1 ❀ 南朝方のお殿様

エピソード文字数 1,421文字

祖父の家を出てしばらく歩くと、山へ入る細い道が現れた。

ゆるやかな傾斜がつづくその道を、功の後ろ姿を追うように進む

言いようのない不安がつのり、萌栄は引き返したい気持ちでいっぱいになった。

なにか、おじさんにききたいこと、ないね? 

なんも分からんで連れてこられて、このへん、モヤッとしちょっちゃないと?

功が自分の胸の真ん中をなぜる。
……。忍塾、ってなんですか?
萌栄はぶっきらぼうにたずねた。怒っているのだ。

塾ではなぁ、忍者になるための勉強をしちょっと。

武道や忍術をね。

もう、ずーっと前からや

ずっと前?

そう。

その昔、怪我をした忍者が、この村へ迷いこんだそうな

昔話風に功は語り始めた。

加藤清正、毒殺のぬれぎぬを着せられた忍者だって話や。

その忍者を庇護したのが、こん辺りの東西両村を治めちょったお殿様だ。

今から約五百年前、北朝の圧迫で逃れてきた一族の嫡子、その子孫でね。

ほくちょう?

南北朝、日本に天皇さんが二人おった時代のことや。


北朝足利さんの立てた天皇さん、南朝後醍醐天皇さんの方や。

北朝の圧迫で逃れてきたということは、ここのお殿様は南朝なのね。

そうや。南朝後醍醐天皇忠臣や。


名君の家系でな。忍者を助けたお殿様も、文武にすぐれた賢いお方だった。


庇護された忍者は、殿さまの人がらにほれ、恩義にむくいたいと思った。


自分の持てる技や術を伝授したのが、ここの忍術道のはじまりや

へぇ~…

ご先祖さんたちは忍術を身につけ、里を守ってきた。


お殿様の指示の元、ほかの藩や領主の元へも偵察に行った。


一方で、あちらから必要とされれば力をかし、恩やつながりをつくって村の地位と価値を高めた

そうなんだ…

ここでは今も次世代の忍者たちが育まれちょっと。

あ、着いたよ

ここ、学校?

いや、や。

今の学校は、小学校も中学校も別んところにあって、となり村の子も一緒に通ってくる。

昔の校舎をこうして、塾として使っとるとよ

となり村?
そう。東ん方にある〝(やま)(づる)(むら)〟や。実は昔から、蝉籠村と村同士競争意識が高くてな。お殿様がおったころは、それぞれの村の長所をうまく引きだして仲良ぉさせちょった
おったころ?

お殿様は、明治ん時に自分の領地を全部村人に分け与えた後、


その後は里でのんびり心静かに余生をすごされたという。


子孫は男爵の爵位を与えられ、都ん方で出世なさったそうや。


お殿様がおらんなってから、村の友好関係を保つために〝学校〟を統合した

なるほど。

学校は一緒やけど、塾は別々や。


村同士、西で地理的な距離もあって、忍道にちがいがあるからや。


塾のリーダーの決め方もちがうっちゃし

リーダー?

この塾では三か月に一度〝合戦かっせん〟っていう選抜戦があっと。


参加希望者は、まず三人で1チームをつくり、大将、副将、三将を決める

武道の団体戦みたいですね

ん~そうやねぇ。

森ん中でほかのチーム相手に、智・技・体をつくして戦う。


最後まで残ったもんが勝ちっていうルール。


大将を討ち取られたり、相手にひどいケガさせたりしたら失格や。

そいで勝ったチームの三人が〝籠目(かごめ)〟っていう向こう三か月、塾ん子たちをまとめるリーダーになる。
リーダーの籠目

俺は、萌栄ちゃんのお母さんとチーム組んで、三年間連勝やった。

不動の籠目〟て異名がついたとよ

三年連勝…。それはすごい)

功が合戦の武勇伝を語り出す。


話を聞きながら、塾の玄関をくぐった。

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登場人物紹介

日高萌栄 (ひだか・もえ


中学2年生、13才の少女。

カピバラをこよなく愛する。

重黒木 鋼じゅうくろぎ・はがね


中学2年生、13才の少年。機械いじりが得意。

椎葉 発(しいば はつ)


中学2年生、13才。

萌栄の友達。花火師の孫。

黒木 殿下(くろき でんか)


萌栄のライバル

那須 雨音(なす あまね)


殿下の友達。

黒木 媛(くろき ひめ)


殿下の妹

日高 結芽(ひだか ゆめ)


萌栄のお母さん

日高 地平(ひだか ちへい)


萌栄のお父さん

日高 雲水(ひだか うんすい)


萌栄の祖父

重黒木 功(じゅうくろぎ こう)


鋼のお父さん

重黒木 理玖 (じゅうくろぎ りく)


鋼のお母さん

椎葉 康次(しいば やすじ)


発の祖父。花火師

黒木 智子(くろき ともこ)


殿下、媛のお母さん。

黒木 未夏 (くろき みか)


クラスメイト

中武 陽(なかたけ はる)


クラスメイト

那須 貴也(なす たかや)


クラスメイト

那須 由子(なす ゆうこ)


クラスメイト

お殿様。


西方の里を治める、お殿様。

南朝の忠臣、その子孫。

忠平(ただひら)


お殿様が助けた忍者。

加藤清正に仕えていたが、毒殺の濡れ衣をかけられ、逃げてきた。

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