観察の終わり

文字数 1,937文字

ようやく ここまで来た

箱庭的宇宙再現装置 現実との同期率95% 2034年3月15日の●●県■■町■■海水浴場
蔵人の死んだ場所 蔵人の死んだ日
そして 蔵人が何故死んだのかを再現できる装置

このために 私は10年間死なずにいた

私にとって 蔵人は人生の全てだった
蔵人が居なければ 私に生きている意味は無いと言ってもよかった

だから    私も蔵人の後を追って死ぬつもりだった

でも どうして あの海水浴場で蔵人が死んでいたのか
それを知るまでは死ぬわけにはいかなかった

事故ならいい   しかし 誰かが関わっていたのなら







今日は全ての研究員に休みを出した
私的な理由でこの再現された地球を使っている事が発覚するのを防ぐためでもあるが
蔵人が死ぬ姿を見た自分が冷静で居られる補償が無いので その醜態を晒したくないというのもある



GBPの端末を操作して 2034年3月15日の朝10時を出す
場所は●●県■■町■■海水浴場 春先だからか 浜辺には誰も居ない

しばらくして その浜辺に 白衣を来た人間がやってくる

ああ 蔵人だ
夏でも冬でも いつも白衣を着ている変わり者
その上 中に着ている服はよれよれのままだし 寝癖がついたままじゃないか

本人ではなくデータと分かっているが 慈しむのを止められない



だが ただ生きている蔵人を見るためにここまでやってきたわけではない
蔵人に何があったのか それを知らねば 私は



急に モニターの中の蔵人が消えた

なんだ 何があった
時間をまき戻して確認するが 砂浜の土を採取している蔵人が 突然姿を消してしまう


まさかと思い 海水浴場を拡大して見てみるが     居た
浜辺から蔵人が消えた瞬間 海の上にうつ伏せで浮いている人間が出現する


どういうことだ


瞬間移動をしただけではなく 移動した時点で死んでいるように見える
物理法則的にありえない事だ この環境は全て現実と同じになるよう再現されているはず
もしも突拍子も無い現象が起きるとすれば それはバグか      まさか


データの差し替え


そんな まさか と思いながら 入力されているデータのログを確認する
日付指定では遡るのが大変なので 場所指定で       あった

2044/07/26 convert@Hotei-Nyal

いや しかし そんなはずは無い
無いというより ここでデータを差し替える意味が分からない  しかも先週ではないか
何故だ 死んだデータに差し替えというのなら 蔵人は死ぬ必要は無かったという事か
どういう事だ 分からない 蔵人が死ななければ歴史が現実と同期しないという事か
駄目だ 一旦落ち着こう コーヒーでも淹れて


――――マモナク同期ガ完了シマス――――


私しかいない研究室に 機械音声が響く

音の発生元は内有のデスクから 箱庭的宇宙再現装置と現実との同期が100%になるという報せだ

今日は内有にも休みを出しているので 本来ならば内有の端末も電源が切ってあるはず
なのに 私が蔵人の死について調べている時に通知が鳴るなど まるで見計らったかのようなタイミング

この部屋には私しか居ない GBPの端末の管理のため 盗撮や盗聴も行えないようにセキュリティにも万全を期してある
どこかから私を見ているというのは不可能なはずであり 偶然なら偶然で確率的にとても低いタイミングだ


何も無いはずだが 顔を振って辺りを見回す
何故だか 何者かに監視されているような圧迫感を感じる
横隔膜が重圧で潰れていくような 呼吸の感覚が短くなる息苦しさ


先ほどのデータの差し替えの疑問による混乱が 新しく沸いた疑問により上書きされていく


データの差し替え そうだ 何度も内有に頼んで行ってきたことだ
内有のデスクに近寄り 端末を覗く


データ上の地球で再現された事象を こちらで作った任意の事象に変更する
端末はデータ上の世界が まもなく現実に追いつくことを現している


そうして任意の事象に変更する事で 歴史を修正してきた
内有の端末のモニターは この研究室を映している


そう 現実と同じ世界を再現できる装置で 何度も歴史を修正 いや 変更してきた
モニターの日付は今日 私が研究室に入り 自分のデスクでGBPの端末を操作して


歴史を変更しなければ 同じにならなかった
私は何かに驚き 顔を左右に振り


つまり この世界は
内有のデスクに向かい


――――『『同期ガ完了シマシタ』』――――


二重 いや 三重以上にも渡る 実験の完了の電子音声が流れ
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登場人物紹介

戸隠顕子(とがくれ けいこ):実験室の室長。十年かけてこのプロジェクトの発足を成功させた。

内有布袋(ないある ほてい):戸隠顕子の後輩。有機スーパーコンピューターGBP(Glitter Black Polyhedron)を所持する企業からの外部協力者。

伊豊貞衣(いほう てい):内有布袋の彼女。研究室のメンバー。

野倉舞(のぐら まい):研究室のメンバー。内有と伊豊と同郷。

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