第6話

文字数 1,959文字

クリスティーンは翌日、シャーロットを連れて街に出かけた。
赤い郵便ポストを指差し、クリスティーンはシャーロットに尋ねた。
「あの赤いポスト見てワクワクしたことはない?」
シャーロットは首を横に振った。
「それはないかも・・・」
クリスティンはうなづいた。
「そうでしょう。私はエディンバラにきたばかりの時、この赤い郵便ポストを見てワクワクしたのよ。今はそんなことないけど!」
シャーロットは何のことか分からず、首を傾げた。
シャーロットはとりあえず、クリスティーンに行き先を委ねた。

クリスティーンは雑貨屋に入り、何やら写真の載った絵葉書を複数枚と消しゴムを購入した。
その後、高級ブランド品が並ぶショウウィンドウを闊歩した。
クリスティーンはまたシャーロットに尋ねた。
「ねえ、ほらあの服良いよね!」
シャーロットは首をひねった。
「うーん、ちょっと派手過ぎない?」
「でももし誰かが買ってくれるとしたら?」
「うーん、それでも要らないかな・・・」
クリスティーンはクスっと笑った。
「そういうことよ」
シャーロットはクリスティーンがすでに何かを掴んだことを察知した。
しかし、どうせ教えてくれないことも想像がついたので、尋ねるのをやめた。

そして数日後、エマの元へ二人はやってきた。
「どう、わかったの?」
エマはルンルンと目を光らせている。
クリスティーンは大きく深呼吸をしてから、こう語った。
「ええ。ただ、今からお伝えすることは仮に当たっていたとしても、エマさんに受け入れてもらえないかもしれません。そういうちょっと深い話になりますし、もしかしたら嫌な気持ちになるかもしれません。それでも良いですか?」
エマはプッと吹き出した。
「もちろんよ。覚悟はできている。何より何も分からず漠然とした不安を抱える今よりマシよ」
クリスティーンは少し表情を和らげて言った。
「よかった。では、お話ししますね」
クリスティーンは絵葉書をエマにみせた。
「あら、セレーナ・ゴメスじゃない?私、セレーナ・ゴメスはもっと小さい時は憧れの人だったのよ。彼女が大人になってからはそうではないけど・・・」
クリスティーンは珍しく、子供のような無邪気な顔をみせた。
「私も好きだったんですセレーナ・ゴメス。よくディズニーのドラマとかでていてよく見ましたよ」
「そうそう、あの世代はみんなティーンで成功したからね。私も憧れたなー」
「そうですよね。自分よりちょっと上の人たちで成功していたので何だか身近でしたよね」
「うーん、私もそれに影響されて女優になったようなもんだし」
「それなんですよ・・」
ズバッとクリスティーンは言い放った。
エマは首を傾げる。
「私たちは大抵、テレビの前のことしか知らなくて、テレビの撮影されている向こう側がわからないんです。私は2回も見学させてもらったのに、未だに何だかわかりません」
エマは静かにうなづいた。
「大人になったセレーナ・ゴメスとかティーンで成功したハリウッドセレブたちの話とか聞いたんですが、学校では有名人ということでいじめられ、インターネットやS N Sを見れば批判だらけ。おまけにプライベートでは至る所にパパラッチが潜んでいて、休みも多くなく、普通の人の生活は送れないと・・・」
エマは深くうなづいた。
「そう、そうなのよ。私も思うわ。普通の生活もしてみたかったなって。それでも私は女優を始めたのはちょっと子役にしては遅めだし、まだ普通の子を経験しているけどね。あとは、ちょっとこんなはずじゃなかったって思いもあるわ」
「そうですよね。なんか常に肩の力が抜けなさそうですもんね」
「もちろん、嫌な人とも一緒にいなければいけないし、嫉妬も多いし。私も他人の事言えた身ではなくて、よく嫉妬することもあるし・・・」
「でも女優は好きな仕事ではあるんですよね?」
「もちろん!」
エマは胸を張った。
それをみて、クリスティーンはまたもう一枚絵葉書を取り出した。
「山?」
「はい、アルプス山です。私、アルプスに登ったことがあるんですが、エマさんはありますか?」
「うーん、私、山って行ったことないんだよね・・・」
「良いですよ、山は。それはともかく、山を登る時って、山を登るのに一生懸命なんですよね。それ以外考えない」
エマはクリスティーンをじっと見つめた。
「山の頂上に着くと、特にアルプスなんかは一面雪が積もった山が並んでいてそれはそれは綺麗なんです」
エマは納得したようにうなづいた。
「ただ、そりゃあ綺麗な光景なんですが、そこに3時間もいれば飽きるんですよ」
「あーわかる。やることないなーってなるのよね」
「そうなんです。ただ、いざ下山するとよかったなーって満足な気持ちでいっぱいなんです。しかも、現実に戻らなきゃいけないから、『さて次何しようか?』って思い巡らせもします」
エマはまた数回首を縦に振った。

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