃ビューラを構えた、ナギだった。



南の国・ジオラモからネピオルネスに来たナギは、そこが思った以上の大都市であることに驚いた。

ウルブスという小さな国で生まれ育ったナギにとって、ネピオルネスのような大都市に来るのははじめてだった。ミドルスコラの社会見学旅行などに、両親を亡くし心病んでいたナギは参加できなかったからだ。

ネピオルネスが連邦政府本拠地ということは知っていた。しかし想像と現実は違う。自分の迷いを断ち切るために、まずは行ってみようとナギは思い立ったのだ。ネピオルネスに来て、そこから次の一歩を考えようと思っていた。それなのに、あまりに街は大きく、右も左もわからない。

そこでナギはベリテートのジャーナリスト・ノートンに連絡をした。彼ならなんらかのアドバイスをくれるのではないかと思ったのだ。

しかし、ノートンから返って来た言葉は意外なものだった。
ネピオルネスは危険だ、動くな、と。

ナギは混乱した。理由をただそうとするナギに、ノートンはさらに言った。

「目立つ動きはしないでくれないか? 急いでそちらに向かうから、待っててくれ」

ノートンが来てくれるというなら心強い。ナギはアドバイスに従って、さしあたっての買い物だけをしておこうと街を歩いていた。

その途中でナギは、ティマとアミィの悲鳴を聞いたのだ。

銃を構えて立つ少女。男達は目を丸くした。ティマとアミィも、事態が理解できなかった。

「その子達を離しなさい」と言って現れるなら、たいていかっこいいイケメンか、格闘家みたいなマッチョマンだろう。だがそこに現れたのは、どう見てもティマ達と同じくらいの年の女の子、もう一人もミドルスコラの女の子くらいにしかみえない。
しかも全然強そうじゃなく、銃のようなものを構えてはいるが、腰が引けている。そして一番の違和感は、その容貌だ。

何かのコスプレか? スリットから足をのぞかせている、白いドレス。もう一人の子は銀色の髪、よく見ると瞳も銀色だ。

銃口だって震えている。全然迫力がない。

男達は、ビビるどころか、鼻で笑った。

「なんだオマエ? 邪魔すンなよ」

男達はナギの銃をオモチャと思ったか、ニヤニヤ笑って近づいて来ようとする。

「ナギさん、それは魔法銃だからあたってもしなないはずです。しなない魔法をうてばいいんです」

ルナが小声でナギにアドバイスする。ナギはかなりテンパっている。

「こ、来ないで!」

「やーだよ」

ばかっ! こっち来ないで! ガラ悪いやだ怖い来ないでったら近づかないで来ないで来ないでいやだーっ!!

ナギはビビりながらも、ビューラの引き金を引いた。

ビシィ!!

先頭の男の胸に魔法弾が当たる。勢いで思わず尻餅をつく男。しかし男はひるまない。

「なにすんだこのやろ……」

男は立ち上がりナギにつかみかかろうとしたが、
次の瞬間大の字にひっくり返って眠ってしまった。

あっけに取られる残りの男達が体勢を立て直す前に、ナギは魔法弾を次々撃つ。とうとう四人ともだらしなく眠りこけてしまった。

「ナギさん、もうだいじょうぶですよ……ナギさん!」

ルナに言われてようやく我にかえる。ナギはおそるおそるおそるおそる男達をよけながら、ティマとアミィに近づく。

「あの……大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます!」

ティマが、ハンカチでアミィの顔の血を拭いてやりながら答えた。アミィの顔は血と涙でぐしゃぐしゃになっている。救急車を呼ぶべきか? ナギが考えていると、

「いたぞ!」

不意に男の声。見ると警官達が走って来る。良かった。あとはお巡りさんに任せよう。

ナギは駆けつけた警官達に状況を伝えようと思った。ところが、
ナギとルナは警官達に取り囲まれてしまった。

「え? あの……」

冷たい表情の警官に囲まれ、ナギは動揺する。まるで自分達が何かの容疑者みたいだ。おかしい。そう思っているうちに、ナギは警官の一人に腕を掴まれた。

「銃を所持しているな! 現行犯逮捕だ! 抵抗するな!」

「え!? そ、そんな」

そして、
ナギは確かに聞いた。警官の一人が無線で言ったことを。

「ナギ確保!」

警官はナギの腕を乱暴にねじりあげ、ビューラを奪おうとする。

「ナギさん!」

ルナも警官に捕まっていた。

「は、離してください! この銃は違うんです! 私は」

「うるさい! おとなしくウワア!」

キィキィ! リョータがナギの腕をひねり上げている警官の顔にくちばしと爪で激しく暴れかかり、警官がひるむ。ナギは逃げる。ルナも警官の腕に噛みつき、すり抜けて逃げる。

「こら! 抵抗するな!」

逃げ出したナギとルナを捕まえようとする警官達に、アミィとティマが体当たりした。アミィは近くに落ちていたバケツの蓋を振り回して暴れる。

「ナギさん! ビューラを!」

「で、でも、」

「あのふたりがつかまっちゃいます!」

ルナに言われて、ナギはビューラを構えた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ナギ ……本篇主人公。16歳。失踪した兄を探すため、冒険の旅に出る。

パセム……ナギの兄。ナギを守るためにゾンビと戦い、行方不明になる。

アビス……ナギの親友。元気よく、いつもナギを励ます。パセムを慕っている。

フロス……ナギの親友。明るく好奇心旺盛で、人なつこい。

ムジカ……ナギの親友。おっとりした少女だが、天才的ピアニストでもある。

グラディ……ナギの幼なじみで、連邦一の剣士。一子相伝の雷剣の使い手。

ランス……グラディの親友で、連邦一の槍使い。口下手でどもるところがある。

エジェット……グラディの祖父で剣の師匠。

リン……黒いゴスロリの黒魔法師少女。右頰にコウモリのタトゥがある。

ピンセル……リンと一緒におり、空間の隙間を走る車を操る。喋らない。

リョータ……メルカートおじさんの家で出会った七色インコ。

ノートン……真実を伝えるベリテートのジャーナリスト。

悪魔……???

ルナ……ハティナモンで出会った不思議な女の子。回復魔法が使える。

ティマ……連邦とは海を隔てたモルニ国出身の女の子。ネピオルネスのスコラに通う。真面目でしっかり者。

アミィ……ティマの親友で、同じくモルニ国出身。活発で明るい性格だが、スコラはさぼりがちになっている。

レン……リンの姉で、数少ない白魔法師。様々な回復系魔法を使う。誰よりも優しいが、変わり者な一面もある。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック