プロローグ(1)

エピソード文字数 3,518文字

「うそでしょ……。こんなことがあるなんて……」

 8月1日、午後11時27分。我が家のダイニングテーブルで、俺は絶句した。

「なんなんだ……。この、お誕生日おめでとうプレートは……」

 折角なので、生まれた時間にケーキを箱から出したらね。チョコレート製のプレートにね、《20さいのおたんじょうび、おめでとお まさじまけんと君》という祝福のメッセージがあったんだよ。

「こいつは、ひどい……。あのケーキ屋、酷過ぎるぞ……」
『そうだよな。おめでとお、はないよな』

 どこからかそんな御声が聞こえたが、僕チンが呆れているのはそこではない。僕チンが呆れているのは――

「俺は20歳ではないし、まさじまけんと君でもないんだよなぁ……」

 自分の名前は色紙優星(いろがみゆうせい)で、歳は16。残念ながら、年齢を詐称し芸名で活動をしてはいない。

「この『まさじまけんと』って……。これを作ったパティシエの名前じゃないか……!」

 ここの商品は誰が作り管理したかまでキチンと箱に記載されており、そこには『正島堅斗』とある。絶対にコイツは新人で、誤って自分の歳と名前を書いたんだ。

「堅斗、途中で気付けよ……。そして店は、こんなヤツに任せるなよ……」

 おめでとうすらちゃんと書けない者に、これを担当させちゃいけない。このミス、小学生でもしないぞ。

「……日本語を正しく使えない若者が多くなったと聞いたが、それはまことだな……。ああいや、これは特殊なケースか」

 と自分でツッコミ、スマホでパシャリ。届いたケーキを見たいと言っていたので、ケーキさんを撮って母さんに送る。
 実は今春父さんが単身赴任となり、ウチは2人暮らしとなった。そのため、

『早めに夏季休暇を取れるみたいで、たまには夫婦水入らずで過ごしましょうってなったの。優君は高校1年生だから、ひとりでも大丈夫よね? うん大丈夫っ。身体は離れてても心は一緒だから、誕生日にいなくても大丈夫ーっ』

 ってマイマーザーは仰り、一昨日から4泊5日の日程でファーザーのもとに行っているのだ。

「ぁ~。母さんも父さんも、これを見たらギョッとするだろうなぁ」

 息子のためにワザワザケーキを予約し、いざオープンしてみるとコレ。ショックを受けるよねぇ。
 ブーン ブーン♪
 お、返信だ。なんて書いてあるのかな?


《こんな時間にケーキを食べると、太るわよ~。お母さんが留守にしてるからって、あまりダラダラしちゃダメなんだからね?》


「母さんっ、指摘するトコ違うでしょ!? なぜにプレートをスルーする!?

 ご近所さんに『南国土佐から来た変わり者界の雄』と呼ばれている人間ではあるが、ここでもこんな反応をするとは思わなかった! 息子が誕生した時刻を忘れてるのは仕方ないけど、名前と年齢には触れようよ!

「ぁらら~、これはやってはいけないっスよね~。台無しだって叫びたくなるっス」
「そうそう。こんな風に――っ?」

 今の声、なんだ? 俺は一人っ子で、現在この家には優星しかいないんだぞ?

「え、ええ……? 誰か、いるの?」

 恐る恐る画面から目を離し、台詞が聞こえた正面へと向けてみる。
 さっきのは、空耳だよね……? 誰も、いないよね……?

「じゃじゃ~ん。誰かいるんっスよね~」

 対面の、席に。小豆色のジャージに身を包んだ、髪はボサボサで二十代後半に見える女性が座っていた。

「おわぁぁぁぁぁぁぁっ!? アンタ何者!? どこのどなた!?

 俺は超高速で立ち上がり、超高速で飛び退る。
 こ、こここここコイツはなんなんだっ? なんなんだコイツは!?

「あー、落ち着いて落ち着いてっス。ワタシはこういうモンっスよ」

 目のクマが凄い不審者はポケットに手を突っ込み、ゴソゴソ。暫し探ったのち、名札を取り出して左胸に留めた。

「はいはい、クエッションっス。この札には、なんとあるっスか?」
「…………『神様』、とありますね」
「ピンポンっス! ワタシことリリウは、神様をやってる者なんスよっ」

 両手でアルファベットのG、O、Dを作り、はははっと笑う。
 へぇ~。この人はリリウさんという名で、神様をやっている者なのか。

「これは失礼しました。神様に相応しい食べ物をお持ち致しますので、少々お待ちくださいませ」
「はーい――ってキミ、通報する気っスね!? スマートフォンに110番を入力したっスよ!!

