第3話 残された者たち

文字数 345文字

 太郎がいなくって後、村は毎日大漁が続いた。
 「あいつは貧乏神だったに、ちげえねえ。」
 「んだ。あいつが消えてからっていうもの、舟が沈みそうなくらい水揚げがあるからな。」
 村の猟師たちは、沖へ出ると口々に太郎の話をした。さすがに母親のいる陸では口を閉じてはいたが。

 実際のところ、太郎を戻さない代わりにと、乙姫が豊漁になるよう仕向けていたとは誰一人知る由もなかった。

 三年も経つと、村にはあわび御殿や鯛御殿などが次々と建った。貧しかった漁村も、今では大型船を使って漁をするまでに様変わりをしていた。太郎の家も高台に移ると、母親もすっかり贅沢な暮らしをするようになっていた。
 「あの子は人身御供になって、村を救ったんだ。」
 母としては、一人息子のことをそう信じるのだった。
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