10 残された人々

文字数 1,770文字

 ユティの悲しみは、深い。
 もちろん、ほかの残された人も。
 リダンの部屋にあったのは、開いた窓と、誰もいないベッドだけ。
 ルウィンラーナの住人は、七人になってしまった。
 時間だけが、流れていった。
 
 みんなの心に、もやもやが広がっていた。何か話し合わなくちゃならないことは、わかっていた。
 
 ユティが、またみんなと一緒に食事をするようになったころ、それは起こった。
「おい、今さわったろ」テッダがアノネに言った。
「いや」
「肩にぶつかったじゃないか」
「だから?」
「あやまれよ」
「やだよ」
「何だと!」
 バシャン、とスウプ皿が投げつけられた。
 アノネはスウプまみれ、床には破片が飛び散って、テッダは顔が真っ赤だ。
「やるぞ」
 さあ、けんかだ。こんなつまらぬ理由で。みんなが、あわてて止めに入った。
 部屋はよごれ、パムが飛びかう。
 ユティは、逆に、これで元気が出てきた。
「いけテッダ。髪の毛よ! アノネ! あああ、腕、腕をやっちゃえ!」
 リークルは、この中で一番小さかったけれど、こんなことになった原因が、よくわかっていた。それで、みんなが二人を引き離した時、あの変なしゃべり方で、叫んだ。
「みなさん、こうなったのも、大切なことが解決されていないからであります。今日の午後、会議を開くのです。わかる?」
 彼の兄のロークルが、吹き出しながら、
「賛成!」と言った。
 ほかのみんなは、ぶつぶつ言ったのだが、その夕方には、全員が集まった。
 
「リークル。君が提案者だ。議長もやってくれ」ボージャーが、言った。
「わかりました。ではテッダ。われらにふりかかった謎の解読と、それにまつわる良くないできごとについて、意見をどうぞ」
「おれはさ、だから最初から言ってるんだ。やめちまえってさ。謎の解読なんか。そうすれば元どおりなんだ」
「元どおりだって?」
「何だと。またやるか」
「まあ、けんかはなしです。では、次にアノネさん」
「今、テッダは元どおりと言ったけど、やめたって、旅行者も館長も女史も帰ってきやしないぞ」
「そうかな。これは悪い夢だよ。あしたあたり、消えた人たちがそろって帰ってくるかもよ。この前、リダンが、おはよって帰ったみたいにさ」
「じょうだんでも、そんなふうに言うのはやめて!」ユティが叫んだ。
 テッダは、だまった。
「ボージャー、あなたどうです?」
「ぼくは、最初はテッダに賛成だった。この問題には、かかわらない方がいいとね。でも、ここまで来たら、ここまで深くなったら、もうやめることなんてできないよ。何でもね」
「できるさ。ただ、やめればいいんだ」
「無理だ」
「やるんだ。できるぞ!」
「テッダ……」
「うるさい! わからず屋ども!」
 テッダ自身、もう手を引くことはできないと感じてはいたのだ。だからよけいに、彼はいらだってしまう。
「ぼくらは、ある意味でずるいんだ」
 ロークルが言う。
「しなくちゃならないことがあるのに、ここでぐずぐずしている。仲間が消えるのは、いつもここでなんだから。代わりに、ぼくたちが助かってる」
「わかる気がするな」のっぽのノールだ。
「人数がへったと言いながら、新しい人が来ると、そのリダンを、ぼくたちは旅に出してしまった。結果はこのとおりだ」
「つまり何だ。おまえは」
「はっきり言うよ」
「言えよ。おまえは、おれたちの中から、第三の旅行者を出せと言うのか!」
 テッダは興奮し、まわりの皆は彼を見た。「ハンタイ! ばかいうな。みんなどうかしてる」
 テッダは、自分をおさえきれず、暴れだした。
「よせテッダ」
 両わきから、ロークルとノールが飛びかかったが、だめだった。テッダは、テーブルをたたき、イスをふり回して暴れた。そして、涙を落とした。
 めちゃくちゃの混乱だった。
 何も言わず、ユティは逃げもしない。
 ほかの人は、飛んでくる物をよけたり、テッダを押さえようと懸命だ。
「やあ。みんな、何してるの?」
 その声に、はっとして、ルウィンたちは振り向いた。
 ドアからさしこむ夕陽の中に、人影がぼんやりしている。
 しずむ陽の光とともに、最後の「新しい人」が、こうして現れた。
「おまえ、大変な時に来たな」
 アノネは、そう思った。
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リダン|大陸の旅人

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