第103話  お互いの初めて 7

エピソード文字数 2,969文字

ったく。まだ降ってるのかよ

 よくもまぁ降り続ける雨だなおい。

 くっそ鬱陶しいし、傘持ってくるにも、また四階まで上がるのはしんどすぎる。


 という訳で傘も差さずに飛び出した。

いでぇっ

 降り注ぐ雨が、容赦なく顔の傷にかかると、走りながら悶えていた。 


  

 まずは魔樹と合流すべく喫茶店へ向かう。

 歩きではなく全速力で向かうと、あっという間に喫茶店が見えてくる。


 既に店は閉店しており、周囲はとても暗かった。

 俺にとってはありがたい。出来ればあまり明るい場所に出たくないほど顔が酷いからな。



 ドアの前には魔樹が立っていた。

 向こうは当然、俺の姿を見て固まっていた。

え? 楓蓮……さん?

そんなリアクションはいらん。

美優ちゃんの行きそうな場所は無いのか?

待って。状況が……飲み込めない
おいおい。さっき電話で喋っただろ? 声で察せよ

 あれ? お前……まさか知らなかったのか?

 そう思うと、とんでもなく先走った感半端無いぞ。


 だが。もう遅い。

 もう……言い訳する気も起きねぇよ。

そ、その顔は……
お前がやったんだろ? すんげー痛ぇよ
そ、そんな! ま、まさか……

はっきり言わなきゃ分からねーか? 俺は入れ替わり体質だ。

俺と、蓮は同じ人間なんだよ。

そんな。そんなことが……

楓蓮さんが……

お前。まさか……本当に知らなかったのか?


 いや。もう答えなくてもいい。 お前の顔見りゃわかる。



 すると魔樹は電池が切れたように、ストンと落ちるように尻餅を付いてしまった。その顔はもう……衝撃の事実を目の当たりにした。そんな顔になっていた。



 ああ、これは正に俺が思い描いていたリアクションだ。

 秘密を暴露して、ドン引きされてるシーンは、俺の想像と大して変わらない。



 だけどな……今はそんな事にヘコんでる場合じゃないんだよ!

おい。そんなのいいから。美優ちゃんの行きそうな場所はねぇのかって聞いてんだよ!
わっ……分からない。美優はこんな時間まで……外に出た事なんて無いんです!
位置情報は?
オフになってます
参ったな。しらみつぶしに探すしかねぇのか
 お前が有力な情報を持ってるかと思えば、何も無いし。

 まぁ。何も情報が無いから、俺に連絡を寄こしてきたわけだが。



 嫌な予感がするんだよ。

 竜王さんの件もあるし、美優ちゃん一人で夜中にほっつき歩いてると思うと……


っと、その前に……一回美優ちゃんに電話するか

 一応蓮と楓蓮の番号で掛けるが出ない。

 

 ラインも送っておこう。すぐに連絡をくれと送信する。

 蓮でも楓蓮でも、二つの連絡先から送ると、ふぅっと溜息を吐いていた。

美、美優っ! 出て。ど、どこにいるの?

お願い。電話に出てよっ……みゆうっ!

 魔樹も電話を掛けているようだが、完全に冷静さを失っていた。

 ってかお前。テンパったら女みてーな喋り方になんのか?




 そんな時、俺のスマホに着弾したのは美優ちゃんのラインだった。

 俺は何も言わずにスマホを弄くると、どうやら蓮のラインに返事を寄こしたようだ。

ネカフェです。お昼に入った同じ部屋にいます
 ……よし! 良かった。すぐそこじゃねぇか!
魔樹! 見つかった。すぐそこのネカフェだ。

 その時の魔樹の顔は忘れられん。

 絶望の淵から蘇った。九死に一生を得たとか、そんな言葉がドンピシャな顔だったからな。

すぐに行ってくる
ま、待って! 私も行くっ!
 私? らしくねー事言いやがって。

 とはいえ、必死に訴える魔樹だったが……

魔樹。すまんが、待っててくれないか? 出来れば二人で話がしたい
でも君は……く、黒澤は、美優を……

 あぁ、それが気になってるのか。

 俺が襲ったどうたらこうたら。

何もしてないに決まってるだろ。ただ……絞め落とそうとしたのは事実だ
 とにかく。先に美優ちゃんとお話しないと!

