第1話 許さない
文字数 2,037文字
許さない。
絶対に許してなんかやらないんだから。
あなたは忘れているかもしれないけど、これは、価値がある物なの。
例え、割りばしの袋だとしても。
捨ててしまわれる物かもしれないけど、ゴミかもしれないけど、私にはとても価値があったの。
修復不可能になってしまった全てがあなたが書いたものだということも、あなたはわかってない。
自分の気持ちを伝えるつもりなんてなかった。
気付かれないように誤魔化し通す自信だってあったわ。
容姿なんて、平凡すぎて張り合うことなどしなかった。
初めから手が届かないとわかっていたし、対等に仕事ができるだけで嬉しかった。
電話が苦手なところやお酒の名前を覚えるのが苦手なところ。
実は、お酒が弱いからグラスに口を付けているだけな所。
ホラー映画が苦手で、その手の話はテンションが下がっている所。
大きな仕事を終えたら、真っ先に家に帰りたいって思っている所。
遠くだったあなたは、意外と身近な人だった。
知れば知るほど好きになり、好きになればなるほど、苦しくなった。
蓋を閉めていれば大丈夫。
見られなければ大丈夫。
たくさんの言い訳をならべてきた私の恋。
それなのに、珍しくあなたは酔わなかった。
「いつも世話になっているから」と、家まで送り届けてくれた。
まるで、あなたの恋人になったように、私を守って電車に乗って。
いつもより近い距離が嬉しかった。
まっすぐに歩けてないじゃないかって、手も繋いでくれて。
油断してしまった私は、いつもは口にしない言葉をいい、あなたを困らせてしまったわ。
「...夜に、この道を一人で歩いているときが一番、寂しい...」
月明かりが違うあなたを作ってた。
そんな自分だけの特別な時間。
ずっと、忘れないでいよう。
胸に想いを閉じ込めて、蓋をする。
階段を上がる時に、おぼつかない私を部屋まで送り届けてくれたあなた。
でも、これ以上は、踏み入って欲しくない。
気を利かせて、いつも私があなたにするように、あなたは私の鍵を手に取り、ドアノブに手を置いたわ。
「だめ。...入らないで」
この先は、私だけの場所なの。
だけど、あなたは、いつも仕事で見せるような強気だったわ。
「気にするな、部屋の中に入るのを確かめるだけだから」
そう言って、あなたは、扉を開けたわ。
靴箱の上に並べた割りばしの袋を見てなぜか、怒り出したあなた。
粉々に破り捨て、つなぎ合わせることのできないぐらいになった袋を見て、私は、自分の気持ちまで傷つけられたようだった。
涙を流す私をあなたは抱きしめてきたわ。
そして言ったの。
「好きなんだ」って。
「気取らない自然なままがいい。 綺麗な顔よりも、あんたの笑ってる顔がみたい。
悔しくて、上司を睨みつける顔は、ごめんだけど、それでも、あんたは俺といるべきだ」
まさか、彼が私を好きになってくれているとは思っていなかった。
アルコールがいつもより多く入った私は、涙腺がもろくなっていた。
さっきまでとは違う涙を流している私を見て、勘違いしているあなた。
「泣くほど、嫌だとは気づかなかった」なんて弱気な言葉に、涙より笑みを浮かべていた私。
本当に、何してんだか。
両想いだって気づいてるのは私だけ。
でも、粉々になった袋が視界に入って悔しさが込み上げてきた。
可愛げのないセリフが、咄嗟にでていた。
「許さないんだから。 これは、私のご褒美だったんだからねっ!」
ポカンと間抜けな顔のあなた。
変なところで鈍感なのねと、新しい彼の一面を知れて、私は初めて彼の前で偽りではない笑みを浮かべたの。
捻くれ者同士の私たち、やっと気持ちを繋げたわ。
「...このビリビリに破いた物、何なのか気づいてる?」
私の問いに、彼は気まずそうな顔をして答えたわ。
「飲む前に書かされる割りばしの袋と自宅の場所」
彼は、続けて言い訳をしてきたわ。
「あんたの好きな奴のだって思ったんだ。 自分の知らない場所であんたが他でも酒を誰かと飲んでるのだと思ったら、嫉妬した。 俺以外に、誰かを家まで送り届けてるのかって思ったら...」
嫉妬という言葉に、喜ぶ自分がいた。
でも、だからと言って、修復不可能にするのは、許せない。
「...私の大切な物、なくなった。 粉々になって、直せなくなった。絶対に許さない。」
似合わない仕草だけれど、子どものように頬を膨らませて言ってやった。
「ずっと、ずっと、許してなんかやらないんだから」
鈍感な彼は、このセリフに気付くだろうか。
そう思っていたら、彼は、嬉しそうに笑うのだ。
そして、
「うん、ずっと、ずっと、謝るチャンスを俺にくれ」って。
だから、彼は、私の宝物の代わりを作らないの。
だって、作ってしまうと、謝るチャンスが減るじゃない?
