第66話  拒否反応の無い男 2

エピソード文字数 2,260文字

ここ。ほら近いでしょ?

 正直、住んでるマンションまでは教えたくなかったが、今日の魔樹の対応を見るなり、こいつならいいか。そう思った。



 あっという間の護衛任務完了だな。さっきの公園から五分もかかってないし。

 それでも魔樹にとっては納得出来るはずだ。

だけど、ここは親戚の家だから。

本当は違う場所に住んでて、居候って身だけど。あんまり迷惑かけたくなくて

 これはしっかり伝えておかねば。
分かりました。今日は長々とお付き合いさせてしまってすみませんでした

いえいえ。とりあえず今度は土曜日ですね。

その日に喫茶店のメンバーに伝えましょう

はいっ。そうします。

ですが……楓蓮さんも竜王さんの事で何かあればすぐに教えてください

 俺はうんうんと頷くと、そこで会話が止まる。


 どちらも「さよなら」とは言わないままだったので、俺はふとこんな質問を投げかけていた。

そういえば、魔樹くん。


今日のあなたは喫茶店にいる時と全然違いますよね

 魔樹の人格がコロっと変わってしまうのは、蓮で知っているが……

 今回の変貌ぶりを見てしまっては、楓蓮でも疑問をぶつけざるを得ない。


 普通なら突っ込み所満載なハズなのだ。

 いや、逆に疑問に思わなければおかしい。


……やっぱり。変。ですよね?

 蓮に対しては「二重人格」とハッキリ答えていたが……


 急に顔を地面に落とした魔樹は、中々答えようとはしなかった。

クネクネしてて女の子みたいな魔樹くんもいれば、今のように……有事にはとっても頼りになる感じにも見えた。


どっちが本当なのかなって

 魔樹は先程のように口を紡ぎ、とうとう俺から目を逸らした。


 やはり。相当いい難い事なのかもしれない。

 暫くしても喋ろうとしない魔樹。


 見かねた俺は「やっぱいい」と質問を取り下げようとした。

 そのタイミングで魔樹は顔を上げるのだった。

楓蓮さん……

楓蓮には二重人格とは言わないんだな。


ってか何だその顔。今にも泣きそうじゃねーか

あの……楓蓮さん。僕の家族はあなたを凄く歓迎してます。


美優だってお母さんだって。じいじだって……とても良い人だと思ってます

これからもずっと仲良くしていきたい。

みんなそう思ってます

魔樹くん……
だから楓蓮さんには、本当の事を言わなきゃならない。でも……

 あまりにも思いつめた魔樹に「もういいよ」と口が勝手に開いてしまう。


 とても苦しそうに一字一句を続けるその姿は……

 魔樹の心の奥底にある大事な部分を、えぐっている感じさえしたのだ。

そんな思いつめて告白しなくても大丈夫だから、いい難いことは、言わなくてもいいから。

ごめんね

いえ。謝らないといけないのは僕の方です。

その質問に、的確な答えをあなたに伝える事が出来ないのが……

 楓蓮にはとても紳士的に振る舞い、気を使ってくれているのがよく分かる。


分かった。その事にはもう触れない。

可愛い魔樹くんもいれば、とっても頼りになる魔樹くんもいる。私はそれで納得するから

 そう言うと、魔樹は何故か顔を地面に落としてしまう。 


 やはりこの質問は、魔樹にとって変な部分に突き刺さっている

魔樹くん。あなたの気持ちは分かった。もう聞かないから。顔をあげて

……楓蓮さん。


あなたには……正直に喋る日が来ると信じてます

魔樹はそう言って振り返ると、そのまま帰ろうとするのだ
待って!
 歩くのはストップしたが、魔樹は振り向かなかった。

私も白竹さん家には凄くお世話になってる身です。

だから今後とも仲良くしたいと思ってます

楓蓮さん……
 正直な気持ちだ。

 仲良くしたいのはこちらだって同じなんだ。

 楓蓮を守ろうとするその気持ちに嘘偽りはないし、普通尾行してまで護衛なんてしないだろ。


 まぁでも。お前がさ、意外と熱い奴で良い奴なのはよ~く知ってる。

 蓮にはあまり心を開いてくれない魔樹だが……


 それなら……

仲良くしよう。魔樹くん。

 魔樹だけは……特別だ。


 お前は絶対に、いい奴なんだ。

もちろんです。楓蓮さん……

楓蓮さんには全てを打ち明けてもいいのかもしれない。


だけど……やっぱり怖い。

この体のこと。分かってもらえる自信が……ない。

 だけど。俺には……


 楓蓮と蓮が同一人物だと告白する勇気がない。

蓮でも楓蓮でも、魔樹を知れば知るほど……仲良くなればなるほど……


己の正体を明かすのが怖くなる。


お前がいい奴だと思えば思うほど……

 今はそんな事を考えるな。目の前で何を悩んでるんだ。


 はしょりすぎだって。

今度また妹を連れて、ご飯食べに行きますね。
はい! 勿論来て下さい。待ってますから

 そこには今までのあいつとはかけ離れた、柔らかな笑顔を見せてくれた。

 蓮では絶対お目見えしないような自然な微笑に、暫く目が離せなかった。


 

 ※


 魔樹が帰るのを見届けてから俺は家に向かう。


 ふとその時、さっきのあいつの笑顔が脳裏に浮かんだ時、俺は別のことを考えていた。


 魔樹の笑顔ってさ……なんというか、男とは思えないような感じなんだよな。

 心の中が男である俺にとって、こちら側が照れてしまうような、そんな顔をするんだよ。

あっ……
 そういえば……魔樹とあんなに喋ったのに、今更ながら気づいた。


 楓蓮で喋ってても、何の違和感もなかったことに。




 

 中学校の頃から、楓蓮で男と喋ると、必ず「異性として見られている」といった拒否反応が出るのだが……魔樹に限っては……感じられなかった所か、今の今まで気がつかなかったのだ。



 何故だろう。あんな奴。初めてかもしれない。


なんだか……魔樹って不思議な奴だな。

――――――――――――――


次回。竜王さん対策会議。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色