プロローグ
文字数 1,235文字
私は常々こう思う。世界には産まれてくる必要のあった人間と、産まれるべきでなかった人間に分類されるのだと。神的な超自然能力を用いて本来ならば流産されるべき運命だった赤子が、何らかの手違いで産まれてきてしまった場合、後者になるのだ。
望まない奇跡に微笑まれた人間達は、望まない運命を約束される。
人間誰しも、一度は思うことがある。産まれてこなければよかった、と。自分の力でどうしようもない困難に見舞われ、本当はこの世界こそが地獄なのだと悟った時に生まれてくる感情だ。しかし、世界に必要とされる祝福された人間は大抵、底から這い上がれる。
では祝福されなかった人間はどうだろう。
私たち祝福されなかった人間は、そのまま生ける
屍となった人間には二つの選択肢が与えられる。一つは、そのまま誰にも祝福されないまま生を終えることだ。友人はできるだろう、ただしその友人は死んでいるか、生きていたとしてもいずれは去る。恋人もできるかもしれない。ただしその恋人は、本当の愛情を注いでいたとしても報われない。愛情という入れ物を入れる器がない人間には、受け取れない。
大抵の祝福されない人間は、このように退屈な人生で生を終える。
私は、もう一つの選択肢を選んだ。
ある時、夢に悪魔が出てきた。黒い羽根が生えて、牙が二本生えている。怒った猿のような顔をして、その躯体は私よりも大きい。目を白黒させている私に、悪魔が言った。
「魂を俺に売れば、お前に力を与えよう」
もう一つの選択とは、悪魔と契約することだ。
これは私の、挑戦状。この瓶の中には、全国の探偵達への挑戦状が詰まっている。謎を解けるものなら、解いてみろというもの。
ミステリーの作法に則るならば、この後は海に投じなければならない。すると瓶が岸に流れ着いて、誰かが開けるのだ。だが私は、そんな不完全な方法で真実を奪いたくなかった。だから、この洋館屋敷の玄関に立てかけておくとする。
扉の下に置いてから、私は自室に戻ろうと振り返った。
私は、あまりの光景に目を疑った。いや、目だけではない。自分が立っているのは本当に地面の上なのか疑ってしまいたくなるほど、私は驚愕した。
次の瞬間、私は銃声を聞いた。
もうじき、私は死ぬだろう。彼女が生きていた事は予想外だったが、それを除けば予定調和だ。
未練がないと言えば、それは嘘になる。だがたった一つの、ささやかな物だった。
神様、それくらいなら叶えてくれるでしょうか。私は薄れゆく意識の中で、彼女の顔を見ながらこう言った。
――誰か、私の謎を理解してください。