16. 高騰する落書き
文字数 2,685文字
夕方になり自宅に帰ってくると、バッグからミィがピョンと飛びだす。
そして、ピンとしっぽを立ててトコトコとダイニングの方へ入っていった。
「おい、ミィ! どこ行くんだ?」
見ると、戸棚にピョンと飛びついて、扉を開き、中からお菓子をいくつか引っ張り出した。
「ちょっと甘いもの探すにゃ」
そう言って器用にチョコの袋を開けた。
「あれ? なんでそこにお菓子あるの知ってるの?」
「え……? あ、サーチ、データをサーチしたんだにゃ」
「サーチ? そんなことできるの?」
と、その時だった。いきなりリビングのドアがガチャリと開いた。
「和真、誰と話してるの?」
ママだった。すでに家にいたらしい。
だるまさんが転んだ状態で固まるミィ。
「あ、あれ? ママ……。ど、どうしたのこんな早く」
「ちょっと頭痛がして早退したのよ……、あれ、ネコ?」
ママはそう言ってミィを持ち上げる。
「ぬいぐるみ……。まさかこの子と話してたの?」
「あ、いや、まぁ、その……。ぬいぐるみと話すのもまた社会復帰の練習だからね」
冷汗をかきながらごまかす和真。一瞬、全て打ち明けてしまおうかとも思ったが、ママにうまく説明できる気がしない。それに、テロリストとの戦いに身を投じるなんてこと、とても言い出せない。
「ふぅん……。手触りいいわね、この子」
ママはミィを抱きしめてなで、ミィは幸せそうに目をつぶった。
◇
「今日は対人戦闘の研修じゃ!」
レヴィアは和真とミィを研修空間に連れてくると言った。
床は真っ白、空も周りも見渡す限り真っ白で、遠近感のない空間に二人は戸惑う。
「え? ここで戦うんですか?」
「そうじゃ! 二人ともかかってこい。攻撃を少しでも当てたら合格じゃ!」
金髪おかっぱの女子中学生っぽいレヴィアは腰に手を当てて叫ぶ。
「え? 当てるだけでいいんですか?」
「はっはっは! 『当てるだけ』とな? なめられたもんじゃ! かかってこい!」
レヴィアは真紅の瞳をギラリと光らせると吠えた。
和真は練習してきたとおり、深呼吸を繰り返し、瞑想の要領で深層心理に降りていく。
徐々に意識が遠ざかり、周囲のことがクリアに把握できるようになってくる……。
ゾーンに入った和真は、ふぅと息を吐きながら右手のこぶしを青白く光らせた。
テロリストはたいてい自分の身体に『物理攻撃無効』の属性を立てるので、一般的な攻撃は全く効かない。核爆弾使ったって傷一つつかないのだ。だから、システムを利用する相手には特殊な攻撃方法が要る。
和真がやっているのは、相手の身体のデータそのものを吹き飛ばす特殊な衝撃波攻撃である。
ハァ!
和真は光るこぶしをそのままレヴィアへと放つ。飛び出した衝撃波は青白く光りながらまっすぐにレヴィアに飛んだ。
同時にミィはビー玉みたいなキラキラ光るハッキングツールを無数浮かべ、一気にレヴィアめがけて撃ち出す。
「食らうにゃ!」
しかし、レヴィアは涼しい顔をしながら手のひらを前に伸ばし、
「もっと頭使え!」
と、言いながら衝撃波を手のひらではじき返し、ハッキングツールに当てて一気に爆破した。
和真たちがもうもうと上がる煙を見つめていると、
「はい、チェックメイト!」
そう言って真後ろに出現したレヴィアが和真の首筋をつまんだ。
「うわぁぁ!」
「対テロリスト戦では止まってちゃアカン。はい! やり直し」
レヴィアはそう言うとツーっと飛んで距離を取った。
和真は悔しそうな表情を浮かべ、ミィと顔を合わせるとうなずきあった。
うりゃ――――!
和真は上空に飛び上がり、両手を光らせる。
ミィはさっきよりもはるかに多いハッキングツールを浮かべると、一斉にレヴィアに放った。
それを見届けると和真は右手でレヴィアめがけて衝撃波を放つ。
レヴィアのことだ、きっと和真の背中にワープしてくるだろう。そこを狙ってやるのだ。
果たして予想通りレヴィアの姿がフッと消えた。
そいや――――!
和真は振り向きざまに衝撃波を放つ。
が、そこには誰もいなかった。
「あれ!?」
「ざーんねん!」
レヴィアは和真の頭上でニヤッと笑い、両手を真紅に輝かせた。
うわぁ!
と、和真が叫んだその直後、和真の身体が急に加速してレヴィアに突っ込んだ。
なんと、ミィが和真の身体を武器にしたのだ。
思いっきり空中衝突をした二人はそのまま床に落ちてくる。
ぐはぁ! ぐほっ!
