8 ホッブズ『リヴァイアサン』(2)

文字数 1,932文字

さて、万人が万人を敵とする闘争状態を終わらせる処方箋として、ホッブズが掲げるものは・・・・・・
誰か1人をハブり、生贄にして、よってたかってイジメる!
違う!
ただし、ある意味、鋭いっ!
どこかにイジメの対象をつくれば、他のメンバーは敵対することなく仲間でいられる、つーのは、まさにイジメの論理だね

だからイジメは、なくならないと思うんだ。

イジメられてたやつがいなくなれば、また代わりにね、他の誰かがイジメられるだけさ

いや、そんなことはない。

たとえば、クラスの誰かをイジメるのではなく、みんなでよってたかり、徹底して(担任の)先生を攻撃したらどうだろう?

このパターンなら、イジメはないよ

それって、先生をイジメの対象にしてるだけじゃん

まぁね。そのとおり

ちなみに、今村仁司(1942-2007)さんは、『排除の構造』(ちくま学芸文庫、1992)の中で、最初のパターンのイジメを下方排除、後者のパターンのイジメを上方排除とし、概念化している

下へ叩き落とすか、上を突きあげるか、の違いか・・・・・・

いや、待てよ。

先生はイジメの対象にされちゃった時点で、下方排除なんじゃないの?

お!

じつは、そのとおり。

上方排除と下方排除はグルグル回って入れ替わりやすい

そういや、イジメてたやつが、あるときを境に、突然イジメられる側にまわったりするな・・・・・・

そういうのも、グルグル回ってるパターン?

だね

『排除の構造』は名著だと思う。

いずれ、チャットノベル『哲学探究Ⅱ <社会>とは何か?』を連載していく予定でいるので、そのときにね、あらためてイジメのことも含め、この本を取り上げつつ、社会的排除の問題を論じてみたいと思うね

ということで、まずは、ホッブズだね

ホッブズはいう。

「蜂や蟻の調和は自然のものであるが、人間相互の調和は、契約にもとづかない限り成立しない。それは人為的なものである。したがって、人間相互の調和を恒常的、永続的なものにするためには、当然のことながら、契約のほかに何か別の要素が必要になる。それは、人間を畏怖させ、共通の利益に向けて人間の行動を方向づける公的な権力である」[『リヴァイアサン(2)』(以下②とする):P19]

人間は蜂や蟻と異なり、①名誉欲などからくる競争心があり、②個体の利益と集団の利益が一致せず、③あるべき集団のカタチについても意見が食い違い、④善悪の見境がつかず、言葉に惑わされやすく、⑤不平不満をいう、などの理由により、足並みがそろわない、とホッブズはいう
しかしそれでは永遠にバラバラのままだ・・・・・・

ところが、人間の場合、一つには他者たちに対する(殺されたくないという)恐怖心から、一つには私財を奪われずにいたい、つまり努力すればそれらの財がキチンと手に入り、かつ確保・維持できるようでありたいという願望や期待感から、この闘争状態はなんとかならんものか、と思うようになる、とホッブズはいう。

ただしこれはね、あくまで欲望のレベルの話

人間には理性がある、で、その理性は自然法を教える、とホッブズはいう。

この自然法ってのがね、まずは最初のポイント。

闘争状態を終焉へと導く、いわば土台だよ

自然法とは「理性によって発見された人倫すなわち普遍的な行動規範」[①P223-4]のことなんだけど、もう少し補足してみよう。

そもそも人間に理性を授けてくれたのは、造物主=神。

でね、自然法とは、その理性の声に耳を傾けたとき、聞こえてくるもののこと。

さらにいうと、人間ならばみな同じ声が聞こえてくるんだ。それが普遍ってことの意味。

でね、ちゃーんと耳をすますことができたなら、自然法がいう「こうしたら、いいのに~」「このルールをみんなで仲良く守ることができたら、万人が万人を敵とする闘争状態は終わらせることができるのに~」という声に従うことができたなら、闘争状態は終わるよ、ってわけ

じゃ、その自然法って、具体的には何よ? ってことになるんだが、ホッブズはね、長々と19もの自然法を書き連ねている。

すべて紹介するのはメンドーだからね、コンパクトに一言で要約すると・・・・・・

みずからの求めざるところを、他におこなうなかれ」[①:P273]
うわ、ほんとコンパクトにまとめましたね
殺されたくなかったら、相手を殺すな!
私財を奪われたくなかったら、相手の私財を奪うな!
そんなルールがキッチリ守られるものだったら、苦労はないでしょ~

もちろんYES。

だから、続きがあるんだよ

[引用文献・参考文献]

・ホッブズ『リヴァイアサン(1)』角田安正訳、光文社古典新訳文庫、2014

・ホッブズ『リヴァイアサン(2)』角田安正訳、光文社古典新訳文庫、2018

・今村仁司『排除の構造』ちくま学芸文庫、1992

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登場人物紹介

デンケンさん(49)・・・・・・仙人のごとく在野に生きることを愛する遊牧民的活字ドランカー。かつては大学院にいたり教壇に立ったりしていたが、その都度その都度関心があることだけを考えていきたい、という専門性を磨こうとしないスタンス、及び『老子』の(悪)影響があり、アカデミズムを避けた・・・・・・がゆえに一介のサラリーマンである(薄給のため独身、おそらく生涯未婚)。

朝倉恭平(30)・・・・・・ご近所の鷺ノ森市文化創造センターに契約職員として勤務。

(チャットノベル『毒男女ぉパラダイス!!』の登場人物・朝倉5年後の姿)

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