在学編まとめ

文字数 7,216文字

 ある田舎に青蓮寺焔(しょうれんじほむら)という普通の高校二年生がいた。普通と言っても、チビで不愛想なのだが……そこはご愛嬌ということで。

 同じクラスには二人の幼馴染もいた。一人目は原田龍二(はらだりゅうじ)と言い、かなりのデ……巨体である。昔から焔とは仲が良く、いつも一緒にいる。二人目は東雲綾香(しののめあやか)と言い、美人で人当たりもいいため、学校の人気者である。同じクラスのイケメン立花蓮(たちばなれん)と付き合っていると焔は思っている。だが、それは毎回毎回綾香が焔の話をしてくるので、その腹いせで焔についた嘘であったのだった。


 レッドアイ……女子高生だけを狙う凶悪犯である。殺しはしないが、襲われた女子高生にはとてつもない恐怖とともに体や顔に一生消えることのない深い傷をつける。レッドアイが現れるのは決まって田舎であった。

 そして、焔たちが授業を受けているときだった。突如としてレッドアイは焔たちのクラスに現れた。赤い目、黒の装飾、そして白い仮面。当然、皆は逃げた。焔も逃げようとしたが、視界にふと綾香が映った。綾香は恐怖のあまりに席から立ち上がることが出来ずにいた。そして、泣いていた。

 その時、ふと焔は思い出した。昔にした綾香との約束を。それは綾香が中学の頃、父親を病気で亡くした時の記憶だった。

「約束だよ、焔。もし私が泣いていたらその時だけは助けてね」

 今では人気者の綾香であったが、昔は根暗で本を読むことが大好きな少女だった。それゆえ、中学に入ってからは友達が出来ず、いつも焔に助けてもらっていたのだ。父が死に母も働き始める。綾香も弱かった自分を変えたかったのだ。だから、もう泣かないと決意したのだ。

 そんな綾香が最後にこの約束を焔と交わした意味とは……レッドアイがナイフを振り上げたとき、綾香は何かを思い出したように焔の方へ振り返る。泣きじゃくりながらも、綾香は必死に笑って見せた。

 その時、焔の中で何かが弾けた。気が付けば焔はレッドアイに飛び蹴りをかましていた。後ろの扉は開かない。携帯もつながらない。窓から飛び降りようものなら無数の針で刺される。そんな中、焔が考えた作戦は休み時間が始まるまでの約40分間レッドアイの攻撃を防ぎ続けるというものだった。龍二から刃渡りの長いハサミをもらい、レッドアイと対峙する焔。

 最初はその作戦を嘲笑ったレッドアイであったが、焔の目から『覚悟』を覗き見れたため、その考えを改めた。そして、自身がなぜレッドアイになったのかを語った。

 正義感のある娘だった。それゆえに、いじめっ子の標的になってしまった。最終的に娘はクラスメイト全員からナイフで切り付けられた。自分が助けた子にもナイフで傷をつけられた。脅され通り魔にやられたと警察には話した娘であったが、父であるレッドアイには本当のことを話した。娘が家に引きこもっていた本当の理由を知った父は女子高生たちを憎んだ。この世の全ての女子高生たちに娘と同じ苦しみを味合わせるという、狂った考えに至ったのだ。

 それを聞いた焔は『倒す』という思いよりも『止める』という思いの方が強くなっていった。レッドアイは元軍人でもあったため、当然焔よりも強かった。だが、なぜかレッドアイの攻撃は焔の肉体には届かなかった。

 その戦いを隣の棟の屋上から見つめる二つの影があった。その二人とはシンという猫目の男と、レオという筋肉質の男であった。

 二人は脳のリミッターが外れていること、そしてレッドアイの初動とほぼ同時に動き始めることが出来るほどの反射神経を焔が持っていることに気づいた。5分が経った頃、焔の体力は限界をつき、レッドアイからナイフで切り付けられるも、なんとかレッドアイを後ろに退けることに成功する。だが、もう焔が戦うことが出来ないのは誰の目から見ても明らかであった。

 トドメを刺そうとした時であった。急にレッドアイのすぐ後ろの窓が割れた。その時、一瞬だけレッドアイの意識がそれた。焔はその隙を逃さず、一瞬でレッドアイの間合いまで詰め寄り、渾身の一撃を撃ち込みレッドアイの目論見を止めることに成功した。そして、同時に焔もその場で力尽きた。レッドアイは逮捕されたものの、焔はレッドアイの無念を晴らすべく、警察にレッドアイが女子高生を狙っていた動機を話す。それから、いじめっ子たちは少年院へと送られ、焔は無事レッドアイ、そして娘の無念を晴らした。

