銀行

文字数 948文字

 かなり時間をロスした。とにかく、さっきの人だかりのほうへと猫は移動を始めた。
「ウイー!」
 赤色灯を点けた救急車が目の前を通過した。マーカーも移動する。このときほど日本の消防隊の迅速さをうらめしく思ったことはない。

 こうなったら、自宅に先回りしたいところだ。
「追跡先の変更ですか?リセットするしかないですね。レベル0になりますけど、いいですか?」
 ダメでしょ。
「携帯は落としたわけだし、虫歯を治療したこともない。カード類もない。身元が特定できるのだろうか?」
 まだ、死んでから二日しかたってないというのに、僕は不安になった。死体の姿を見たら、皆どう思うだろう。できれば、その前に生き返りたい。

 猫は夜通し移動して病院の前についた。救急搬送となれば街の大きな病院にいくしかないのだろう。どうにかして、中に入れる動物はいないか。見つかりにくいとなれば、虫の類だろう。地方の病院は虫に対してのセキュリティは低い。階段での移動も自由にできる。ターゲットが見つかるまで待つしかない。

「給料日なので銀行に行ってきますね。」
 死神のやつまたおかしなことを言ってきた。
「地獄に銀行ってあるんですか?」
 あせっても仕方ないので、時間つぶしに聞いてみた。
「昔は、地獄のヘル銀行ってのがあったんですが、鬼たちは計算が苦手ですから、倒産しました。今は天国のヘブン銀行一本です。」
「冥銭ってやつですか?」
 さっき通貨のことは聞いた。
「あれは、死者が使います。われわれは役人ですので寿命です。一時期、現世から大量の冥銭がワイロとして送られまして、役人が使うことは禁止されました。銀行は寿命を運用して利益をだしています。」
 また、わからない話になった。
「生まれるときに寿命をもらいます。個々の魂の審査で上限は決まりますが、例えば50年借りたとしましょう。善行をすればポイントが増えて、悪行ならポイントが減ります。50年後に死んだときポイントが寿命換算されます。これ以外に、GPS画像の焼き増しみたいに、直接、寿命をいただくこともあります。ポイントはGPSの鬼たちが、日々、身辺調査をしてつけてます。このポイント制のおかげで、地獄の裁きが早くなりました。いちいち見直しがないですから。」
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登場人物紹介

とりの ぎょくじ(玉子)

中学三年

王女の幼馴染で隣に住む

鉄道オタク

生物の雑学がある

いづみ おうめ(王女)

中学三年

玉子の幼馴染で隣に住む

ヘルパー死神

玉子の担当死神

おっちょこちょい

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