第252話 受付ショタ

文字数 1,412文字


 結局、母さんに相談しても、腐女子の落とし方なんて分からなかった。
 とりあえず、変態のおぞましい願望が常に脳内で漂っているのは、把握できたと思う。
 近隣の警察署に届け出しておくか。

 
 気がつけば、夏休みもあと一ヶ月。
 もう8月だ。
 窓の外からは蝉の鳴き声が聞こえてくる。
 クーラーをつけているから、窓は閉め切っているというのに。
 ったく、余命一週間の生き物なんだから、そんなに叫ぶなよ……。

 なんて思っていると、一本の電話が。
 珍しい名だ。
 ロリババア。
 出版社である博多社、俺の担当編集部員、白金 日葵。

「もしもし」
『あ、DOセンセイ! 今、暇でしょ? 久しぶりに打ち合わせしますよ!』
 だから、どいつもこいつも、なんで俺を勝手に予定無しと決めつけるんだ。
「打ち合わせ? なんの?」
『実は表紙絵と挿絵をトマトさんが、ついに完成させたんです! DOセンセイにも是非見てほしくて!』
「なるほど。それは楽しみだ」
『ええ、じゃあ。あと一時間以内に編集部まで、おなしゃす!』
 と一方的に電話を切られる。

 クソがっ!
 まあ、どうせ今日は夕刊配達も休みだったし、明日の朝まで何もすることない。
 久しぶりに外出するか。

   ※

 久しぶりの天神は、殺人的に日差しが強く、アスファルトから熱気がむんむんと跳ね返ってくる。
 二重で暑苦しい。
 喉がカラカラだ。
 相変わらず、バカみたいに目立つ巨大なビル。
 博多社。

 自動ドアを通り過ぎると、すぐに受付のカウンターが見えた。
 だが、今日はいつも何か様子が違う。
 普段ならば、
「あら~ 琢人くん~」
 なんて倉石さんが声をかけてくれるのに。

 受付嬢ではなく、受付男子? とでも言えばいいのだろうか。
 かなり若い男性……いや、男の子か。
 頬がまだ赤く、幼く見える。
 天然パーマのショートボブ。
 大きな瞳に童顔。髪型も中性的で、少し間違えれば、女の子に見えそう。
 そんな彼は、上下真っ白な制服を纏っている。
 細身のボタンジャケット、タイトなスラックス。
 この受付にいなければ、海軍のセーラー服のようだ。

 俺が黙って突っ立っていると、
「あ、あの……我が社に何か御用でしょうか?」
 なんて、たどたどしく声をかけてきた。
 初対面の俺にかなり脅えている。
「お前、誰だ? 倉石さんはどうした?」
 不思議に思った俺は、彼の顔をじっと見つめる。
「ひぃっ! く、倉石さんは異動となりました。今はBL編集部で編集長をやっています……」
「ああ。そう言えば、そうだったな」
 忘れてた。
 それにしても、この兄ちゃん。
 なんでこんなに脅えているんだ?

「お前、随分若いな。年はいくつだ? 名は?」
「ひ、ひぃ! ぼ、僕ですか……年齢は16歳です……名前は、住吉(すみよし) (はじめ)と言います」
 俺より年下か。
「住吉 一か。認識した。俺は新宮 琢人。一応、お前より年上の作家様だ」
 とりあえず、マウントを取っておく。
「ひぃ! これは作家様でしたか! では、どちらの編集部にお繋ぎすればいいでしょうか?」
 なぜ涙目なんだ?
 別に住吉が悪いわけではないが、見ていると、いじめたくなるな。
 
「ゲゲゲ文庫のバカを呼んでくれ」
「あ、倉石さんより伺っております。白金さんですね。少々、お待ちくださいませ。新宮様」
 なんて律儀に頭を垂れる住吉。
 ヤベッ、超気持ちイイわ。
 
 母さんの言っていたショタをいじめる快感ってのは、こういうことなのか?
 ちょっと、癖になりそう。
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