 そして、レッドアイとの戦いから1週間後、焔のSNSに一件のメッセージが送られる。そこにはこう書かれていた。

     ありがとう。お父さんを止めてくれて。もう一度、立ち上がろうと思います。

                                 親バカの娘より

 そして、そこにはある写真が載せてあった。20人ぐらいの女子がカメラに向かって、ピースポーズをとっていた。涙を流している子、目が赤い子、涙痕が残っている子がいる中で、顔に傷跡がある少女だけは、カメラに向かい飛び切りの笑顔を向けていたのだった。


 レッドアイを倒したと言うことで少し人気者になった焔であったが、変わったのはそれだけではなかった。身体能力があり得ないほど上がっていたのだ。だが、その半面、体力の消耗もとんでもなく早くなってしまった。

 そんな焔の前に地球外生物対策本部なる組織を名乗る者が現れる。それがシンとレオであった。最初はそんな組織など信じなかった焔であったが、一瞬で富士山山頂に連れていかれたため、組織の存在を信じた。だが、なぜ自分がそんな組織にスカウトされたのだの、自分では足手まといだのとグチグチ弱音を吐き始めた。常に笑みを浮かべているシンだったが、そんな焔にしびれを切らし声を上げる。そして、

「俺が君を推薦した理由はただ一つ。レッドアイという自分よりも格上の相手にも臆することなく、友を守るため、命がけで立ち向かうことができる強い男だからだ。大丈夫。身体的な面や技術的な面は俺がみっちり鍛える。だからどうか俺たちの力になってくれ。俺たちには……君が必要なんだ」

 その言葉を聞いた焔は昔の『ヒーローになりたい』という夢を叶えるべく、組織に入ることを決意する。だが、シンは一つ嘘をついた。理由はただ一つと言ったが、実はもう一つ理由があったのだ。それは丹波正人(たんばまさひと)という男……焔はその男の息子だったのだ。

 組織に入ると言っても、実際は高校卒業後の4月頃に行われる試験に合格しなければならない事実を知る焔。そして、これから2年間に及ぶ地獄の特訓が始まるのだった。焔はシンによって様々な特訓を課せられた。そして、特訓の際は人工知能であるAIによって色々なサポートをしてもらいながらも焔は着実に成長していった。

 そんな焔に異変を感じた龍二と綾香。二人は焔を尾行し、特訓現場を突き止める。そこではシンが無茶な特訓を焔に課していたのだ。それを見た龍二はシンに向かって啖呵を切るが、シンの思い、そして焔の思いを知った龍二と綾香は自分たちもまた本気で夢を叶えるべく、焔と同様に走り出した。(ちなみに龍二の夢は金持ちで、綾香の夢は司書である)


 夏休みも終わりに近づき、焔は龍二と夏祭りに出かけた。そこには着物姿の綾香と同じく神林絹子(かんばやしきぬこ)という同じクラスの女子もいた。絹子はあまり表情を見せない不思議な子であった。

 その時から絹子と話すようになった焔。体育祭の時は二人三脚で足をつった絹子をおぶり、1着でゴールしたり、弟のいじめっ子から絹子と弟を救ったりとかなりの活躍を見せた。まあ、弟のいじめっ子を懲らしめた時は銀次という男も関わっていたのだが、そこは置いておいて……とにかく、このことがきっかけで絹子は焔の前ではかなり表情を見せるようになったのだ。

 あくる日、焔は生徒会室に呼び出された。生徒会には会長の福本鈴音(ふくもとすずね)という、とても明かる三年生と副会長の松田翔平(まつだしょうへい)という、とても真面目な一年生の二名しかいなかった。焔は体育祭での活躍を見込まれ、文化祭のイベントの盛り上げ役を頼まれたのだった。その内容は鬼ごっことドッジボールであった。焔はその役目を承諾した。そのことがきっかけで生徒会の二人とはよく話す仲になった。

 文化祭が始まり、焔は自分のクラスの出し物であるカジノでディーラーをしていた。そんな最中、一人の少女が焔の元へ訪ねてきた。顔に傷がある少女……名は武田咲(たけださき)、レッドアイの娘であった。焔は咲と花札をしながら色々な話をした。焔が咲から送られてきた写真を宝物にしているという話や、レッドアイが刑務所から出るにはまだまだ時間がかかることなど。そして、最後に咲は焔の頬にキスをし、嵐のように去っていった。