二人とも床にごろごろと転がった。
和真が気がつくと、ほほに何やら柔らかい気持ちのいいものが当たっていた。
ん……?
ふんわりと立ち上る優しいフレッシュな香りに誘われて、思わず頬ずりしてしまう和真。
「何すんじゃボケカスが!」
パーンと叩かれる和真。
「痛い!」
和真が体を起こすと、それはレヴィアの胸だった。
涙目になってフルフルと震えるレヴィアに青くなる和真。
「いや、ちょっと! 誤解ですって!」
必死に取り繕う和真だったがレヴィアの怒りは止まらない。
ボン!
という爆発音とともにドラゴンとなったレヴィアは和真に襲い掛かった。
ギュワァァァ!
腹に響く恐ろしい咆哮を上げると、巨大な口をパカッと開けて、鮮烈なドラゴンブレスを放つ。
慌ててワープしてかわす和真だったが、レヴィアの怒りはすさまじく、次から次へと無数の衝撃波を放ってくる。
「にーがーすーかー!」
ワープのし過ぎで頭がグルグルになったころ、和真はついにレヴィアに捕まり、黒焦げにされてしまった。
◇
再生されてオフィスに戻ってきた和真は、
「あれは事故じゃないですかぁ」
と、文句を言ったが、
「事故でもなんでもレディーの体に触れたものは焼き尽くす!」
と、プリプリしていた。
「でも勝負は僕らの勝ちですにゃ!」
ミィは上機嫌である。
「あんなのは攻撃のうちに入らんわい!」
「そうだよ、ひどいよミィ!」
和真はミィを抱き上げ、不満げに金色の瞳を見つめて言った。
「実戦ではあらゆる手を使ってでも攻撃を当てた方が勝ちにゃ!」
かたくなに勝ちを主張するミィ。
「んー、まぁ、一理はあるのう。ミィの勝ち、和真は負けじゃ」
「そ、そんなぁ……」
「でもまあ、お主らには直接の戦闘力は期待しとらんから、そこまでできてれば及第ではあるな。よく頑張った!」
レヴィアはそう言って和真の背中をポンポンと叩いた。
和真はミィを高々と掲げると、
「ヤッター!」
と言って、ギュッと抱きしめ、そしておなかに頬ずりをした。
「うひゃぁ! や、やめるにゃ!」
バタバタするミィだったが、ミィの柔らかなお腹はモフモフで、最高に気持ちが良かったのだった。
そして、ピンとしっぽを立ててトコトコとダイニングの方へ入っていった。
「おい、ミィ! どこ行くんだ?」
見ると、戸棚にピョンと飛びついて、扉を開き、中からお菓子をいくつか引っ張り出した。
「ちょっと甘いもの探すにゃ」
そう言って器用にチョコの袋を開けた。
「あれ? なんでそこにお菓子あるの知ってるの?」
「え……? あ、サーチ、データをサーチしたんだにゃ」
「サーチ? そんなことできるの?」
と、その時だった。いきなりリビングのドアがガチャリと開いた。
「和真、誰と話してるの?」
ママだった。すでに家にいたらしい。
だるまさんが転んだ状態で固まるミィ。
「あ、あれ? ママ……。ど、どうしたのこんな早く」
「ちょっと頭痛がして早退したのよ……、あれ、ネコ?」
ママはそう言ってミィを持ち上げる。
「ぬいぐるみ……。まさかこの子と話してたの?」
「あ、いや、まぁ、その……。ぬいぐるみと話すのもまた社会復帰の練習だからね」
冷汗をかきながらごまかす和真。一瞬、全て打ち明けてしまおうかとも思ったが、ママにうまく説明できる気がしない。それに、テロリストとの戦いに身を投じるなんてこと、とても言い出せない。
「ふぅん……。手触りいいわね、この子」
ママはミィを抱きしめてなで、ミィは幸せそうに目をつぶった。
◇
「今日は対人戦闘の研修じゃ!」
レヴィアは和真とミィを研修空間に連れてくると言った。
床は真っ白、空も周りも見渡す限り真っ白で、遠近感のない空間に二人は戸惑う。
「え? ここで戦うんですか?」
「そうじゃ! 二人ともかかってこい。攻撃を少しでも当てたら合格じゃ!」
金髪おかっぱの女子中学生っぽいレヴィアは腰に手を当てて叫ぶ。
「え? 当てるだけでいいんですか?」
「はっはっは! 『当てるだけ』とな? なめられたもんじゃ! かかってこい!」
レヴィアは真紅の瞳をギラリと光らせると吠えた。
和真は練習してきたとおり、深呼吸を繰り返し、瞑想の要領で深層心理に降りていく。
徐々に意識が遠ざかり、周囲のことがクリアに把握できるようになってくる……。
ゾーンに入った和真は、ふぅと息を吐きながら右手のこぶしを青白く光らせた。
テロリストはたいてい自分の身体に『物理攻撃無効』の属性を立てるので、一般的な攻撃は全く効かない。核爆弾使ったって傷一つつかないのだ。だから、システムを利用する相手には特殊な攻撃方法が要る。
和真がやっているのは、相手の身体のデータそのものを吹き飛ばす特殊な衝撃波攻撃である。
ハァ!
