第19話 木枯らし 愛のあいさつ
文字数 588文字
音楽室の中で誰かが弾いていた。『木枯し』か?
弾いていたのは夏生だった。美登利がそばで聴いていた。
楽譜をめくってやるとあいつは驚いたようだが集中力は途切れなかった。長い指が奏でた。
おまえと連弾する。おまえはメキメキうまくなる。練習熱心だ。ヘッドホンをし、オレをそっちのけで弾いている。オレはピアノに嫉妬し邪魔をする。
まだ、言わないが、オレは貯金を始めたんだ。おまえと結婚するために。いつかおまえの喜ぶ顔が見たい……そして結婚式にふたりで弾こう。エルガーの『愛の挨拶』
……満ち足りた時間。続くと思っていた。ずっと続くと思っていた。
おまえが離れていくなんて想像もしなかった……ああ、未練がましいな……
天才であり異端児と呼ばれた伝説のヴァイオリニスト、ニコロ・パガニーニの生き様を描いたストーリー。
『愛と狂気のヴァイオリニスト』より
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