scene-1 虐夜の変異能者
文字数 1,076文字
深夜の
切れかけた街灯の弱々しい光は、時折明滅を繰り返しながら濡れた石畳を照らし出す。
聞こえるのは
コツコツと規則正しい足音は、倉庫街の時代を重ねた古い赤レンガの壁に
足音の主は黒く
彼女は銀色の金属プレートが胸と腕に縫い込まれた、黒い革のジャケットと革のパンツ姿に、ロングブーツと黒革の手袋を着用している。手袋の甲には、やはり銀の金属プレートが縫い込まれている。
しなやかな革に包まれたその
立ち並ぶ倉庫の暗がりに無造作に積まれた大型の木箱の陰に、二人の黒ずくめの男が潜んでいる。
一人は手足が異様に長い長身の痩せぎすの男で、爬虫類のような姿をしている。手の甲からは奇怪な形をした鋭い刃物のような鍵爪が生え、背中からも同様に二本の
もう一人は肩幅が広く、巨岩の集合体のような姿の大男だ。その外見は内部に狂暴なパワーを秘めていると感じさせる。握りしめたその
二人は闇に潜んで革ジャケットの少女を待ち受けている。
足音が近づく。
二人の男は物陰から一斉に飛び出し、一瞬にして少女の眼前に現れると、凶器と化した異形の腕を神速の早さで振るった。
暗夜を断裂させる鋭利な鍵爪、分厚い大気を破壊する岩のような剛腕。
二つの狂気と凶器が、夜の闇ごと少女を切り裂き打ち砕いた。
【『ミリアさんっ』】
【『バツ君、呼び捨てにするって約束でしょ』】
【『あ、うん。そうだった。ミ、ミリア、俺ちょっとトイレに行ってくるよ』】
【『ええ? 今から? もう映画始まってるじゃない』】
【『ちょっと今朝から腹の調子が悪くって』】
【『バツ君、拾い食いでもしたの?』】
【『んな訳あるかっ、あ、やばい、ホントに……行って……くる』】