SF・ファンタジー編

文字数 1,290文字

 森林/箱/メタ

 私の家は森林に囲まれた小さな小屋です。
 その森林の外側は「壁」で、その先にはいけません。
 時々「空」がぱかっと開いて、「神様」が大きな顔をのぞかせます。
『何か欲しい?』と聞かれるので、服とか食べ物とか答えます。そしたらそれが降ってきます。
 今度「恋人」というものが来るそうです。



 アブラゼミ/永久磁石/歴史は繰り返す

 近頃めっきりアブラゼミの声を聞かなくなった。
 クマゼミは死ね死ねと鳴くと誰かが笑う。
 氷河期と熱帯化を繰り返して地球の歴史は回る。
 あまたの生き物の生命と運命を乗せた永久磁石。
 くるくるとくるくると回る青い星。
 いつかそれも止まるときがくるのだろうか。



 タンポポ/盾/勇者ご一行

 彼等がそこについた時にはすべてが終わっていた。
 竜の炎で焼き払われた町には命あるものは何も残っていなかった。
 遅かったか、と歯がみする勇者一行の足元の、焼け爛れた地面に、鉄の盾が転がっている。
 そっと広いあげると、その下で小さなタンポポが、悲しそうに揺れていた。



 港/キラキラ/宅配便

 辺境惑星の宇宙港は珍しく人であふれていた。
 半年に一度の地球行きの船がでるのだ。宇宙宅配便も荷物の積み込みに大忙しである。
 レアメタルを産出する荒れ果てた鉱山惑星で働く人々が故郷に送る荷物には、どの箱にも独特のキラキラした粉がついていて、ただそれだけが美しかった。



 国境/交換/ススキ

 満月が煌々と照らすススキの原で銀狐が言った。
『ここは常世と現の国境である。崖から落ちた男よ、お前が帰るためには別の誰かの命と交換せねばならない』
 俺は月を仰いだ。山賊稼業の報いならしかたあるまい。
 だが次の瞬間、俺は崖の下に倒れていた。
 隣で鹿が死んでいた。
 昔命を助けてやった鹿だった。



 夏/切符/子供っぽい性格

 これが切符よ、と、彼女は木の葉を差し出した。
 ハイヒールを脱ぎ捨て石段に登ると、ここがプラットホームよ、と笑う。
 こんな子供っぽい性格だっただろうか。
 呆れ顔の俺を尻目に、彼女は夏の大三角の輝く空に向かい両手を広げた。
 一緒に行ってくれるでしょ? 
 その時、遠くから、長い汽笛が聞こえた。



 虎/シャワー/保証期間切れ

「もしもしペット猛獣販売協会? うちの虎、シャワーを浴びさせたら突然子供に襲いかかろうとしたんですが! 型番はtg2066…」
「ああ、ソレは闘争本能抑制回路の補償期限切れで、修理に1億かかります。新品の虎にお買い換えなら殺処分はサービスしますよ。それとも次はライオンになさいますかね?」



 アヤメ/カメラ/相対性理論

 亜光速の船は宇宙の深淵を行く。
『船』は『彼』であった。
 彼は船そのもの。その目はカメラとして見たもの全てを記録する。
 今、彼の『目』は美しいガス星雲を捉えていた。
 遙か昔に見たアヤメの花に似ていた。
 アイリス、と彼は呟いた。
 それはとうに星屑となった故郷に残してきた、彼の恋人の名前だった。

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