第二〇話 この世に光はただ一つ
文字数 3,480文字
宰相さんが約束してくださいました。ひとまず、来期から兵士さんたちが使用予定の鋼鉄製ロングソードを160本卸して欲しいということです。ただし求めるロングソードは、100回以上のモンスターとの戦闘に耐えうる製品であることが不可欠だという話でした。もし不良品が混じっていたりすれば、指定業者を閉め出される可能性もあるんだそうです。
人間が組織を作れば、どこだってそうなるでしょ。だって教皇庁なんて、王国政府とは比較にならないくらい、もっとすごいからね。そもそも莫大な資金力がなくちゃ、教皇になれるはずもないの。ぶっちゃけ、なかの人たちの地位は、上納したお金の額に応じてだいたい決まってきてるわけ。世の中マネーでしょ、マネー。
いちおう王国政府には、庶民が申し訳程度に意見を述べることができる議会が用意されている。だから納税する市民を無視して、ハチャメチャな取引とかまではできないわけよ。指定業者なんてまだまだ健全よね。でも教皇庁には監視機構なんてそもそも存在してないし、国が必死で無理やりお金を集めているのと違って、勝手にお金が溢れてくるみたいなものだから~。
あー、私も早く教皇になりたいわぁ。
王国兵は治安維持とかが主要な任務だけに、国全体で2000人くらいいるわけでしょう。だけど教皇庁が抱えてる戦闘員って数が限られてるのよ。諜報とか暗殺とか破壊工作を担う戦闘技術のエリートは、20~30人もいれば十分だからね。
フフフ、私が圧倒的一番だったのよ。教皇庁で養成されているエリート戦闘員は、組織のなかでは強い順にナンバーが割り当てられて呼ばれるわけ。それが作戦時のコードネームになるの。
8歳のころには、すでに私はナンバーナインと呼ばれていた。
勇者パーティーに送り込まれる前は、ナンバーいくつだったと思う?
歴戦の先輩たちも、誰一人として私には絶対に敵わないわけ。私が本領全開で向き合えば、並み居るエリート戦闘員たちが集団で襲いかかってこようとも、小指一本すら触れられないの。
ああ、たまには敗北の味を知りたいわぁ。
そりゃあ、世界に神は一つで十分でしょう。2つの神が存在したら、マネーの流れが2分割されてしまう。5つの神が存在したら5分割。100の神が存在すれば100分割。だからこそ、出る杭はとっとと打っておくのが教皇庁の基本方針なわけよ。
バカなのかしら?
損得勘定を基軸にして、ロジカルに、リアリスティックに思考しなさい。村を滅ぼして、だいたいモンスターに何の得があるのよ。人間がそこで生活を営んでいたほうが、モンスター側だって食料にありつきやすいとか、様々な恩恵があるんだけどね。
……古代史を勉強したときに知ったんだが、昔存在したはずの数多の神々が、今では悪魔ということにされてしまってるんだよな。まぁ悪魔のなかにも愛嬌があったり、人に善をなすものも交じってたりと様々なんだが、なんだかなぁって気分だったよ。これがレッテル貼りというものなんだろうが。
天界?
天とか付いてるから、なんか偉そうに聞こえるだけでしょ。
それだって人間が勝手に名付けたわけだし、もともと1000年前は魔界とそれほど代わらぬ無法地帯だったらしいわよ。だけど、新しい教典を掲げて勃興したばかりの教皇庁が、当時かなり手練れとして知られていた戦闘員7人を派遣して、一気に制圧したのよね。だから天界っていうのは、要するに教皇庁の実質的な植民地みたいなものなのよ。あこがれの大地ってイメージが流布されているけれど、実際には何もない土地だし、先住民族は鳥から進化したとされる翼人が質素な文明を営んでいるだけで、本当に移住したがる人間は別にいないわよね。私も何度か作戦で派遣されたけれど、どこまでいってもただの森よ。