epilogue jinx (1)
文字数 1,179文字
カップルで観ると必ず結ばれる。
わたしの街には、そういう不思議なジンクスを持つ映画館がある。
レトロと言う言葉すら通り越して、外観は完全に遺跡にしか見えないその映画館は、いまはもうほとんど営業している店がない商店街の片隅にぽつんとある。
最初の大阪五輪が開催された年に、一旦は閉店したらしいんだけど、何年後かに営業を再開していまに至るらしい。
そもそも建造が昭和って。それから平成、令和、……と、年号が四回も変わってるのよ。
オリンピックだって東京で三回目が開催されたし、今年は二回目の大阪五輪もある。
いまにも屋根からガラガラと音をたてて壊れそうな映画館に、本当にそんな不思議な力があるのだろうか。
遠目から実際に目にしても、疑心とか懐疑とか、そういう感情しか湧いてこない。
でもお姉ちゃんもお兄ちゃんも、ここで映画観た人と結婚してるし。二人ともなんだかんだで幸せそうだし。なにかしらのパワーはあるのかもしれない。うん、そう信じたい。
わたしも陸くんとなにがなんでも結婚したいから、ここはジンクスでも神頼みでも、神隠しでも……あ、いや隠しちゃ駄目だ。
とにかく、ここで二人で観るんだ。
それなのに、この男は~(怒)
「なぁ、茜~!こんな小汚ないとこじゃなくてさ~、キャナルに行こうぜ~!」
目新しいものがとにかく大好きな陸くんは、昭和のシャッター街など微塵も興味がなく、ぶつぶつと念仏を唱えるように文句ばかり並べている。
わたしだって、好きでこんなさびれたところにいるわけじゃない。
陸くんと結ばれたいから、あの手この手と色々やってるんでしょお。
はあ、わたし……なんで陸くん好きになっちゃったんだろう。
デートにはいつも遅刻して来るし。
LINEの返事は次の日の朝だし。
電話してても観たい配信が始まると電話切られるし。
すぐ他のかわいい子に目移りするし。
気づいたらわたしをほったらかして、すぐいなくなるし。
誕生日は忘れるし。
デートの約束しても、友達と遊びに行くって当日にキャンセルするし。
話をしても全然聞いてないし。
ああ、考えたら本当になにもないよぉ。
なんで好きなんだろう。考え直した方がいいのかも。
わたしはずぶずぶと沼にはまりそうな陰鬱な気分になる。
そうこうしてるうちに、映画館に着いた。けれど、窓口には誰もいない。
「茜~、なんか書いてるぞ」
陸くんは窓口の中を指している。
「……映画館へ御用の方は、隣接の喫茶店『未来』までお越しください……」
「なんだそりゃ?わざわざ隣まで行かなきゃなんねぇのかよ。面倒くせえな」
たしかに陸くんの言う通り、面倒なシステムだとわたしも感じた。
見たところ、自動券売機も無いし、そもそもネットで予約もできないなんて、さすが昭和の映画館。
でも、陸くんとの結婚のためには、そんなこと些細な障害に過ぎない。
わたしの街には、そういう不思議なジンクスを持つ映画館がある。
レトロと言う言葉すら通り越して、外観は完全に遺跡にしか見えないその映画館は、いまはもうほとんど営業している店がない商店街の片隅にぽつんとある。
最初の大阪五輪が開催された年に、一旦は閉店したらしいんだけど、何年後かに営業を再開していまに至るらしい。
そもそも建造が昭和って。それから平成、令和、……と、年号が四回も変わってるのよ。
オリンピックだって東京で三回目が開催されたし、今年は二回目の大阪五輪もある。
いまにも屋根からガラガラと音をたてて壊れそうな映画館に、本当にそんな不思議な力があるのだろうか。
遠目から実際に目にしても、疑心とか懐疑とか、そういう感情しか湧いてこない。
でもお姉ちゃんもお兄ちゃんも、ここで映画観た人と結婚してるし。二人ともなんだかんだで幸せそうだし。なにかしらのパワーはあるのかもしれない。うん、そう信じたい。
わたしも陸くんとなにがなんでも結婚したいから、ここはジンクスでも神頼みでも、神隠しでも……あ、いや隠しちゃ駄目だ。
とにかく、ここで二人で観るんだ。
それなのに、この男は~(怒)
「なぁ、茜~!こんな小汚ないとこじゃなくてさ~、キャナルに行こうぜ~!」
目新しいものがとにかく大好きな陸くんは、昭和のシャッター街など微塵も興味がなく、ぶつぶつと念仏を唱えるように文句ばかり並べている。
わたしだって、好きでこんなさびれたところにいるわけじゃない。
陸くんと結ばれたいから、あの手この手と色々やってるんでしょお。
はあ、わたし……なんで陸くん好きになっちゃったんだろう。
デートにはいつも遅刻して来るし。
LINEの返事は次の日の朝だし。
電話してても観たい配信が始まると電話切られるし。
すぐ他のかわいい子に目移りするし。
気づいたらわたしをほったらかして、すぐいなくなるし。
誕生日は忘れるし。
デートの約束しても、友達と遊びに行くって当日にキャンセルするし。
話をしても全然聞いてないし。
ああ、考えたら本当になにもないよぉ。
なんで好きなんだろう。考え直した方がいいのかも。
わたしはずぶずぶと沼にはまりそうな陰鬱な気分になる。
そうこうしてるうちに、映画館に着いた。けれど、窓口には誰もいない。
「茜~、なんか書いてるぞ」
陸くんは窓口の中を指している。
「……映画館へ御用の方は、隣接の喫茶店『未来』までお越しください……」
「なんだそりゃ?わざわざ隣まで行かなきゃなんねぇのかよ。面倒くせえな」
たしかに陸くんの言う通り、面倒なシステムだとわたしも感じた。
見たところ、自動券売機も無いし、そもそもネットで予約もできないなんて、さすが昭和の映画館。
でも、陸くんとの結婚のためには、そんなこと些細な障害に過ぎない。