007.とある会社の都合

文字数 1,339文字

共創文芸社の第3応接室。いつもより狭い部屋で、池森先生は相談者の到着を待っていたのだった。
先生、お待たせしました。
あれ? 那古野さん?




この企画の担当変わったの?

いや、なんというか……
まぁ、あのバカはバイトに降格したらしいしな。



ちゃんとした編集の方が来てくれて、嬉しいよ。

……いや、安崎さんなんですが、




バイトとしてもクビになりました。

どこまで降格するんだ!
……いや、バイトなんで色んな部署に入ってもらったんですが、ことごとくダメでクビになったみたいです。
……



僕はそんなやつに10年以上も担当されてたのか……

先生にはこれまでことごとく迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした。
いや、那古野さんが謝ることじゃない。




まぁ、これからまともな担当がついてくれて、嬉しい限りだよ!

……いや、先生。



大変申し上げにくいんですが、今回で終了なんです。これ。

前号の話はどこへ言った!





結局打ち切りかよ!

いや、もう前回の時点で打ち切りと言うか……次号でラストだって伝えるはずだったんですが……



安崎さんが大嘘をついてまして。

あのバカ! どうなってんだ!
本人曰く、




「バイトとしてすらクビになりそうでカッとなってやった 反省はしていない」




だそうです。

……
まぁ、正確には、この共創文芸社自体がかなりのリストラをやってまして……



この企画が連載されている『文壇』自体もなくなるんですよ。悲しいことですが。

え、そうなの……



じゃあ、安崎もリストラにあったようなもんか。

いや、安崎さんは単に仕事をしなかったので、クビです。
どこまでも救えねえ奴だ!




……で、どうしてそんなにこの会社が傾いたんだ? なんとかやってたじゃないか。

それが……


前に先生に原作をやってもらっていた『こんにちは希望の生徒』


劇場版を含めて馬棋士008さんにやってもらった結果……



とんでもない大コケをしまして。

取り返しがつかなくなってしまいました。

……
「どうして池森先生にそのまま頼まなかったのか」

「どうして池森先生を切るようなことをしたのか」

「池森先生に戻ってきて欲しい」



怒涛の池森待望論が、弊社に吹き荒れております。

それならいくらでも戻ってやるぞ! 仕事ないし!
いや、もう戻る雑誌がないんですよ……
……
さっき行ったリストラのせいで……残る雑誌は、



育児雑誌の『おやこどんクラブ』

小学生向け漫画の『コロリコロリコミック』

競馬雑誌の『馬並みのアレ』



だけなんですよね……。

全部縁がなさそうだな!



あとその雑誌が全部意味深なタイトルに聞こえるのは病気かな……

……



ともあれこの連載、今日が最終回なんで、ゲストに来てもらってます。

嫌な予感しかしないぞ……
どーも!
どの面下げて来た!
やだなあ先生、



このツラで34年の人生、勝負してきたんですよ!

その結果はどうなったんだ!
……
……
以上、『池森圭治のいつもギリギリ』最終回でした。
どんな終わり方だよ!






『池森圭治のいつもギリギリ』 

 



 最終回 おわり




ゲスト……安崎(無職)

聞き手……池森圭治(作家)・那古野絵見(弊社編集)




<編集より>

『文壇』の無期限休刊に伴いまして、最終回となりました。

ご愛読ありがとうございました。池森圭治先生の次回作にご期待下さい。

また、『文壇』を長らくご愛読頂いた読者の方に、心より感謝を申し上げます。


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登場人物紹介

池森 圭治 KEIJI IKEMORI



32歳男性。作家。漫画原作者。

過去にはヒット作もあった作家だが、近年は鳴かず飛ばず。


ジャンルは本人の主張によると純文学だが、世間的にはイロモノ扱いされている。



<代表作>


『地を這うホイール』(著)

『すべてがパーになる』(著)

『加害者Aの放蕩』(著) 


『こんにちは希望の生徒』(原作)

安崎  ANZAKI




34歳男性。共創文芸社の編集。労働組合の委員長。


万年窓際族だが、巧妙にクビだけは回避している自称敏腕編集者。

那古野 絵見 EMI NAGONO



主婦。第5話に登場。

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