クーベル編⑦素敵な魔法武器ではなく、素敵な本

エピソード文字数 4,427文字

 お店を閉めた後、私はお風呂の中でお姉ちゃんの言ったことの意味について、考えていた。
 ――魔法武器を愛してる?
 ――護るためのもの。
 ――笑顔の種。

「なんとなくわかる……ような気がするんだけど、わからないような」
 ちゃぷちゃぷ。
 両手でお湯をすくって、覗き込む。
 うわぁ、元気のない顔。これじゃプラリーネちゃんやお姉ちゃんに心配されるわけだ。
 二人のため(・・・・・)にも、立ち直らなきゃ!
「護るためのもの、かぁ……」
 うーん。
 剣で人を傷つけるようなことはしたくない。
 単純に、そういう意味?
 だからなに、という感じはする。もちろん、そういう優しいお姉ちゃんだからこそ、お客さんをキラキラの笑顔にさせるんだろうけど。
 みんなを魔法武器で笑顔にさせる、かっこいいお姉ちゃん。
 お姉ちゃんのそういうところ、尊敬してる。
 だけど、それでも武器は武器じゃん。
「キラキラの笑顔……か」
 ローズお婆ちゃんは言ってた。
 ――あたし好みのイイ斧だ。
 って。

「ローズお婆ちゃん、嬉しそうにしてたなぁ」
 エレーヌさんは、そんなお姉ちゃんならラミントンさんみたいになれるって、言ってたっけ。
 同盟軍の四大団長が使った、すご~い魔法武器を創ったラミントンさん。
 あの人の作った魔法武器にも、翼はあった。新聞の動く写真の中で、団長たちの戦いを見た。
 その時私は思ったんだ。
 ああ、ラミントンさんは団長一人一人にあった、その人だけの魔法武器を創ったんだなぁ――って。
 魔神討伐後は、 《ブラックエスプレッソ王国》の団長さんが反乱を起こし、ラミントンさんを脅したんだ。もっと強い魔法武器を創れって。だけどラミントンさんは断った。だから斬られて、殺された。
 剣と回復魔法の天才(・・・・・・・・・)にして、最悪の犯罪者。魔神討伐後、多くの魔物を従え(・・・・・)姿をくらました―― 《黒翼の騎士テリーヌ》に。
 ラミントンさんは、使う人の気持ちになって武器を創った。けれど、それは魔神を倒し人々を護るためであって、傷つけるためじゃなかった。
 だから、人を斬るために使おうとしたテリーヌには、次の武器を創らなかった。
 つまり、笑顔のために、ラミントンさんは魔法武器を創っていたということ。
 戦うためではなく、笑顔のために。
 笑顔の……?
「そっか! おんなじなんだ!」
 私は湯船の中で立ち上がったよ。
 お姉ちゃんの創ってれた、乗りやすい 《エアボード》と、防御用のマント。
 私のためを想って、使いやすい魔法武器をくれた。それと、おんなじなんだ。
 そして、ノエルちゃんが楽しそうに魔法植物を語っていた姿。
「魔法武器が強いことは大事だ。でも、強ければいいわけじゃない。剣じゃなかったんだ。なのに私ってば、凄い魔法武器を創りたいだなんて、自分のことばかり(・・・・・・・・)で……」
 見えてなかった。
 誰に、なにを、どうして創るのかということが。

