第1話 〈涼宮ハルヒ〉とは誰なのか
文字数 1,179文字
〈涼宮ハルヒ〉とは誰なのか。
この小論は、そのような問いかけから始まります。
谷川流の〈第8回スニーカー大賞〉受賞作『涼宮ハルヒの憂鬱』が刊行されたのは、2003年6月のことです。
その後、この作品はシリーズ化され、社会現象となるほどのメガヒット作となりました。※1
2020年11月25日に、九年半ぶりの最新作『涼宮ハルヒの直観』が発売されて大きな話題となり、このゼロ年代初期に登場したシリーズが二〇年代になって猶、圧倒的な支持を集め続けているライトノベルである事実をまざまざと見せつけました 。
なぜ〈涼宮ハルヒ〉シリーズは、これほどのまでの人気を保ち得るのでしょうか。
このシリーズについて考えることは、単にライトノベルに止まらず、オタク文化、それから大衆文化 について考えることでもあり、またとりもなおさず現代日本について考えることでもあります。
周知の通り、ライトノベルはオタク文化と密接な関係を持っており、実際〈涼宮ハルヒ〉シリーズにもオタク的な要素がふんだんにちりばめられています。ただ、ユニークなのは、主人公である〈ハルヒ〉だけが、むしろ〈反オタク的キャラクター〉と言うべき存在として描かれている点です。
〈涼宮ハルヒ〉シリーズの主要登場人物である〈長門有希〉や〈朝比奈みくる〉は典型的な〈萌えキャラ〉として造形されています。
〈萌え〉というのはオタク文化から生まれ、後に一般化した概念ですが、作中の正ヒロインであり、ある意味最も〈萌えキャラ〉として設定されて然るべき〈ハルヒ〉に、かえってその要素が欠けている――これは、このシリーズがライトノベルであることを考えれば、かなり奇妙に見えます。
注意していただきたいのは、〈萌え〉の要素が欠けているからと言って、〈ハルヒ〉に魅力がないというわけではありません。
それどころか――
詳しくは後述しますが、〈ハルヒ〉という〈少女〉のイメージは、東日本大震災被災地において被災者を励ます重要なアイコンとして使用されたほどの大きな力を有しているのです。
だから、〈わたしたち〉は問いかけずにはいられません。
〈涼宮ハルヒ〉とは、
問いは既に投げられました。その答えを、これから筆者なりにさぐっていこうと思います。
ただ、その前に〈少女〉というものがいつ
※1 最新作の売り上げは現在のところまだ不明だが、前作『涼宮ハルヒの驚愕』(前・後)まで文庫本で合計十一冊、それ以外にもコミック版、更に海外でも中国版、台湾版、韓国版等が出版されており、2011年5月時点における「全世界での小説・コミックスを合わせたシリーズ累計部数は千六百五十万部」と発表されている(スニーカー文庫編集部編『涼宮ハルヒの観測』、角川スニーカー文庫、二〇一一年、三頁)。
この小論は、そのような問いかけから始まります。
谷川流の〈第8回スニーカー大賞〉受賞作『涼宮ハルヒの憂鬱』が刊行されたのは、2003年6月のことです。
その後、この作品はシリーズ化され、社会現象となるほどのメガヒット作となりました。※1
2020年11月25日に、九年半ぶりの最新作『涼宮ハルヒの直観』が発売されて大きな話題となり、このゼロ年代初期に登場したシリーズが二〇年代になって猶、圧倒的な支持を集め続けているライトノベルである事実をまざまざと見せつけました 。
なぜ〈涼宮ハルヒ〉シリーズは、これほどのまでの人気を保ち得るのでしょうか。
このシリーズについて考えることは、単にライトノベルに止まらず、オタク文化、それから
周知の通り、ライトノベルはオタク文化と密接な関係を持っており、実際〈涼宮ハルヒ〉シリーズにもオタク的な要素がふんだんにちりばめられています。ただ、ユニークなのは、主人公である〈ハルヒ〉だけが、むしろ〈反オタク的キャラクター〉と言うべき存在として描かれている点です。
〈涼宮ハルヒ〉シリーズの主要登場人物である〈長門有希〉や〈朝比奈みくる〉は典型的な〈萌えキャラ〉として造形されています。
〈萌え〉というのはオタク文化から生まれ、後に一般化した概念ですが、作中の正ヒロインであり、ある意味最も〈萌えキャラ〉として設定されて然るべき〈ハルヒ〉に、かえってその要素が欠けている――これは、このシリーズがライトノベルであることを考えれば、かなり奇妙に見えます。
注意していただきたいのは、〈萌え〉の要素が欠けているからと言って、〈ハルヒ〉に魅力がないというわけではありません。
それどころか――
詳しくは後述しますが、〈ハルヒ〉という〈少女〉のイメージは、東日本大震災被災地において被災者を励ます重要なアイコンとして使用されたほどの大きな力を有しているのです。
だから、〈わたしたち〉は問いかけずにはいられません。
〈涼宮ハルヒ〉とは、
誰なのか
。問いは既に投げられました。その答えを、これから筆者なりにさぐっていこうと思います。
ただ、その前に〈少女〉というものがいつ
発見された
のかを、〈わたしたち〉は確認しておく必要があります。※1 最新作の売り上げは現在のところまだ不明だが、前作『涼宮ハルヒの驚愕』(前・後)まで文庫本で合計十一冊、それ以外にもコミック版、更に海外でも中国版、台湾版、韓国版等が出版されており、2011年5月時点における「全世界での小説・コミックスを合わせたシリーズ累計部数は千六百五十万部」と発表されている(スニーカー文庫編集部編『涼宮ハルヒの観測』、角川スニーカー文庫、二〇一一年、三頁)。