第206話 真のサブヒロインは、千鳥力!?

文字数 3,875文字


 花火が終わりを迎え、俺はそろそろ、混浴温泉であるクーパーガーデンから出ようと、ミハイルに提案する。
 すると、彼はなぜか、ぎこちなく頷く。
「あ、うん……」
 妙に元気ないな。
「どうした? 夏とはいえ、夜の温水プールだ。身体を冷やしたのか? なら、早く『タンスの湯』で身体を温めよう」
 俺がそう促すが、彼は急に慌てだす。
「あ、お風呂ね……」
 どうも、歯切れが悪い。
 あれか? 男同士とはいえ、一緒に真っ裸で大浴場に入るのが、恥ずかしいのか。

   ※

 クーパーガーデンを出て、また玄関で男女が別々になる。
 先ほどの更衣室に向かうため、バラバラに行動せねば、ならないからだ。
 左右に別れた階段を進んで、そのまま、更衣室で水着を脱ぎ、大浴場と露天風呂のあるタンスの湯に行ける。

 行きは疲れたが、帰りはこりゃ楽だ。

「じゃあまたね」
 どこからか、若い女性の声が聞こえてきた。
 見れば、競泳水着に眼鏡の女子。
 北神 ほのかだ。
 リキに別れを告げて、奥の女子専用廊下へと進んでいく。
「うん。ありがとな、ほのかちゃん」
 頬を赤くした力がオーバーに両手をブンブンと振って、別れを惜しむ。


「リキ、結構、順調みたいだな」
 彼の背中に声をかけてみる。
「ああ、タクオ! こりゃ、イケるかもだぜ!」
 拳を作って、はしゃぐリキ。
「だといいな」
「そうだ! 今から俺と一緒に露天風呂へ行こうぜ! マブダチとして!」
「ああ。俺もちょうど、ミハイルと行くところだったんだ……なあ、ミハイル?」
 隣りに視線を戻すと……そこには誰もいなかった。
「なっ!? ミハイル? どこだ?」
 心配になって、辺りを探すが、どこにもいない。
「タクオ、ミハイルのやつなら……ほれ。もうあっちに行ったぜ?」
 リキの指差す方を見れば、階段を物凄いスピードで走り去るミハイルの姿が。
 うむ、濡れた水着の小尻も最高……じゃなかった!
 なんであいつ、逃げていくんだ?
 ちょっと、腹が立つわ。

「まあタクオ。ミハイルもなんか用事あんじゃね? 腹でも壊したとかよ」
「な、なるほど……」
 それなら、確かにあの動揺した姿も頷けるか。
 結構、あいつ。ああ見えて、恥ずかしがり屋だからな。

   ※

 更衣室で、水着を脱ぎ、近くにあった小さなタオルを手に取ると、早速、大浴場に入って見た。
 中はかなり賑わっている。
 おじいさんや親子たちで、ガヤガヤと騒がしい。
 全員フル●ンで、見ていてエグいがな。

 俺は簡単にシャワーで身体を洗い流すと、まずは露天風呂である『タンス湯』へと向った。
 別府の夜景を楽しみながら、塩水で温められた天然温泉らしい。
 たまには、都会から離れた静かな高原で、リラックスしたいからな。

 大浴場を抜けて、露天風呂に出た。

 湯船は全部で、上から4段に別れた構造になっている。
 一段目に屋根があり、二段目から完全に露天風呂。三段目が一番大きく、また足湯も完備。最深部が寝湯になっていて、石造の枕まで完備。
 こりゃあ、日々の疲れが取れるってもんだ。

 俺は迷うことなく、寝湯の方へ降りていく。

 最近、自作『気にヤン』の執筆を追い込んだせいで、肩がかなり凝っているから。
 少しでも肩こりをほぐしたい。

 湯船につかり、仰向けになって、寝てみる。
 枕もいい感じの高さで、ちょうど耳に水が入らないぐらいだ。
「ごくらく、極楽~」
 なんて鼻歌が出るぐらい快適。
 どうしても、身体の力を緩めると、足先が浮かんでしまうが、そんなこと気にならないぐらい、気持ちが良い。

 上を見上げれば、星々がたくさん広がっていて、最高のプラネタリウム。
 前方に目をやれば、別府湾や街の夜景が見渡せる。

 ちょっと、熱すぎるぐらいの温泉だが、半身がどうしても、水中から浮かんでしまうので、濡れた素肌を、前方から吹きつける強い風が、火照った身体を冷ます。
 これはこれで、気持ちが良いものだ。

「来て良かったなぁ」

 と目を瞑って、呟いてみると……。
 誰かが俺の言葉に同調してくる。

「だよな!」

 瞼を開いて、声の主を探す。
 左側には誰もいない。
 じゃあ、逆の右を見てみるか……。

「うなぎぃっ!?」

 水中にうなぎが泳いでいる。

「な、なんだこいつ!? どこから入ってきたんだ!」
 パニックを起していると、大きな手が俺の肩をつかみ、静止させる。
「どこ見てんだよ、タクオ? 俺だよ」
「へ?」
 うなぎの持ち主は、千鳥 力。その人であった。

「ああ……お前だったのか。未知の生命体がこの別府に落ちてきたかと思った」
「ハハハッ、宇宙人なんて信じてんのかよ、タクオってやっぱ変わってんな」
 そう言って、俺の背中をビシバシ叩く。
 いや、確かに君のおてんてんは宇宙人だよ。

