第13話
文字数 861文字
「一階に戻ったドロシーだったが、おかみさんはすぐには見つからなくてね。そばでまだ掃除をしていたミカエルが目を丸くして言った。
『どうしたの、ドロシー。そんなに血相を変えて』
すると当然ドロシーは答える。『三階の部屋に誰かいたの!おかみさんはどこ?』
ミカエルもこれにはぎょっとしてね。
それから耳を澄ますと、金属を引き裂くような音が聞こえてくる。それは、獲物を逃した狼の悲しげな咆哮にも思えた。
ドロシーの恐怖が極限に達しようかというときに、おかみさんが裏の厩 から戻ってきた。
『何だい、騒々しい。まだお客さんがいるんだから、静かにしてほしいもんだよ』
ドロシーはおかみさんを見つけると、すぐに駆け寄り、事情を説明した。
『ホントなんですったら!じとっとした手が首に触れたんです。ああ!まだ気味悪い感触が残ってる』
泣き顔で首元をぬぐうドロシーを、おかみさんは半分呆れたように眺めていてね。それから三人を連れて、のしのしと階段を上がっていった。
恰幅 のいいおかみさんは、躊躇 なく三階のドアを開けた。そして手際よくマッチを擦ると、ランプに火を入れた。
『ご覧。猫の一匹だってありはしないじゃないか』
後からおそるおそる入った三人も室内をじゅんぐり見て回る。
四人がけのしなびた木の机。三人の小さな外套 が放り込まれたワードローブ。ガラクタを入れるブリキのバケツ。
これらは、昼間ドロシーらが見たまんまでね。不審な者がいた形跡を探す方が難しいくらいだった。
『窓の留め金もかかってますよ』
比較的冷静なミカエルが言うと、おかみさんもつかつかやって来て、窓の留め金をパチンと外した。そして、身を乗り出して表の馬車道を見下ろした。
外は暗くて何も見えないけど、そこから飛び降りたら骨を折るのは明らかでね。おかみさんは窓を閉めて振り返ると、鼻から息を出しながら言った。
『ドロシー、あんた夢でも見たんじゃないのかい』
『だって』ドロシーはかわいそうに、必死で涙をこらえていてね。たとえ悪夢でも、あんな得体のしれない怪物は出てこない、と密かに考えた」
『どうしたの、ドロシー。そんなに血相を変えて』
すると当然ドロシーは答える。『三階の部屋に誰かいたの!おかみさんはどこ?』
ミカエルもこれにはぎょっとしてね。
それから耳を澄ますと、金属を引き裂くような音が聞こえてくる。それは、獲物を逃した狼の悲しげな咆哮にも思えた。
ドロシーの恐怖が極限に達しようかというときに、おかみさんが裏の
『何だい、騒々しい。まだお客さんがいるんだから、静かにしてほしいもんだよ』
ドロシーはおかみさんを見つけると、すぐに駆け寄り、事情を説明した。
『ホントなんですったら!じとっとした手が首に触れたんです。ああ!まだ気味悪い感触が残ってる』
泣き顔で首元をぬぐうドロシーを、おかみさんは半分呆れたように眺めていてね。それから三人を連れて、のしのしと階段を上がっていった。
『ご覧。猫の一匹だってありはしないじゃないか』
後からおそるおそる入った三人も室内をじゅんぐり見て回る。
四人がけのしなびた木の机。三人の小さな
これらは、昼間ドロシーらが見たまんまでね。不審な者がいた形跡を探す方が難しいくらいだった。
『窓の留め金もかかってますよ』
比較的冷静なミカエルが言うと、おかみさんもつかつかやって来て、窓の留め金をパチンと外した。そして、身を乗り出して表の馬車道を見下ろした。
外は暗くて何も見えないけど、そこから飛び降りたら骨を折るのは明らかでね。おかみさんは窓を閉めて振り返ると、鼻から息を出しながら言った。
『ドロシー、あんた夢でも見たんじゃないのかい』
『だって』ドロシーはかわいそうに、必死で涙をこらえていてね。たとえ悪夢でも、あんな得体のしれない怪物は出てこない、と密かに考えた」