第13話 プレゼント

文字数 1,276文字

 レイのファッションセンスが好きだ。外国の雑誌から抜け出たような美的感覚に魅了される。素足に履いたレザークロッグサンダルも銀のフープピアスも、さりげないセンスが光りその容姿も相まって際立っている。
 近くにできたショッピングモールに行くことになり着替えていた。
 
「ファッションセンス抜群だよね、時々うわぁーって声が出るほどだもの」
「これ、ぜんぶ佐和さんのコーデ。僕は言われるままに着てるだけだよ。ワードローブの中身のほとんどが佐和さんからのプレゼント」
 
 偶然見てしまったスマホのアドレス帳に、顧客名を登録しているので問い質したことがある。個人的な接触はご法度のはずだが数人の例外がいたようだ。佐和さんはその中の一人だ。
 星野佐和、メンズファッション雑誌の副編集長だ。
 以前は彼女の希望でカリスマ美容師のもと髪型まで指示されていた。短めのゆるいウエーブの髪はナイーブで中性的なレイに似合っている。どこかの神話に出てくる神々のように凛々しくてたおやかだ。
 
 雑誌の撮影で使用した服は、希望があれば市場の半値以下で買取ができる。アパレルメーカーとしては協賛という形で宣伝してもらえるが、試着感のあるものを市場に出すことも出来ないので、買取は悪い取引ではない。
 その買い取った服で楽しんでいたのが、レイの

である。デートの時はもちろん、家でのプライベートの時も彼女のコーデで過ごした。おしゃれは気を抜かないこと、が彼女の持論らしい。確かに習慣にしてれば身に付くことは多い。いざ身構えると面倒になってしまう。おしゃれな人は気構えから違うということだ。

「洋服もそうだけど、デート中は食事もタダだし、マンションの家賃も半分出して貰ってたからお金を使うとこがなかった」
「それ世の男子諸君が聞いたら、袋叩きにあうよ」

 衣食住のうち衣と食はタダ同然で家賃も半額なら、高級マンションに住めるはずだと納得がいった。しかも在学中は仕送りも貰っていたらしい。どんだけ恵まれているんだ。世の男子どころか私の方が腹が立ってきた。

「佐和さんって、この間セカンドバック送ってきた人だよね。いまでも個人的に連絡取ってるんだ」
「ああ、暇だったらモデルやらないかって誘われた。断ったけどね」
「きれいな人なの?」
「美人ですね、スタイルもいいし」
「タイプですか?」
「すごくタイプです」
「じゃあ買い物、佐和さんと行けば」
「彼女はいまイタリアなので一緒には行かれません。しおりさんにお願いしたいですね」
「どうしようかな、なんでも好きなものを買ってくれると約束してくれたら考えるよ」
「宣誓!僕はしおりさんを幸せにします。だからどんな命令でも我儘でも訊いてあげます。誓います」
「ずれてる、ずれてる。主旨から大幅にずれてるし」
 
 照れ隠しで部屋から出てドアを乱暴に閉めた。なんだ、アイツわかってやってるのか、だとしたら相当な策士だな。百戦錬磨だから女心を手玉に取るなんて朝飯前だ、ここで(ヒザマヅ)いてはいけません。アイツの思う壺です。
 そうはいっても、あの顔面の前にひれ伏さない女などいるのだろうか。
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登場人物紹介

木元しおり <キモト シオリ>・・・女主人公

逢沢(旧三上)玲 <アイザワ・ミカミ レイ>・・・レンタル彼氏・同級生

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