続き
文字数 1,747文字
続き
遠くに鳥居が見える。
振り返るとそこには色とりどりの出店が並んでいた。
お祭りだ。
一番奥にある出店には行列ができている。
私はそこに並んでいた。
子供の頃に見た風景。
なぜだか顔がぼやけて見えない大人たち。
私の2人ほど前に並んでいた浴衣姿の子供が、こちらを見て小さく手を振るのが見えた。
子供の口から血が流れる。
真っ暗な闇の中、鳥居と同じ朱色の血が、鮮やかに見えた。
私はその子供が幼馴染であることに気付き、駆け寄ろうと列から離れる。
後ろに並んでいた大人に手首を掴まれて、私は列に引き戻される。
なすすべもなく私が見つめるその先で、幼馴染は地面に倒れ、息絶えた。
◇ ◇ ◇
目を覚ますとそこは見慣れた部屋。
ベッドの上に身を起こし、ぐっしょりと濡れたパジャマに身を震わせる。
時計を確認すると午前6時。
休日にしては早く起きてしまったなと思いながら、私はシャワーをあびることにした。
シャワーを浴びてスッキリしたところに、急に電話がなった。
少し嫌な予感を抱きながら受けた電話からは、しばらく会っていない懐かしい友人の声が聞こえてきた。
◇ ◇ ◇
その日の午後、私は着の身着のままで故郷へと向かっていた。
幼馴染が急に亡くなったのだ。
食道静脈瘤。
口から血を吐いて倒れたというその様子に、私は今朝の夢を思い出していた。
普段の通勤列車とは違い、電車はガラガラで日差しもぽかぽかと温かい。
私はいつの間にか眠りに落ちた。
◇ ◇ ◇
……鳥居が見える。
振り返ればお祭り。
行列に並ぶ私の前には、もう一人、知らない大人が立っていた。
突然、目の前に並んでいた人が頭から血を流して倒れる。
朝に見た夢の中、2人前に並んでいた幼馴染、その後の電話、幼馴染の死。
ピクリとも動かない1人前に並んでいた人の体を見て、私は「次は自分の番なのだ」と気付いた。
汗が吹き出し、震える足でゆっくりと後ずさる。
振り返って逃げ出そうとした私の腕を、また知らない大人に掴まれた。
身を捩り、逃げ出そうとするがどうしても手が振りほどけない。
暴れる私の見ている前に、真っ白い人型のモノがふわりと舞い降りた。
それはただの紙の人形のように見えたのだが、私の腕は総毛立つ。
殺される。
人ならざるモノの無言の殺意を全身に受け、私は心臓が止まる程の恐怖に目がくらんだ。
気がつけば電車の中。
いつの間にか私の隣の席には、友人の芦屋が座っていて、私を揺り動かしていた。
頬を流れる冷や汗を袖で拭く。
ドキドキとなる心臓が落ち着くのを待って、私は夢の話を芦屋に話した。
少し険しい顔になった芦屋が溜息をつく。
彼はそれ以上何も言わず、ただ私の背中に指先で何かの模様を描いた。
私は芦屋の言葉にホッと胸をなでおろす。
よくある話だと彼は言った。
続きを見ないようにおまじないも掛けてくれたと言った。
そこで安心して終われば良いのだが、私はどうもこの手の話に興味が尽きない。
思わず、続きを見たらどうなるのか、おまじないとはどんなものなのかを芦屋に問いただしてしまった。
なんでもないことのように芦屋はそう言うと、通夜の後、久しぶりに地元の店に飲みに行かないかと持ちかけるのだった。
もちろん、私のおごりで。
――終わり