 チッ、気付きやがったか。これができないとなると、どうやってこの妄想不審者を追い出すかな……?

「ウェイトっ、ウェイトっスよ! ワタシは本当に神様なんス!」
「バカ言え。ジャージ姿で髪ボサボサ、クマが凄い神様なんているか」
「これは『スカイ&シー』っていうオンラインゲームを、二日間徹夜でプレイしてたからなんスよ。このゲームは神様の世界で大大大人気で、この格好でやると楽なんス~」
「コラ、いい加減目を覚ませ。アンタはゲームのやり過ぎで、二次元と三次元が混同してるんだよ」

 俺のクラスにも、そういう女子がいる。余談だがその子は先日『ウチは異世界ラミラミミーを救った騎士の生まれ変わりなんですわ!』と言い出し、それ以降渾名が騎士ラミラミになりました。

「違うっス~。ワタシはモノホンっスよ~」
「その手の輩は、皆そう言うんだ。早く我に返れ」

 そして、さっさと去れ。そんでもうすぐ我が故郷・高知で『よさこい祭』が始まるから、ネトゲ仲間と『神様ズ』ってチームを作って出ればいい。そうやって少々ゲームから離れたら、混同しなくなるよ(ここで豆知識タイム。『よさこい祭』は、ご存知高知県の一大イベント。参加するのは勿論のこと観るのも楽しいので、是非是非いらしてくださいませ)。

「んんん~、全然信用してくれないっスね~。それなら証拠を見せるっスよ!」
「証拠ぉ? なにを見せてくれるの?」

 免許証風の、神様証はヤメテね? 学校でラミラミさんに、騎士証ってのを披露されたから。

「ここに、っスね。神様証ってのがあって――これはなんだか一蹴されそうな予感がしたんで別のにするっス」

 免許証風の物体を出していた妄想人間リリウさんは、お手手を引っ込めてガサゴソ。今度は左のポケットを探り、手の平サイズの水晶を登場させた。

「む? それはなに?」
「『神水晶(しんすいしょう)』っス。これに大した力はないんスけど、神様だけが持てるアイテムっスよ~っ」
「ほぉ。一応お伺いするが、どんな力があるの?」

 机下でスマホを操作し、録音を開始する。この会話を録って警察さんの前で流せば、連行が円滑になることでしょう。

「本当に、大した力はないんス。対象は生命のない『物』に限るんスけど、イメージしたコトを現実に起こせるんスよね」

 彼女がケーキに目をやると、一段だったケーキが六段に変貌。15センチのバースデーケーキが、ドデカイウェディングケーキになった。

「まっ、この程度っス。こんな小技で信じて貰えるっスかねぇ……?」
「どこか小技だよ弩級の大技だよ一発で信じちゃったよ!!

 たまらず、句読点を挟まず捲し立てる。
 どうしてコイツはこれに自信を持っていないんだっ!? 神様証の100倍以上スゲェじゃないかよっ!

「ぁっ、こういうので良かったんスか。……ふむふむふむ、人間には神水晶が効果的なんスねぇ」

 リリウさんは呑気にメモをして、ケーキのイチゴをパクンチョ。チェンジさせたとはいえ両親が買ったモノなので、一言断わって欲しかったですはい。

「……アンタ、自由奔放だな――というのはもういいや。アナタって神様だったんだね」
「だから、そう繰り返してたじゃないっスか~。ワタシは神様界33番地に住む、この辺りの次元を管理するゴッドっスよ」
「へー。それで、何をしに来たの?」
「あ、あれれ~っス? 敬ってくれないんスか? 神様界、それと東経133度33分33秒と北緯33度33分33秒が交わる33番地は気にならないっスか?」

 神様は、首を70度近く傾ける。
 流石は神、御首がよく曲がるな。いや神様関係ないか。

「アンタに敬語を使う気になれないし、そっちの世界は別に知りたくない。しかも33番地ネタは高知にある『地球33番地』で間に合ってるんで、何をしに来たのか教えてくださいな」
「ん~、それならしょーがないっスね~。言うっスよ」

 彼女は水晶を仕舞い、パチパチパチパチっと拍手をした。
 む? むむ?
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

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