第9話 物とのおつきあい

文字数 1,725文字

 時間の取れる方は、親の生前整理(←この言い方も機嫌を損ねる危険があるので要注意)にはゆっくり丁寧に付き合ってあげるのが良さそうです。
 強制的に捨てさせると、それを自分への否定と感じ、うつを発症してしまうケースもあるのだとか。ちょっとずつ段階を踏んで進めていった方が安全です。

 プロの整理業者さんに頼むのも、場合によってはアリ。カビがひどい家の場合、呼吸器をやられるケースもあるそうです。業者さんによってはかなりのお値段だそうですが、健康には替えられないでしょう(※良心的な値段設定の業者さんもあります。よく選びましょう(笑))。
 そこまでカビだらけになることがあるの? と思う方もいらっしゃるでしょうが、高齢者の場合、視力の問題で汚れが目に入っていないということも多々あるようです。

 K家の場合は、もちろん私たち夫婦が作業しました。
 義両親はこの時を含めて複数回の引っ越しをしていますが、そういえば二度目の引っ越し作業の時にはカビや埃の飛び交う中に、赤ん坊だった息子を寝かせていました。
 あれは危険だったなあと、今になって反省しきり。幸い、息子には何の異常もありませんでしたが、親が作業をするときにはやっぱり他所に預けるべきでしたね。

 一度目の引っ越しの時はとにかく物が多くて驚きました。K家とて収集日が来るたびに一定量のゴミを出していたはずなんですが、それ以上の整理はしたことがなかったんでしょう。義父にそれとなく聞いたら、年末の大掃除等もやったことがないようでした。

 一番驚いたのは、義父が自宅の庭を掘り返して古い自転車などを「発掘」し始めたこと。
 本や古着などがどんどん出てきます。自然に土に還るものではありませんから、ただ湿った状態で現れます。
「これ、いつか掘り返して使うつもりだったんですか?」
 義父にそう聞きましたが、はっきりとは答えてくれませんでした。どうもK家では捨て方が分からない物については「とりあえず埋める」という方策を取っていたようです。

 出土品を見ていて、私は怖くなりました。この勢いで死体まで出てきたらどうしようかと思って……。
 さすがにそれはありませんでした。は~、良かった(笑)。

 もちろんこの後、私とK君が徹底的に分別して、粗大ごみ料金などを払って処分しました。K君も「うちって本当に捨ててこなかったんだな~」と作業をしながら深いため息。

 物との付き合い方一つとっても、他家のやり方ってけっこう衝撃的です。あまりに価値観が違うので、私はなかなか義両親の心情を理解できませんでした。
 この後も義両親の部屋の整理は何度となくやりましたが、そのたびにトラブル続出でした。本人に了解を取って捨てたはずなのに、
「つばめさんが捨てちゃった~!」
 と後で泣かれることもあります。そんなときは、私ってやり過ぎちゃったのかなと反省するばかり。

 ゴミ屋敷の住人は、ゴミの中で暮らすのが幸せなのかな?
 などと、大真面目に悩んだこともあります(笑)。だけどこれは違うようです。片付けられない人ほど、物の管理ができない人ほど、本当はきれいな空間で、お気に入りの物だけに囲まれて暮らしたいんですね。だけどその理想があまりにも遠くて、自力ではたどり着けないのです。

 K家があまりに極端なので、私たちは物との付き合い方を真剣に考えざるを得ませんでした。
 長年の習慣はなかなか変えられるものではありません。捨てる決断をしてこなかった人が、突然やれと言われても無理というものでしょう。物との付き合い方は、筋肉のようにちょっとずつ鍛えていくものかと思います。
 
 私たち夫婦も、何を持って何を捨てるべきか、価値観が完全に一致しているわけではありません。だけど時に衝突はしても、私たちなりの暮らし方を模索していけばいいと思っています。これも夫婦のコミュニケーションです。

「ここのCD、ちょっと減らさない? もうCDで音楽を聴く時代じゃないしさ」
 などと私が言えば、K君もすかさず言い返してきます。
「つばめだって、最近は着物とか着てないじゃん? その桐たんす、邪魔なんだけど」
 うーむ。お互い様ってことですね。
 物とのおつきあいは、奥が深いなあと思うのです。
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