 そして、次に出会った人物は焔、綾香、龍二の幼馴染であった冬馬(とうま)であった。気さくに話しかけてくる冬馬であったが、焔たちは驚きを禁じ得ないでいた。冬馬は車いすに乗っていたのだ。

 中学に上がると同時に引っ越した冬馬は小さい頃の夢であった医師になるべく勉学にいそしんでいた。だが、夏休みのある時、冬馬はトラックにひかれてしまった。少女を救った代償として、冬馬は歩くことができなくなってしまったのだ。

 冬馬と屋台を回る焔たち。そんな冬馬をある不良グループが嘲笑った。冬馬は笑いながら謝ったが、焔の怒りは限界に達していた。

「冬馬はな、苦しみにも負けず、前向いて歩いてんだよ!! お前らよりも何十倍、何百倍も必死こいて毎日生きてんだ! そんな人間を馬鹿にする資格なんてお前たちにはない!!」

 焔の必死の叫びも虚しく、不良たちは殴り掛かってきた。しびれを切らした焔も全力のパンチを相手の顔面目掛けて撃ち込もうとするが、シンによって阻止された。

 その後、シンによって焔はある提案を受ける。冬馬の脚を治しはするが、もし焔が2年後に行われる試験に落ちれば、再び冬馬の脚を歩けない状態にするというものであった。焔はその提案を受け入れた。そして、友の運命を背負った焔はますます特訓に身を投じるのであった。

 文化祭も佳境に入り、最後のイベントである後夜祭が始まった。様々な催し物が開かれる中、副会長から会長の姿が見えなくなったとの連絡が入り、焔も探しに出る。倉庫内で疲れ果てて眠っていた会長を見つけ、保健室へ行こうと提案する焔に、会長はもう歩けないからお姫様抱っこをしてほしいと焔をからかう。だが、焔はすんなり引き受け、保健室まで会長をお姫様抱っこしながら運んでいく。

 その時、会長は初めて気づいた。焔に対し抱いた感情が恋であることに。

 文化祭が終わってから、会長は毎日毎日放課後、焔の元へ訪れた。だが、焔はシンとの特訓があるため、毎度毎度すぐに帰ってしまう。そんなある日、シンが気をきかせて休みの日を焔に与え、焔は会長とのいわゆるデートに合意した。焔は別にデートとは思っていなかったが……。

 そして、焔と会長は休みの日に遊園地へと遊びに行った。絶叫系が大好きな会長と特に苦手な乗り物のない焔は余すことなく遊園地を楽しんでいた。そんな最中、痴情のもつれから、ある女性が刃物を取り出し、男性に突き刺そうとしている現場に遭遇。だが、いち早く止めに行った焔により何とか事なきを得た。

 そこで何だかんだあって、もう、一つのアトラクションしか乗る時間がなくなってしまった。最後に会長が選んだのは観覧車であった。その時、焔は会長に初めて語った。自分の夢を。だからこそ会長は理解した。焔がなぜいつも遠くを見据えているのかを。そして、会長は決意した。焔の夢が叶うまで、自分の気持ちを心のうちにとどめておくことを。


 そして、時は過ぎ焔たちは修学旅行で、東京へとやってきた。龍二、綾香、絹子の三人と行動していた。綾香と絹子が店の前で並んでいると、変な輩に絡まれてしまった。だが、そこに偶然、女子空手チャンピオンである野田茜音(のだあかね)が通りかかり、見事変な輩を追い払った。だが、焔たちを見送った時だった。背後から先ほど綾香たちに絡んでいた輩の一人が茜音に襲い掛かる。しかし、焔がその輩を一瞬で撃退する。その身のこなしと一撃の重みからとても素人とは考えられないと思った茜音は尾行を開始する。

 そこで、焔がある小学生を助けた時に見せた人間ならざる身体能力を確認し、なぜか焔のことを宇宙人であると決めつけた。その言動から茜音も自身と同じように組織からスカウトされているのだと焔は確信したのだった。後に、龍二のことを馬鹿にされたのがきっかけで、一戦交えそうになったが、それはシンによって阻止された。


 レッドアイの娘である咲とは、文化祭の時に連絡先を交換して以来、ほぼ毎日連絡を取り合っていた。学校からの帰り道、咲はいつものように焔にメッセージを送っていた。その時だった。道の傍に止めてあった車から咲を捉えようと複数の男が飛び出してきた。早々に危機を察していた咲はすぐに逃げ出したが、振りきることはできず捕まってしまった。だが、捕まる最中、咲は焔にあるメッセージを送っていた。