和真は光るこぶしをそのままレヴィアへと放つ。飛び出した衝撃波は青白く光りながらまっすぐにレヴィアに飛んだ。
同時にミィはビー玉みたいなキラキラ光るハッキングツールを無数浮かべ、一気にレヴィアめがけて撃ち出す。
「食らうにゃ!」
しかし、レヴィアは涼しい顔をしながら手のひらを前に伸ばし、
「もっと頭使え!」
と、言いながら衝撃波を手のひらではじき返し、ハッキングツールに当てて一気に爆破した。
和真たちがもうもうと上がる煙を見つめていると、
「はい、チェックメイト!」
そう言って真後ろに出現したレヴィアが和真の首筋をつまんだ。
「うわぁぁ!」
「対テロリスト戦では止まってちゃアカン。はい! やり直し」
レヴィアはそう言うとツーっと飛んで距離を取った。
和真は悔しそうな表情を浮かべ、ミィと顔を合わせるとうなずきあった。
うりゃ――――!
和真は上空に飛び上がり、両手を光らせる。
ミィはさっきよりもはるかに多いハッキングツールを浮かべると、一斉にレヴィアに放った。
それを見届けると和真は右手でレヴィアめがけて衝撃波を放つ。
レヴィアのことだ、きっと和真の背中にワープしてくるだろう。そこを狙ってやるのだ。
果たして予想通りレヴィアの姿がフッと消えた。
そいや――――!
和真は振り向きざまに衝撃波を放つ。
が、そこには誰もいなかった。
「あれ!?」
「ざーんねん!」
レヴィアは和真の頭上でニヤッと笑い、両手を真紅に輝かせた。
うわぁ!
と、和真が叫んだその直後、和真の身体が急に加速してレヴィアに突っ込んだ。
なんと、ミィが和真の身体を武器にしたのだ。
思いっきり空中衝突をした二人はそのまま床に落ちてくる。
ぐはぁ! ぐほっ!
二人とも床にごろごろと転がった。
和真が気がつくと、ほほに何やら柔らかい気持ちのいいものが当たっていた。
ん……?
ふんわりと立ち上る優しいフレッシュな香りに誘われて、思わず頬ずりしてしまう和真。
「何すんじゃボケカスが!」
パーンと叩かれる和真。
「痛い!」
和真が体を起こすと、それはレヴィアの胸だった。
涙目になってフルフルと震えるレヴィアに青くなる和真。
「いや、ちょっと! 誤解ですって!」
必死に取り繕う和真だったがレヴィアの怒りは止まらない。
ボン!
という爆発音とともにドラゴンとなったレヴィアは和真に襲い掛かった。
ギュワァァァ!
腹に響く恐ろしい咆哮を上げると、巨大な口をパカッと開けて、鮮烈なドラゴンブレスを放つ。
慌ててワープしてかわす和真だったが、レヴィアの怒りはすさまじく、次から次へと無数の衝撃波を放ってくる。
「にーがーすーかー!」
ワープのし過ぎで頭がグルグルになったころ、和真はついにレヴィアに捕まり、黒焦げにされてしまった。
◇
再生されてオフィスに戻ってきた和真は、
「あれは事故じゃないですかぁ」
と、文句を言ったが、
「事故でもなんでもレディーの体に触れたものは焼き尽くす!」
と、プリプリしていた。
「でも勝負は僕らの勝ちですにゃ!」
ミィは上機嫌である。
「あんなのは攻撃のうちに入らんわい!」
「そうだよ、ひどいよミィ!」
和真はミィを抱き上げ、不満げに金色の瞳を見つめて言った。
「実戦ではあらゆる手を使ってでも攻撃を当てた方が勝ちにゃ!」
かたくなに勝ちを主張するミィ。
「んー、まぁ、一理はあるのう。ミィの勝ち、和真は負けじゃ」
「そ、そんなぁ……」
「でもまあ、お主らには直接の戦闘力は期待しとらんから、そこまでできてれば及第ではあるな。よく頑張った!」
レヴィアはそう言って和真の背中をポンポンと叩いた。
和真はミィを高々と掲げると、
「ヤッター!」
と言って、ギュッと抱きしめ、そしておなかに頬ずりをした。
「うひゃぁ! や、やめるにゃ!」
バタバタするミィだったが、ミィの柔らかなお腹はモフモフで、最高に気持ちが良かったのだった。