赤毛の犬
文字数 2,071文字
指示を出したカイゼルでさえ、その声は微かに震えていた。
剣を構え、目の前の敵と対峙する。
その目は真っ直ぐに赤い犬を捉えて離さない。カイゼルは1人、逃げる事を考えず、目の前の敵と牽制し合っている。
角を曲がり、カイゼルが見えなくなった瞬間、その声が街中に響いた。
葛藤が顔に表れる。
前足から後ろ足の順で地面に着地した瞬間、カイゼルの方を向き、素早く詰め寄る。
その隙を突いて体の下に滑り込むと、右の後ろ足を斬り上げた。
赤い犬はカイゼルの方へと体を捻りながら、払うように足を振る。
それに合わせるように赤い犬は更に追撃を仕掛ける。
赤い犬はカイゼルを追い詰めると、片足で薙ぎ払った。
そこに近づいていく赤い犬の体に、石がぶつけられた。
敵の注意を自分に向けると、シャロアは槍を構えた。
数秒間の牽制が終わると、ゆっくりと体の向きを変えた。
赤い毛に覆われたその背に、勢い良く剣が突き立てられた。
赤い犬は大きく体を揺らし、背に乗っている敵を振り払おうとする。
振り落とされないように耐える。
赤い犬も抵抗し、ヴェルスを建物の壁に何度も押し付けていく。
そして着地の瞬間、そのタイミングを待っていたかのように赤い犬が大きく口を開けた。
レファの声に反応した時には、赤い犬がヴェルスに食らいつく寸前だった。
顔を上げると、剣で赤い犬を受け止めているフォルクの姿があった。
しかしフォルクは表情を崩さず、武器を構え直した。
近くの2人に目もくれず、力任せに走り出すと、赤い犬は大口を開けて飛び掛かる。
しかし、フォルクにとってそれは隙を晒すだけとなっていた。
滑るように体を逸す。
着地した赤い犬の側面に回り込むと、斬撃を入れた。
赤い犬はすぐさま向きを変えフォルクに襲いかかる。
眉一つ動かさず、素早い動きでそれを避けると同時に斬りつけた。
赤い犬は休む事無く前足を振り下ろす。
隙の無い動きで躱しつつ前足を斬り付け、腹下を潜り抜けながら斬撃を入れた。
攻撃を繰り出すもことごとく躱され続け、赤い犬は徐々に劣勢へと追い込まれる。
不利と判断したのか、赤い犬はフォルクから距離を取ると、体の向きを変えて逃げていく。