第5話   楓蓮 アルバイトする 1

エピソード文字数 3,720文字

 さて、高校の事は置いといて……

 今日は今日で忙しいんだよ。



 何故なら……今から女に入れ替わる訳だが、バイトする為に電話を掛けなければならない。

 そう。昨日行った喫茶店でアルバイトをしようと思うんだ。




 決めた理由としては中々の時給。週二からOK。勤務時間は応相談。歩いて十分ほどの近場。




 決定打といえば俺の煩悩を揺さぶる週払い。これだよ。

 今週から働けば来週には給料が入るなんて素敵すぎるだろ。




 まさに願ったり叶ったりの条件すぎて笑えてくる。

 これはもう俺にバイトしろよと、言わんばかりだぞ。

 きっと運命の神様は俺の為に、お膳立てしてくれたに違いない。






 一応、この事は親父にも伝えてある。


 昨日その話をすると、白峰楓蓮でバイトする場合の心得を子一時間ほど説明されたが、今更言われなくたってある程度の要領は分かっている。




 当然、高校生の黒澤蓮とは無関係を演じる。

 こりゃ当たり前だ。

 


 特に言われたのがスマホについてだったな。

 これはどうやら親父の経験談らしい。



 一台のスマホで番号が二つ使えるサービスに入ったり、ラインも別アカウントを取得し、スマホケースも別にして使うなど、完全に別人を装う為に準備していた。

 


 どこから情報が漏れるか分からない。

 ひょんな所で人間関係は繋がっているから。親父は何度も俺に言い聞かせるのだった。





 それは俺だってよ~く分かってるよ。

 入れ替わり体質として十五年生きて来たんだ。その辺のルールは把握してるさ。




 よし。まずは電話しよう。

 この一本の電話から、慎重にいかねぇとな。

 そこから既に面接は始まっているのだ。




 ※



「じゃあな。行ってくる」 
「お姉ちゃん。頑張ってね」


 玄関先まで見送ってくれる華凛に後押しされ、ドアを閉めた時点で「よ~し」と気合を入れる。


 どこに出かけるのかと言うと、電話を掛けた喫茶店である。

 面接の旨を伝えただけだったが、今からでも速攻来て欲しいと言われてしまい、話した時間は一分も無かった。



 急いで履歴書を製作し、パソコンで作った証明写真を貼り付けて、親父ご用達の小さい鞄を装備し、今しがたマンションの一階に降りてきた所だ。

 



 ちなみに服装は親父が使っているのを拝借した。短パンは恥ずかしいし。





 

 普段なら絶対着ないであろう装備で面接に挑む。ある意味レアな衣装だぞ。ただし髪の毛はポニーテールしか出来ないので、非常に複雑な気分だが。


 


 俺は喫茶店に向かいながら、面接の心得を脳内でリピートさせる。



 大きな声でハキハキと喋る。

 笑顔は忘れない。社交辞令用の笑顔でOK。

 ちゃんと自分の要望は伝える事。これ大事。

 俺はできる女だと思わせるように、常に全力でバイトに取り掛かること。俺の本気を見せ付ける。以上!

 


 初めてのアルバイトに心が躍る。

 それと楓蓮にも、活躍の場が出来るかもしれないと思うと妙に嬉しかった。




 

 歩いて数分。喫茶店が見えると、まずは心を落ち着かせた。ちゃんと喋れれば大丈夫。面接で落とされたりしない。そう心に言い聞かせる。



 親父も言ってた。「楓蓮ならドコに行っても採用される」と。

 今回ばかりは親父の言葉を信じたい。


 喫茶店に入るとカランコロンと言う音が鳴り、出迎えてくれたのは昨日と同じ白竹さんである。


 ここで俺は勇気を振り絞り「面接に来ました」と彼女に告げると、

「昨日二人で来てた方ですよね?」 
「はい……」
やっぱり覚えてましたか。昨日の事ですしね。
「あのね。じいじと言ってたんです。あなたみたいな人がバイトしてくれないかなって」
「じいじ?」
「あっ、あの人です。私のお爺さんです」

 白竹さんが指差したのは、あのハゲツルピンのおっさんである。少し小太りなのに、意外と俊敏な動きで配膳している。


 ってかアレが君のお爺さんなの? し、信じられない。


 君があのじいじのDNAを引き継いでいるとか。それが信じられない。まぁ直接ではないだろうが……どこかで化学反応したとしか思えないぞ。






 その時。厨房からスタタタっと小走りでこちらに向かって来たのは、バーテンダーのような格好をした……男? だよな?



 

 先日のクネクネ男である。男? あぁマジでわかんね~。

 胸が無いので、一応男だと認定しておこう。

「アルバイトさん? うっひゃぁ~。嬉しいですぅう!」

 ますます分からん。喋り方が既に女の子だ。

 これが俗にいう男の娘ってやつなのか?

