第23話:薬師寺研究所

文字数 1,800文字

 茉莉宅でガスター達が初めて発光した日、薬師寺研究所ではすぐさま捜索班が出動。しかし微弱な反応だったためレーダーは朧気な位置しか感知出来ず、砂丘の中から一本の針を探すような捜索を夜通ししていた。
 時刻はすでに翌日の夕方。研究所の理事長である薬師寺大二郎も捜索には出ていないものの、捜索班から中継されてくる映像を大型モニターの前で見守っていた。
「ボス、いいかげん帰ったらどうですか。そう簡単に見つからないと思いますよ」
 コーヒーの入ったマグカップを二つ持ってきた主任は気だるげに告げる。彼も徹夜で捜索班のアシストをしていたが、その寝不足のためで気だるげなのではない。この顔と態度はいつものことだった。
「だからボスと呼ぶでない、司令官と呼びたまえ! 心配は無用、こう見えても体力には自信がある」
 大二郎はキリッと断言し、主任から差し出されたマグカップを受け取り一口飲む。
「そう言われても。昨日から一睡もせず横で画面と睨めっこされていると、いつ倒れられるか気が気じゃなくて鬱陶しいんですよ」
「心配するどころか邪険にするとは大した性根だな」
 しれっと毒を吐く主任に青筋を浮かべる大二郎。こんなやり取りもここでは日常茶飯事であったが、周りでそれを見ているスタッフ達は毎回ハラハラしていた。
「せめて社員食堂でちゃんとした栄養摂ってくださいよ。昨晩からコーヒーしか飲んでないじゃないですか。その御老体で栄養不足じゃ、本当にポックリ逝きますよ」
「君は本当に辛辣だな」
 確かに辛辣ではあるものの、口が悪いだけで本心は心配してくれていることに気が付いている大二郎は、青筋を浮かべはするものの怒鳴りはしない。
「まあ確かに武田君のいうことも一理ある。では少しだけ休憩をとらせてもらうとしよう」
 席を立った大二郎の前のモニターに、チカリと小さな光が点滅した。モニターは捜索班の視点カメラ映像と、この街のマップが半々で映っている。点滅はそのマップ部分の一点で光っていた。

「武田君!」
「分かってますよ。捜索班、今また反応を感知した。位置情報を送る」
 モニター前の機器に両手を置き、画面を食い入るように睨んだまま武田主任へ声をかける大二郎。主任は面倒くさそうに通信機器を操作し、捜索班へ情報を伝える。通信機からは“了解”と短い返事が聞こえた。
「……やはり、このデータも確実なものではないのか?」
 ザザッと激しい動きのあった捜索班の映像を見ながら、大二郎が呟いた。
「そうですね。でも改良したので、昨日よりも範囲は絞られていると思います」
 アシストの合間に通信機器の精度を調整していた武田。やる気のないように見えても、実はそれなりに優秀な人材であった。
「そうか。それではもうすぐ見つかるだろうな」
「なんでもう一回座り直すんですか。さっさと食堂に消えてくださいよ。万が一進展があったら嫌々連絡しますから」
「私より君の方が休憩必要じゃないかね?」
 汚物を見るような視線をむけてくる部下に、大二郎はハァと溜息を吐きながら肩を落とした。

『ぎゃあああああっ!!』
「何事だ!?」
 主任に追い立てられ背後のエレベーターへ向かい始めた大二郎は、通信機器から聞こえて来た叫び声に振り返る。モニターには数人の捜索スタッフが、それぞれ大きなカラスに襲われている映像が映っていた。
「……何やってんの?」
『とっ、とある公園に来たのですが、突然かっカラスの集団に襲われましたぁ!』
「へー」
 襲い来るカラス達から身を守りながら慌てふためく捜索班達。そんな彼らとは対照的に、武田は特に興味はないとでもいう風な薄いリアクションだ。
『ぎゃあああああっ!!』
「今度はなんだ!?」
 カラスに襲われている捜索スタッフとは別のスタッフから悲鳴があがると、大二郎の額に深い皺が刻まれた。武田が確認のために映像を切り替えると、一人のスタッフがモコモコした何かに襲われている最中であった。
『たったぬきぃ!たぬきに襲われていますぅ~~~~!可愛いけど痛っ、痛いですぅ~~~~!!』
「それ、あらいぐま」
 あらいぐまに飛びつかれ、噛みつきやら引っかきやらの攻撃を受けているスタッフを武田は冷静に訂正。その突っ込みに大二郎も賛同の頷きをしていた。
『これが生あらいぐま!? ラスカルぅ~~~~~!!』
 歓喜とも受け取れる悲鳴をあげながら襲われ続けるスタッフを、大二郎と武田は無表情で見守っていた。
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