第4話 蝶翼

文字数 1,005文字

 お願い探し。
 秩父駅構内でもらった聖地巡礼マップのタイトルだ。
 願いが叶ったら、叶わなければ……。

 印象的な”あの花”作中の描写。
 過去に(とら)われた気持ちを解放し合う友達同士の想いは、願いを叶えようと動き出す。
——叶えようとした願い、違ったんだよな。

 目的よりも尊いものが存在する。
 例えば、財宝を巡る冒険などは、その過程がとてもエキサイティングであって、ありったけの自分で乗り越えるものだ。
 財宝を見つけた途端、乗り越えてきた道程がいとも簡単に崩れ去り、なんとも空虚(くうきょ)なエンディングを迎えることもしばしば。
 財宝が空振りに終わったほうが、素晴らしい余韻を残したりもする。

 訪れた休みを埋めるべくスタートしたこの旅に、探しものなんてなかったと思う。
 それでも、アニメーションと現実が重なる光景の感動は、目的のない旅の過程を彩る。
 その彩りが鮮やかであればあるほど、やはりこの旅のエンディング——日常に帰る——は空虚なものになるのであろう。

 奇しくも、車は空振りに終わった願いの舞台、龍勢櫓(りゅうせいやぐら)の花火打ち上げ台へ。
 探しものすら分からず、それでも見たい光景を追いかけてここまで来たんだ。
 願い事が分からず、それでも願い事を叶えようとした場所。
 不思議と導かれたように、私はこの場所に立っている。

 高くそびえ立つ櫓を見上げ、この旅が終わってしまう、日常に帰るんだと告げる。
 連れ出してくれた青空に、今日のさよならを。

 secret base 〜君がくれたもの〜

 旅のエンドロールが流れる車中、定林寺での忘れ物に気が付いた。
 今日の記念に絵馬を買おうと思っていたのだ。

 再訪の定林寺。
 騒がしかった蝉の鳴き声、目を閉じ見えた光景、お揃いのレンタルサイクルを並べた巡礼者の姿。
 そこで出会った全てが定林寺の余韻となっていた。
 この場所で一人だと、今日を彩っていたものが自分ではないのだな、と改めて感じる。

 日常に帰ってきたのだ。
 これが私の日常なんだ。
 石段を登ろうとする。
 下向きがちな私の視線を上に向ける光景。

 石段脇のお地蔵さんからフワッと舞う(ちょう)の姿。
 舞う蝶は、私の膝下、背中、胸、顔の順に、ぐるりと綺麗に私を一周したのだ。
 まるで「こんにち()」とでも言うように。

——見つけた!
 混じりっ気の無い私の気持ちが叫んだ。
 あの子は生まれ変わりして会いに来てくれたのだ。
 蝶を見送る視線の先に、綺麗な夕焼けが広がっていた。
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