『たすけて』


 車の中で無理やり下着姿にされてしまった咲。これから起こることは容易に想像できた。目をつむり、心の中で再び焔に助けを求めた時だった。急に車が止まった。なんと、車の目の前には焔がいたのだ。焔は車に乗っていた者たちをいとも簡単に撃退した。一人はあまりの焔の剣幕に恐れをなし、完全に戦意を消失してしまった。その男から咲をさらった真相を聞いた。

 なんでも、咲をいじめたグループの主犯である女、名は香奈という。その香奈が彼氏である虎牙(たいが)に頼んで今回の騒動を起こしたことが判明した。話を聞いた焔は根を断つべく虎牙たちが待っている町はずれの工場に単身乗り込んだ。中には虎牙と香奈、そして30人余りの不良どもが待ち構えていた。

 虎牙や不良たちの煽るような言動、そして咲をこの人数に相手をさせる……そこで焔の怒りは限界値を突破した。30人余りに不良たちを一人で相手し、完全無傷で全員を倒した。最後に虎牙と対峙した焔は虎牙の過去のことについて尋ねる。事前にAIから虎牙の過去のことについて聞いていた。虎牙は昔空手をしていた。中学の頃にはかなりのところまで行ったらしい。だが、女子生徒を襲ったため虎牙の空手人生はそこで終わってしまった。

 しかし、この話には偽りがあった。本当は虎牙がドンドン強くなっていくことに嫉妬した者たちが虎牙を陥れるために女子生徒を脅迫し、嘘の供述をさせたのだった。自暴自棄になった虎牙はこうして不良に成り下がってしまったのだ。この話を聞かされた焔は鼻で笑い馬鹿にした。当然、虎牙はキレる。

「お前に何が分かるんだ!! 俺の痛み、苦しみ、怒りが!! 人生を滅茶苦茶にされたんだぞ!! 俺の好きだった空手も奪われたんだ!! この苦しみがお前なんかにわかるもんかよ!!」

「だからって、お前が他人を傷つけていい理由なんて1つもありゃしねえだろ!!」

 その力強い叫びに虎牙は何も言い返せないでいた。そして、更に焔は続けた。

「自覚しろ!! あんたはもうガキじゃねえだろ? 1人で立て!! 前を見ろ!! 自分は不幸だからと、他人の幸せを羨み、妬み、奪う。お前のやってることは過去にお前をハメたやつとおんなじだ」

 そこで焔は初めて虎牙に自覚させる。今までやってきたことは過去に自分がされたことと全く同じことなのだと。抑えようのない、どこにも行き場のない感情が虎牙の中で渦を巻く。焔も同様に咲に恐怖を与えてしまったことに腹を立てていた。それは虎牙たちにではなく、もっと早く助けることが出来なかった自分自身に。

 焔と虎牙は殴り合った。自分たちの感情をぶつけあうように。虎牙の方が圧倒的に大きかったし、空手をやっていたこともあり、焔より技量はあった。だが、結果は焔の勝利に終わった。虎牙との戦闘で焔は傷を負ったが、虎牙はもう立ち上がることが出来ないほどにボコボコにされていた。しかし、虎牙は全く苦しそうにはしていなかった。逆にどこか気分が晴れたような顔をしていた。

 後日、焔に電話が入る。咲からの電話であったが、なぜかそこには虎牙がいた。わざわざ咲のところまで行き、謝罪をしたのだそうだ。そして、焔にも謝罪し感謝を述べたかったのだと虎牙は語った。

 この恩は必ず返す。そう口にした虎牙に焔は待てないと言い、慌てふためく虎牙に一つだけ頼みごとをする。

『咲を守ってやってくれ』

 一方的に虎牙に願いを押し付けると、焔はさっさと電話を切ってしまった。虎牙はもう一度チャンスをくれたのだと悟り、焔に恩を返すべく奮起するも、咲に金的蹴りを食らい早々に心が折れてしまいそうになるのであった。


(60話から63話は完全ネタ集なので割愛)


 それから目立った事件などもなく、無事焔は卒業式を迎えることが出来た。龍二たちは同じ大学に進むことになったが、焔だけは自身の進路を明かしていなかった。だが、龍二たちは焔が目指しているものを知っていたので、深くは追及しなかった。そして、焔たちは別々の道を歩むことになった。自分の夢を叶えるべく進みだした龍二、綾香、絹子たち。

 焔も自分の夢を叶えるべく、人生最大の挑戦となるであろう地球外生物対策本部の試験へと向かって行った。
 
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