訳はちゃんと話すから頼む! 二人で……納得行くまで話さないといけない。

だから家で待ってろ。すぐに美優ちゃんを連れてくるから

で、でも……

頼む。魔樹! お願いだ!

俺も……俺だって! 美優ちゃんとは仲良くありたいんだよ!

か、楓蓮さん……

 返事するまで時間が掛かったが、納得してくれたようだ。

 後はネカフェに行くだけだ。

お願い。す、すぐに戻って来て下さい!

私も、楓蓮さんに……

分かってるって。俺を信じてくれ!

 さっさと行こう。

   

 俺は暗闇の中ダッシュする。あっという間に到着すると、躊躇せず階段を登っていくのだった。



 ※

 

よし。行こう

 独り言。こうでもしないと平常心を保つ事が出来ない。

 勢い余ってネカフェの前まで来たのに、階段を一段登った場所で躊躇していたのだ。


 というのも。どんな感じで面会すればよいのか分からん。


 普通に入って楓蓮です。って言えば済むんじゃねって、さっきまで思ってたが、本当にそれで良いのかと思うと、階段を上がる事ができなかった。



 そんなタイミングでスマホがブルったので確認してみると、白竹さんは《ちょっと待って》と送ってきた。


 一応こちらも店の前にいることを伝える

今。店の下にいます
 そう返信すると、すぐに既読になったかと思えば……
あと少しだけ待ってください
何かありましたか
今、私じゃない姿になってるから

 そう返ってきた。


 それはつまり、美優ちゃんではない別の男になってるって事だ。

 しかしその返信を見た瞬間、俺はすぐに思い当たる人間がいた。


 美優ちゃんが入れ替わり体質なのなら……

 心当たりが……ありすぎるだろ!
もしかしてこの前、気分が悪くなって倒れそうになってた。あの魔樹くん?
そうです! 魔樹みたいな男の子になってます

 そっか。そういう事だったのだ。

 美優ちゃんがあの……クネ魔樹だったのか。

こりゃやられた。そういう事だったのかよ!

 学校では美優ちゃんで、喫茶店では魔樹になる。


 魔樹はその逆だ。

 学校では魔樹であり、喫茶店ではクル竹ってか!

 それならサイクルも合うし、間違いない。


 

 参ったぜ。二重人格かと思われた白竹さん達だったが、まさか本当に入れ替わっているなんて……誰も思わねぇだろ!


 ったく。さっきから自分の事ばかり考えてて、美優ちゃんが入れ替わり体質だと言う事をすっかり忘れていたぜ。


心配ないですよ。俺も今。女ですから

 すぐ既読になったが、返事が無い。

入るね
待って。本当に蓮君は入れ替わる人なんだよね?

 えっ? どういう事だ?


 まさか……俺が入れ替わり体質である事を……

 確証がある訳ではなかったのか?


 嘘だろ? 


 か、確証は無かったっていうのか? 

参ったこれ。全部。全部俺が……シクった結果だったっていうのかよ

 まぁいい。ここまでバレてたらどうしようもねぇし、それに向こうサイドの話もちゃんと聞かないと。俺だって納得できない。


 どこでどうなって俺を入れ替わり体質と見抜いたのか説明してもらわねば。その話が一番重要だろう。



 もういいだろう。全部はっちゃけた。

 隠す必要は無い!


 スマホの電源まで切ってしまうと、覚悟を決めた。

 階段を登りネカフェに入ると、朝に来た場所のドアをノックしていた。




 すると、僅かに開いたドアの隙間から見えたのは、銀髪の可愛い男の子。


 やっぱり……そういう事だったのか。

美優ちゃん……
れ、蓮くん……
 お互いが、別の性別の時に使う名前を呼び合うと、さっきまで泣きそうだった二人の顔に、僅かな笑みが浮かんだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色