赤毛の犬

文字数 2,071文字

な、何だ……あれは……
ゥグルルルルル……
ウォォォォォォォォォン!!
っ!何処でもいい!ここから逃げろ!
3人の本能に直接伝わる生物としての格差。

指示を出したカイゼルでさえ、その声は微かに震えていた。

………………

剣を構え、目の前の敵と対峙する。

その目は真っ直ぐに赤い犬を捉えて離さない。

カイゼルは1人、逃げる事を考えず、目の前の敵と牽制し合っている。

シャロアは建物の影に隠れながら様子をうかがっていた。
カ、カイゼルさん……?!もしかしなくても、これってかなりヤバい状況なんじゃ……!えーーと……今の私に何か出来る事はー……
カイゼルも逃げないと!
いいから行け!どうにか隙を見つけて俺も逃げる!
くっ……!
立ち止まっているレファの手を引いてヴェルスは走り出す。

角を曲がり、カイゼルが見えなくなった瞬間、その声が街中に響いた。

レファを連れて走る足は止まった。

葛藤が顔に表れる。

駄目だ……カイゼルを置いてはいけない……
そんな事言っても……どうするの……?あんなの、倒せる気がしないよ……
あぁ……それでも、時間稼ぎぐらいなら出来るかもしれない……。頼む、力を貸してくれ……
*  *  *
わざわざ俺だけ残すなんて、随分と余裕だな……?それとも、時間をかけて殺そうとする悪趣味な害物だったりするのか?
グルルルルルルルルルル……
ゥゥウオォォォン!!
カッコウの死骸が視界に入る。
って、冗談言ってる場合じゃないか……。このままじゃ簡単に食い殺されるかもしれないな……
グォォォッ!!
けど、ここで死ぬ気なんて……無いんだよっ……!
飛びかかってきた赤い犬に合わせてカイゼルも横に跳ぶ。

前足から後ろ足の順で地面に着地した瞬間、カイゼルの方を向き、素早く詰め寄る。

っ……!
左前足を振り下ろし、叩き潰そうとする。

その隙を突いて体の下に滑り込むと、右の後ろ足を斬り上げた。

くっそ……!全然効かないのかよ……!
少量の血が流れたが、それだけだった。

赤い犬はカイゼルの方へと体を捻りながら、払うように足を振る。

後ろに跳び、攻撃を躱す。

それに合わせるように赤い犬は更に追撃を仕掛ける。

敵の体は大きく、回避を続けている内に徐々に距離が詰まる。


赤い犬はカイゼルを追い詰めると、片足で薙ぎ払った。

がはっ……!
吹き飛ばされ、地面に倒れる。

そこに近づいていく赤い犬の体に、石がぶつけられた。

グルル……
ほらほら!こっちですよ!!

敵の注意を自分に向けると、シャロアは槍を構えた。

グルルルルル……
怖くなんかない……そんな顔してたって、怖くなんか……!!
赤い犬は息を荒くすると、後退りするシャロアに向かって駆け寄っていく。
っ……!
レファの放った矢が首元を掠め、赤い犬は攻撃を受けた方向に目を向けた。
……!
こっちだ……!そのまま僕を見ていろ……!
赤い犬は2人を交互に見る。

数秒間の牽制が終わると、ゆっくりと体の向きを変えた。

グオォォォォッ!!
空に向かって吠えた後、敵を見据えて走り出した。
うぅっ……。ヴェルス……!
レファさん!!
グォォォォアァァッ!!
今だ……!
獲物に飛びかかろうと足に力を入れた瞬間。

赤い毛に覆われたその背に、勢い良く剣が突き立てられた。

グォォォッ……!!
血飛沫がヴェルスを濡らす。

赤い犬は大きく体を揺らし、背に乗っている敵を振り払おうとする。

2人共、早く……!
僕がカイゼルを連れて行くよ!シャロアも早く逃げて!
は、はい……!

振り落とされないように耐える。

赤い犬も抵抗し、ヴェルスを建物の壁に何度も押し付けていく。

ぐ……!ぅ……!!
ヴェルスは耐え切れず、剣を残して背から離れる。

そして着地の瞬間、そのタイミングを待っていたかのように赤い犬が大きく口を開けた。

ヴェルス!

レファの声に反応した時には、赤い犬がヴェルスに食らいつく寸前だった。

グォォォォアァァァァッ!!
何かに引っ張られ、ヴェルスの体は地面に倒される。

顔を上げると、剣で赤い犬を受け止めているフォルクの姿があった。

こんな所に新種が現れるとは……
態勢を整える為、赤い犬は後ろに下がる。
グルルオオォォォ!!
直線上、目に映る敵を威嚇する。

しかしフォルクは表情を崩さず、武器を構え直した。

グアァァオッ!

近くの2人に目もくれず、力任せに走り出すと、赤い犬は大口を開けて飛び掛かる。

しかし、フォルクにとってそれは隙を晒すだけとなっていた。

滑るように体を逸す。

着地した赤い犬の側面に回り込むと、斬撃を入れた。

赤い犬はすぐさま向きを変えフォルクに襲いかかる。

眉一つ動かさず、素早い動きでそれを避けると同時に斬りつけた。

グォォァアァァッ!!

赤い犬は休む事無く前足を振り下ろす。

隙の無い動きで躱しつつ前足を斬り付け、腹下を潜り抜けながら斬撃を入れた。


攻撃を繰り出すもことごとく躱され続け、赤い犬は徐々に劣勢へと追い込まれる。

グルルル……グルルル……

不利と判断したのか、赤い犬はフォルクから距離を取ると、体の向きを変えて逃げていく。

…………
武器を収め、カッコウの死骸から核を取る。
演習は終わりだ、支部に戻るぞ
あまりに出来事に3人は少しの間、呆然としていた。
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