 だって、ごんぶとだし、長すぎるし、水中から顔を出すなんて……。


 咳払いして、動揺を隠そうとする。
「お、おほん! お前のって、その……デカいんだな」
 恐る恐る、彼の股間を指差す。
「はぁ? そうか。フツーじゃね?」
 いや、異常だ! 見たことない! 信じたくもない!
 馬並みだ。
「普通ではないだろう。リキ、お前のってさ。何というか、デカいというか、長さもあるし……」
 怖いよぉ!
「そんなに驚くなよ、ハハハッ。タクオが小さすぎんじゃね?」
 比較したことないけど、普通の部類だと思ってます。
「だって、浮かぶか? 普通……」
「え、タクオは浮かばないの?」
 巨乳の人が浮かぶと聞くが、男の話は初めてだ。

「ないよ……」
「そっかぁ。まあ、俺もあんまり温泉とかこねーから、わかんねーや。うちの親父とかも浮いてるしな~」
 家系だってか!

 リキは俺のことなど気にせず、温泉を楽しんでいる。

 だが、ここである疑問というか、不安を覚える。
 ミハイルのことだ。
 彼は幼いころから、リキやここあと一緒に遊んでいたらしい。
 多分、お泊りとかも。
 ならば……ミハイルのサイズも知っておかないと。
 だって、怖いじゃん!

「なあ、リキは……ミハイルと風呂とか、入ったことあるのか?」
「え? ミハイルと? あるよ。近所だし、ヴィッキーちゃんにはお世話になってるしなぁ」
「じゃあ、そのミハイルってお前と同じぐらいの……そのサイズだったか?」
 彼の回答に思わず、生唾を飲み込む。
「うーん」
 しばらく考え込むリキ。
 沈黙が怖い。
「最近は一緒に入らないからなぁ……多分、同じぐらいじゃね?」
 ファッ!?
「そ、そうなんだ……」
 あの華奢な身体で、どうやって、『ガンホルダー』におさめるというのだ?


 と、ここで、また新たな疑問が俺の頭に浮かぶ。
「なあ。ところで、そんなに長いサイズのをどうやってパンツに入れるんだよ?」
「え? 太ももにゴムのバンドで折りたたんでるぜ。普通のことだろ?」
 あっさり、爆弾発言をするリキ。いや、リキ兄貴。
「そ、そうですね。普通のことですよね。普通の……」
 なぜか縮こまってしまう俺だった。

   ※

 長い、長すぎる……なにがって?
 この隣りの野郎のことだよ。
「それでよ、ほのかちゃんのどこがいいかってよ。まず、あの真面目そうな顔とは反したワガマボディ! それに眼鏡の奥からたまに見える鋭い眼差し。あと、毎回制服着てくるというこだわり! たまらねぇよな! あとさ、気づかいもできるし、芯が強い女の子だって思うわけ。自分の気持ちは曲げない潔さ! 全部、全部が可愛すぎて……」
 うるせぇ!
 お前がどれだけ、ほのかのことを想ってることは、もうわかったよ。
 一時間近くも聞かせられるこっちの身にもなってくれ。
 もうさすがに、熱さで身体のぼせてきた……。
「悪い、リキ。先にあがるわ」
 ちょっと、熱で頭がふらつく。
 フラフラと立ち上がろうとする……が、ごつい彼の大きな手が俺の腕を掴む。
「ちょ、ちょっと待てよ! タクオ! これからがいいところなんだ、もうちょっと付き合ってくれよ!」
「話なら温泉を出てからでいいだろ……」
「いや、俺の気持ちはこの夜景を見ながら、マブダチのお前と語り合いたいんだって!」
 俺の腕を一向に離そうとしないリキ。
 だが、もう相手をしてられん。
 早く出ないと俺が倒れそうだ。

「悪いが出るぞ……」
 必死の思いで、湯船から脱出しようとした瞬間だった。
 見くびっていた。『剛腕のリキ』の異名を。

 俺の意思とは反して、力づくで引っ張られ、地面に叩きつけられる。
「いってぇ……」

 石畳の上でうつ伏せの状態に倒れてしまった。
 心配したリキが咄嗟に立ち上がる。
「わりぃ! タクオ、大丈夫か!?」
 急いで俺の元へ駆け寄ろうとするが、彼も長時間、湯船に浸かっていたせいか、思ったように足が動かず、フラついている。
「ありゃっ!」
 リキのアホな声と共に、ドシン! とナニかが、乗っかかてきた。

「いってぇぇぇ!」

 倒れこんでいる俺の背中に、リキの巨体がボディプレス。
 あばら骨が折れたかも?

 だが、そんなことよりも、気になるのは、俺の臀部(でんぶ)あたりだ。
 ナニかが、俺の割れ目にグニョグニョとうごめいている。
 ま、まさか!?

「わりぃ、タクオ。こけちまった……」
「そんなことはいい! 早く俺から離れろ! こんなところ、誰かに見られたら……」

 時すでに遅し。
 目の前には、細い脚が4本。

 見上げると、そこには、おかっぱ頭のキノコ頭が二人。
 同じクラスの日田兄弟が立っていた。

「し、新宮殿! まさか、氏は、剛腕のリキとそのような関係……」
「兄者、ここは一つ……」

 お互いの顔を見つめあうと、無言で頷く。

「「ぎゃあああ! ホモダチだぁ!!!」

「……」
 終わったな、俺のスクールライフ。
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