第18話  煌香展 Ⅱ

文字数 2,150文字

そしてここはちょっとこじゃれた高級中華料理店。

私と田神さんと佐伯先生はビールを片手に、にこやかに歓談しながら運ばれて来る料理に舌堤を打っていた。

何故佐伯がここに?

私達が店を探している時に田神さんに佐伯先生からメールが来た。
私用が思いの外早く済んだらしい。そこで、じゃ、ちょっと昼でも行くから佐伯君もどう?ということになり、彼の方から、お礼ですから奢りますよという申し出があって今に至った。

田神さんは佐伯先生と何度か飲んだことがあるらしく、仲良さげに話をしている。私はそれを聞きながらせっせと料理を食べ、緊張を和らげるためにがぶがぶ飲んだ。ビールだけでなく紹興酒も飲んだ。思い返せば、これが一番の敗因だったと思う。

「宇田先生は結構飲めるんですね。」佐伯先生がにこやかに言った。
「いやいやそんなことはないです。」私は否定した。
「宇田ちゃんは、まあザルだね。飲ますと金が勿体ないよ。・・・・普段はもっとしゃべるんだけど・・・何か今日は大人しいね?」田神さんが要らんこと言った。
「佐伯君の前で緊張しているのかな?はっはっは。」
うるさい。このタヌキおやじ。
心の中で舌打ちする。

「いやあ・・・・そうですねえ。ちょっと緊張しますね。お話したことあまりないですから。」
私は佐伯先生を見ないようにして、答えた。

「そうですねえ。うちの社会科は田神先生が見てくださっていますし、・・・同じ書道部顧問なのですけれどねえ。あまり関わることがないですねえ。・・では、これからもっと仲良くしますか。どうですか?放課後一緒に書道なんていいじゃないですか。・・・仕事を終えて帰る前に心を落ち着けて字を書く。うーん。いいなあ。」
佐伯先生が言った。

あほか。書道よりビールだろ。どう考えても。

「おっと。危ないな。二人きりで放課後書道なんて危なすぎる。」
何が危ないんだよ。書道の。
私は心の中でツッコミを連発する。

「大体、何を仲良くするの。佐伯君。言って置くけれど、宇田ちゃんを誘いたい時には俺を通してもらおう。・・・でもこの子の字は一度見て直して貰った方がいいかもなあ。・・残念な字だぜ。・・まあ先生とは思えないね。」

えっ?そんな?そこまでヒドイ?

「字は人を表すと言うが・・・大体、文字の大きさもばらばらだし、真っ直ぐに書けていない。こう、ずっと右上がりで上がって行くの。どこまでも。果てし無く」
「・・ああ。成程」
いるいるそう言う人。いるね。教員でも。
いたよ。ここにも。そんな感じで二人は私を見る。
「文字の大きさががばらばらって・・・それってもしかしたら小学生レベルでは・・」
佐伯先生が気の毒そうに私を見る。

・・・ほっとけよ。余計なお世話だよ。
私は知らん顔で酒を飲む。

「保護者から許可が出たので・・・・いいでしょう。宇田先生のために時間をとってお教え致しましょう。」
「いやいや結構です。」
アルコールの助けを借りてあたしの舌も少しは滑らかになったらしい。
「だって佐伯先生怖いじゃないですか。」
あれ?
いきなり本音?
不意に間が空いて私はあらららと思った。

「あれ?そうですか?私はこんなに丁寧で人当たりの良い青年なのに。」
「いやいやいや。笑っていない時の顔がめっちゃ怖いです。本当に冷たいオーラで。」
あれ?変だな。舌が勝手に動くぞ?
「・・・。」
「あっ。いや・・済みません。失礼なことを言って。私、ちょっと飲み過ぎたかな。ははは。昼間の酒は効きますねえ。」
笑って誤魔化した。
「ふうーん。成程・・。」
佐伯先生がにやりと笑って私を見た。私は下を向いた。田神さんはにやにやしながらそれを見ている。

「済みません。先輩に向かって。」
私は取り敢えず謝った。
「あれ?・・同級生ですよ」
「えっ?」
「僕は今年28です」
「えっ?まさかの20代?」
私は「どひゃあ。」と付け加えた。

「ありゃあ・・・私はてっきり佐伯先生の方が年上だと。・・あらあ・・。」
私はアホちゃうか?と自分で自分をどつきたい程、「ありゃあ」を繰り返した。

・・・なんでそんなに落ち着いているの?うん?何でこのヒト、私の年、知っているの?
そんな個人情報。
 

「まあまあいいじゃないか。年なんて。宇田ちゃんは大丈夫。若く見えるから。佐伯君がやたら落ち着いているから年上に見られるんだしさ。」
「私も宇田先生が同級だとは思えませんね。失礼ですが。」

その後、宇田先生、その無愛想、何とかなりませんかとか、ちょっとこの子剣呑な所があるよね。それなのに子供に馬鹿にされるよね。この前山崎に殴られてびっくりしたけど、まあいつかはやられるんじゃないかと思ったとか・・・、運動まるで駄目ですよね。もう音痴とかのレベルじゃないですよね。私は昨年度の体育祭で生徒と一緒に活動している様子を見てびっくりしました。あれ、もう無しのレベルですね。運動神経。
・・「無し!」

放課後俺と宇田ちゃんと佐伯君で書道なんていいよな。その図を想像すると笑っちゃうよ。なんて田神さんが言うと、三人でその図を肴に笑った。
 放課後の書道教室で黙々と字を書く三人・・。日直で回る先生がそれを見てびっくりする。
何かよくない病気が流行り始めたのか?・・・なぜ?この三人?

 ・・・昼ごろから飲み始め、散々しゃべり、飲み食いし、すでに夕方になってしまった。
飲み過ぎだろ。
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