僕ッテオカシイノ?

文字数 2,663文字

「お前ら!絶対に許さないからな!絶対だ!ここにいる全員必ず殺す!全員ハラワタぶちまけて死ね!」





 人が人を殺す理由はなんだろうか。感情、色々なものがある。血の匂いを嗅いでみたい。血液が流れ出るのを見てみたい。肉を削ぎ落としてみたい。拳銃で撃ってみたい。人を食べてみたい。今のは五感全てを表現してみた。これは単なる好奇心によるものだ。じゃあ、その他には?嫉妬?怒り?横恋慕?まぁ、なんでもいい。僕はただそれを知りたかっただけなんだ。





「榊原!今帰り?」
「ああ、それがどうした?」
「いや、たまにはお前も一緒に遊ばねぇかと思ってよ?」
「興味ない」
「……そっか、じゃあ、また気が向いたときにでも声かけてな」

 興味ないといったのに聞いていなかったのだろうか。馬鹿か?なぜそのような興味のないものに参加しないといけない。退屈で怠惰で、それでいて愚かしい行為に。僕はそう思いながら、家へと帰る。

「く、くふっ」

 おっと、いかんいかん。あまりの興奮に嗤いが出てしまった。これはよろしくない。世の中にあるSMプレイの焦らしだと思えば、何の。楽しみが更に楽しみになるだけだ。
 僕は家へと急いで帰宅をする。そう、愛しの母親が居る家へ。

「ただいま、母さん、元気にしてた?」

 返事がない。まぁ、当たり前か。僕は屋根裏部屋へ向かう。

「母さん、生きてる?」

 呼吸はしている。

「僕の計算に狂いは無いね。いいことだ」

 僕はそう言うと、母親に近づく。なんとも言えない匂いが充満している。

「あー、トイレのことすっかり忘れてたな。ゴメンね、母ちゃん」

 母親がこちらを見る。怯えた目でこっちを見る。近づいてかがむ。

「どうしたの?そんなに怯えて?昔から母ちゃん、僕をここに閉じ込めたじゃない。もしかしてトイレ忘れてたのに怒ってるの?それも許してよ。僕もここでよくお漏らししたじゃない」

 僕はそう言うと立ち上がる。掃除道具は……まぁ、いっか。どうせ、もうそう長くはないだろうし。この家に放置するわけだしね。じゃあ、どうしようか?これからどんなことしようか?考えただけでもワクワクが止まらない。
 僕は母親に向かって最高の笑顔を向ける。そして言う。

「今日は何からしよっか?」

 母親は何かをうめいているが、猿轡をしているため、何を言っているかわからない。だけど僕にはそれが喜んでいるように見えたんだ。

「うわ~、母ちゃんがそんなに喜んでくれると思わなかったよ!じゃあ、僕も張り切るね!」

 そう言うと、僕は包丁屋さんで買ってきた包丁を手にする。

「じゃあ、始めようか!」


 失敗した。もっと楽しめたはずだ。あーあ、簡単に死んじゃった。これからどうしようかな?人をさらう?それは面倒だけど、色々な人間で実験してみたい。
 だが、それは叶わなかった。


「15歳の少年が母親を殺害した今回の事件ですが」
「色々な情報によると、よほど残忍な方法で殺害しているようですね」
「そうですね。今回は相当恨みがあっての犯行だと思われます」

 テレビから音が流れてくる。僕は移送される前、手錠を掛けられ、そこで待っていた。

「おい、馬鹿野郎!こんなテレビをつけておくな!」
「は、はい」

 そう言うと、お昼のワイドショーはぷつりと切れた。

「いいじゃないですか。どうせテレビも何もこれから見れなくなるんでしょ?」

 周りの人間は何も言わない。

「ところで、なんで僕ってこんな状態になってるんですか?」

 場の空気が一気に冷え込む。だけど、僕には理解できなかった。

「ねぇ、これって人間が作った法律でしょ?中東行ったら、人殺したって誰も何も言わないじゃない。なんで僕だけこんな事になってるの?」

 すると、いかにもベテラン刑事みたいな人が出てきて言った。

「ここは中東じゃない。日本だ。日本の法律によって君は逮捕された」
「だから、それって誰かが勝手に作り出したエゴじゃない?なんで僕らはそれに従う必要があるの?」
「悪いことをしたという自覚はないのか?」
「だって、母さんは喜んでたよ?」
「どうして君にそんなことが分かる?」
「だって僕の母ちゃんだよ?どうしてわからないの?自分の母ちゃんの気持ちぐらいわからないの?」
「それは喜んでいるってお母様が言ったのか?」
「そう言えば、口では言ってなかったね」
「じゃあ、実際喜んでるかどうかなんて分かるわけが無いじゃないか?」
「ああ、そりゃそうだ。で?どうして僕はこんな事になってるの?」

然しものベテラン刑事もため息をついた。

「えー、お話しようよ?会話しないと伝わらないって教えてくれたのはおじさんだよ?」
「あのなぁ、俺らはお前らのおしゃべりの相手になるために仕事をしているんじゃねぇんだよ」

 若い兄ちゃんがそんなことを言う。

「僕を移送するためでしょ?」
「わかってんなら」
「でも、それって、喋っちゃだめなの?そういうルールがあるの?誰が作ったの?」

 その場の人間、誰しもが黙った。ただ一人を除いて。

「ねぇ、みんなお話しようよ?お話しないとわかり会えないってことたくさんあるでしょ?」

 しばらくそう問いかけたが、答えてくれるものは誰も居なかった。

「これより、移送する」

 僕はここから別な場所へ移されるらしい。そして、色々なことがあった。色々な人に話しかけたし、いろいろな人が話をしてきた。精神鑑定がどうのとか言って色々な質問をされた。そして、テレビでよく見る法廷がそこにはあった。
 そして、始まる裁判。何かよくわからないことを言っている。そして、何度か質問された後、求刑が言い渡された。僕はそれに怒りという感情を初めて発露したと思う。

「おい!ふざけるな!なんで死刑じゃないんだよ!」

 周囲の人々がざわめく。

「俺は死刑なんだろ?何かの間違いだろ?そうだろ?おい!なんとか言えよ!」
「静粛に!静粛に!」

 俺は心の底から怒りを覚えた。僕は死というものに興味を持っている。最後のピースである自分の死が行われない。そんな理不尽なことがあるか!人を殺したのに!人を殺したなら殺した人間も死ぬのは当然じゃないのか!
 俺は警察官に取り押さえられた。そんな仲最後の言葉を発した。


「お前ら!絶対に許さないからな!絶対だ!ここにいる全員必ず殺す!全員ハラワタぶちまけて死ね!」
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