「見えた気がする。私が創るべき魔法武器。ノエルちゃんのための、ノエルちゃんだけの魔法武器! “笑顔の種”! そして、私がそれを創る理由!」
 お風呂から出た後は、お姉ちゃんのお母さんが残したっていう書斎にこもった。
 机にたくさんの書物を重ねて、調べ物。
「あった! 植物魔法を強化する素材! こっちには、初級植物魔法の詳細も!」
 必要なのは、《植物の魔石》。
 魔石とは、魔力を持つ特殊な石のこと。武器に加えたい魔法効果によって、使用する魔石は異なる。魔石の効果が強いほど、複雑なほど、素材に使用する難易度は上がるんだ。
 たとえば、《炎の魔石》は炎の魔力を持っていて、その流れを操作して生成に使う。だけど《植物の魔石》は、眠気や痺れなど、魔法植物の持つ様々な魔法の効果が込められているんだって。
「だから、一度に複数の魔力を感知し、操らないといけない――か」
 さっそくメモして、今度はお姉ちゃんの部屋へ。
 扉を叩くと、すぐにお姉ちゃんが出てきた。
「お姉ちゃん! 素材集めに協力してほしいんだけど」


 燦々と輝く太陽の下。
 お店の裏庭で、ノエルちゃんは分厚い本を開いたよ。
「植物魔法! 拘束の草!」
 ノエルちゃんが唱えると、土に生えている雑草が伸びて、泥人形の手足を縛る。それでも、逃れようともがく泥人形。
「さらに! 植物魔法! 眠欲の種弾!」
 すると、今度は本の前に緑色をした魔法陣が展開し、植物の種が発射される。頭に種をくらった泥人形は、油の切れたゼンマイ人形みたいに、その動きを止めた。
「これは凄いです! 僕、植物魔法の知識はあっても魔力がイマイチなんですけど、この魔導書の力を借りれば、少ない魔力でもスムーズに魔法が発動出来ます!」
 ノエルちゃんは目をキラキラさせて、本のページをめくっていく。
「使用する魔法ごとにページが変わるんですね。各魔法に関して、使用時に浮かべるといいイメージや、魔力操作のヒントについても書かれていて、すっごく僕向きの魔導書です」
「気に入ってもらえて嬉しいよ。実はそれ、最初の数ページしか書いてないんだけど、使いたい魔法をセット出来るようになってるんだ。後で、セット魔法のやり方についても説明するね」
「ということは、空いてるページには自分で好きな植物魔法を書き込めばいいんですね!これは勉強意欲も増します! 素敵な本です!」
 素敵な魔法武器ではなく、素敵な本――か。

 ノエルちゃんにとって、この魔法武器は本なんだ。大好きなお姉さんを支え、自分も強く賢くなっていくための、魔法の本。戦い、傷つけるための武器じゃない。
 本でサポート出来る魔法も、ノエルちゃんの愛する魔法植物だよ。
 結果、ノエルちゃんは本を使いこなし、笑顔になってくれた。
「そっか。これが魔法武器に対する愛なんだ」
 ノエルちゃんはほかにもいろいろ魔法を試し、心から魔導書を気に入ってくれたみたいだった。
「表紙に描かれているのは、桜の木ですよね?」
 本を閉じて、表面をなぞるノエルちゃん。
「うん。この前、大好きなお花だって言ってたでしょ? だから調べて、描いたんだ」
「僕と姉さんの、好きな花を……?」
「だって、その本はノエルちゃんのために創ったんだもん」
 ウインクして答えると、ノエルちゃんはぎゅっと本を抱きしめた。
「僕、これを 《ノエルの魔導書》って名付けます」
 本当に、気に入ってくれたみたい。
 なんだか私も嬉しいよ。
 最後に、ノエルちゃんは「気持ちです」と、少なくないお金を上乗せしてくれた。私はいらないって言ったんだけど、「僕を想うなら受け取ってください」とか言われたら、引き下がるわけにはいかない。
 それだけのお金があるのなら、冒険者も雇えたんじゃ――。
 一瞬、そんな言葉が脳裏を横切った。
 でも、わかったよ。