「採用です。絶対採用さん。わぁ~い!」
「魔樹(まき)しごと。しごと」
「あっ。すみませぬ。お恥ずかしいところを」
「…………」

 な、何て受け答えていいか分からん。



 とりあえず愛想笑いで凌ぐと、男の娘は言うだけ言って厨房に戻っていく。

 クネクネ腰を動かしながら。



 なんつーか。魔樹さんに凄く癒されて、緊張感が無くなったが、ここで気を緩めてはならん。


 白竹さんに連れられて、更衣室のような部屋に案内されると、そこで待つように言われる。部屋から彼女が出て行く際に「絶対採用ですよ」と言われると、気が楽になった。


 ここまで言われると……大丈夫かな?

採用です

 そう言いながらじいじが更衣室に入って来た。

 いや、あの。履歴書とかまだ見せてないのにいいのか?

一応履歴書だけ見せてね。でも採用だから安心してください

(うむ。でかいおっぱいじゃな。ウチの子とそう変わらんのお……)


(ではなくて。この子……もしや……!)

 すげー胸見られてるな。まぁいい。この程度は慣れてるんで動じてはならない。



 ここからじいじの質問が始まる。

十九歳ね。大学は行ってるの?
「いえ、行ってません」

 楓蓮が十九歳としたのは、親父の提案である。


 高校生だと、どこの高校に行ってるかを突っ込まれるとマズいからな。その他には高校によってはアルバイト許可がいる学校もあるだろうし、そんなものは持っていない。


 それに楓蓮は背が百六十くらいあるので、十九でも十分通用する。



 こういう嘘は、昔からだった。

 そうじゃないと俺達黒澤家は、生きてはいけない。 

「それで私。家族と一緒にこの辺りに引っ越してきたばかりで。アルバイト探してて」
「そうなの? じゃあワシらと同じじゃな? ワシらもつい先日引っ越してきたばかりなんですよ」

 それは学校で白竹さんからも聞いている。


 だが楓蓮では今知ったばかりの顔で「そうなんですね」と合わせた。ここ大事。

 


 他にも質問されるが、詰まらずに受け答え出来ているのは、きっと俺が入れ替わり体質の人間として生きてきたからであろう。


 違う人間に成りすますっていうのは、今に始まった事ではないのだから。





 結局、じいじは俺の条件を全部飲んでくれた。

 週二での勤務。ちなみに水曜日と土曜日。

 店の休日は、火曜日と日曜日だそうだ。



 まずは高校生活とバイトの両立に慣れなければならない。バイトを多く入れて高校生活に支障が出てしまえば本末転倒だ。


 

 それに入れ替わりサイクルも把握しなければならないし、しばらくは週二の無理の無いシフトで、勤務時間は六時から十時。つまり喫茶店のラストまでの四時間と決定した。




 そしてじいじは最後にこんな事を言うのだ。

「じゃあ。急で悪いんじゃが……今日からでも働けるかい?」
「え? あ。は、はい!」


 採用して即バイトかよ。

 と突っ込みそうになったが、俺は笑顔で了承する。

 こんな場合でも、できる男(女)として対応しないと。



 華凛にもラインで遅くなると告げると、じいじは「まゆう」を呼んで来るねと言い残し更衣室から出て行ってしまう。





 ま、まゆう?

 あれ? 白竹さんってそんな名前だっけ?



 暫くして白竹さんが更衣室にやってくると、丁寧な挨拶してくる。

「お待たせしました白峰さん。よろしくね。これに着替えましょっか?」


 あっ……すっかり忘れてた。

 俺。こ、この衣装でバイトするの?



 白竹さんが持つフリフリメイドのお洋服。

 いあ。分かってた。分かってたが……




 私。あのバーテンダーみたいな格好が良いです。


えぇ~~何でですか?

白峰さんならきっと、メイド服のほうが似合いますよっ

 そう言われてしまえば、従う他なかった。

「大丈夫ですよ。すぐに慣れますから」

 うぅっ……マジでコレを着るのかよ。カ、カチューシャもつけないとダメ?



あはっ。素敵ですっ! めちゃ似合ってますよっ!
そ、そうですかね……

 思わず顔が引きつりそうになるが、ここはグっと我慢だ。

 お金の為だ。家族の為だ。華凛にも何か買ってやれるし、俺の財布事情もきっと……


 やってやる! 何でも冒険、経験、未経験。かかってこい!

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 登場人物紹介


 白竹 魔樹 (しらたけ まき)


 白竹美優とは双子で弟。じいじが経営する喫茶店で働いています。

 男の子ですが、喋り方が既に女の子で、クネクネしながら厨房で料理を作ります。


 

 

 登場人物紹介


 ★ じいじ


 白竹家のおじいさん。厨房での作業がメイン。


 ☆いつもニコニコ。

 ☆麻雀大好き。


 ツルピカハゲで小太り。

 だけど意外と俊敏で、バレリーナのようにクルクル回る特殊スキルあり。

 

 ちょっとエロい。



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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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