 ノエルちゃんはお姉さんの役に立ちたいから、魔法武器を取る道を選んだ。
 そしてこれは勝手な推測。妹のノエルちゃんだからこそ、ショコラお姉ちゃんの妹である私を選んで、依頼してくれたんだ。都合よく考えすぎかな?
「これなら、《プラントドラゴンの花》、採取できそうです。本当にありがとうございますクーちゃんさん❤」
 優しくて努力家の妹は、笑顔を浮かべながら暁の向こう側へと消えていった。
 その笑顔は私の心に焼き付いて、キュンって、ハートがうずいた。
「ハートが、愛で満たされてる……?」
 私は自分の胸を撫でて、本当の意味で、凄い魔法武器職人を目指す理由を見つけた。
「この笑顔のため、ラミントンさんも、お姉ちゃんも、魔法武器を創るんだ。私も、大好きな人たちの笑顔のために創りたい」
 やっぱり、お姉ちゃんへの憧れは消せない。
 だけど、憧れだけじゃない。
 魔法武器を求めている人たちには、みんなそれぞれ求める理由がある。私はその人と友達になって、その人のことを知って、その上で、求めるモノを創りたい。
 だって、大好きな人(・・・・・)が笑顔になれたら、ステキだと思うから。
 これが私の、一人前を志す理由。
「お疲れ様、クーちゃん。はじめてのお仕事は大成功ね?」
「うんっ!」
 私が頷くと、お姉ちゃんは頭を撫でてくれて。

「いろんな人とすぐお友達になって、その人の大切なものを形にしちゃう。これはクーちゃんにしか出来ないことね」
「お姉ちゃんにも出来ない?」
「出来ないわ。お姉ちゃんが出来るのは、注文通りの魔法武器を創ることだもの」
 そっか。
 これが私にあったやり方なんだ!
 それから、いつもの笑顔を浮かべて。
「よくできたご褒美に、今夜は好きなご飯を作ってあげる。なにが食べたい?」
 お姉ちゃんが言った。
「うーん……じゃあ、モッツァレラチーズとトマトのジェノベーゼパスタ。チーズが濃厚で、オリーブオイルたっぷりのやつ!」
 私が答えると、お姉ちゃんは嬉しそうに袖をまくる。お店に戻っていく背中に対し、私は投げかけた。
「お姉ちゃん。私、気づいたよ。武器はただ強ければいいんじゃない。使い手のことを考えて、その人にあった武器じゃないといけないんだね。だから、うちはオーダーメイドしてるんだね」
 これに気づけた私って、実は天才かも?
 な~んて。
 そして、振り返ったお姉ちゃん。
 浮かんだ笑みは、とても温かいものだった。


 というわけで、数日後。
 女の子向けの、可愛くて軽い盾を生成してみたよ。ピンクカラーで、中心にはお花が描かれているの。
 これを地面に置いて。
「プラリーネちゃん! 耐久テストだよ! そのハンマーで叩いて!」
「いいのか?」
 鉄のハンマーを掲げて、首を傾げるプラリーネちゃん。
「ズバッとこーい!」
 私が胸を叩くと、ハンマーが振り上げられた。
「死ぬがいい! とぉりゃっ!」
 ノリノリの掛け声とともに、ハンマーが盾に叩きつけられた。
 ゴオオオン、という硬質な音。
「……ふむ」
 プラリーネちゃんはハンマーを持ち上げて、鼻を鳴らした。
 盾は見事に真っ二つ。割れちゃった。
「すごーい! プラリーネちゃ――って、ええええええ!?」
 自信作だったのに。十歳の妹の打撃にも耐えられないなんて!
 隣で見守っていたお姉ちゃんが、頬に片手を当てながら、困った風に笑った。
「あらあら。残念ね」
「ふにゅうぅ……。使う友達の気持ちになって、可愛く軽くしたのにぃ」
「使う人の気持ちも大事だけど、性能ももちろん大事よ?」
 とお姉ちゃん。
「ごもっともです」
 まだまだだなあ、私。
 でも諦めないよ!
 精進するぞ!
 友達(・・)みんなを笑顔にさせる(・・・・・・・・・・)、一人前の武器職人になるんだから!

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