私の恋のアイテムは、二度と戻ってこない。
それが私の幸せの形。
絶対に許してなんかやらないんだから。
あなたは忘れているかもしれないけど、これは、価値がある物なの。
例え、割りばしの袋だとしても。
捨ててしまわれる物かもしれないけど、ゴミかもしれないけど、私にはとても価値があったの。
修復不可能になってしまった全てがあなたが書いたものだということも、あなたはわかってない。
自分の気持ちを伝えるつもりなんてなかった。
気付かれないように誤魔化し通す自信だってあったわ。
容姿なんて、平凡すぎて張り合うことなどしなかった。
初めから手が届かないとわかっていたし、対等に仕事ができるだけで嬉しかった。
電話が苦手なところやお酒の名前を覚えるのが苦手なところ。
実は、お酒が弱いからグラスに口を付けているだけな所。
ホラー映画が苦手で、その手の話はテンションが下がっている所。
大きな仕事を終えたら、真っ先に家に帰りたいって思っている所。
遠くだったあなたは、意外と身近な人だった。
知れば知るほど好きになり、好きになればなるほど、苦しくなった。
蓋を閉めていれば大丈夫。
見られなければ大丈夫。
たくさんの言い訳をならべてきた私の恋。
それなのに、珍しくあなたは酔わなかった。
「いつも世話になっているから」と、家まで送り届けてくれた。
まるで、あなたの恋人になったように、私を守って電車に乗って。
いつもより近い距離が嬉しかった。
まっすぐに歩けてないじゃないかって、手も繋いでくれて。
油断してしまった私は、いつもは口にしない言葉をいい、あなたを困らせてしまったわ。
「...夜に、この道を一人で歩いているときが一番、寂しい...」
月明かりが違うあなたを作ってた。
そんな自分だけの特別な時間。
ずっと、忘れないでいよう。
胸に想いを閉じ込めて、蓋をする。
階段を上がる時に、おぼつかない私を部屋まで送り届けてくれたあなた。
でも、これ以上は、踏み入って欲しくない。
気を利かせて、いつも私があなたにするように、あなたは私の鍵を手に取り、ドアノブに手を置いたわ。
「だめ。...入らないで」
この先は、私だけの場所なの。
だけど、あなたは、いつも仕事で見せるような強気だったわ。
「気にするな、部屋の中に入るのを確かめるだけだから」
そう言って、あなたは、扉を開けたわ。
靴箱の上に並べた割りばしの袋を見てなぜか、怒り出したあなた。
粉々に破り捨て、つなぎ合わせることのできないぐらいになった袋を見て、私は、自分の気持ちまで傷つけられたようだった。
涙を流す私をあなたは抱きしめてきたわ。
そして言ったの。
「好きなんだ」って。
「気取らない自然なままがいい。 綺麗な顔よりも、あんたの笑ってる顔がみたい。
悔しくて、上司を睨みつける顔は、ごめんだけど、それでも、あんたは俺といるべきだ」
まさか、彼が私を好きになってくれているとは思っていなかった。
アルコールがいつもより多く入った私は、涙腺がもろくなっていた。
さっきまでとは違う涙を流している私を見て、勘違いしているあなた。
「泣くほど、嫌だとは気づかなかった」なんて弱気な言葉に、涙より笑みを浮かべていた私。
本当に、何してんだか。
両想いだって気づいてるのは私だけ。
でも、粉々になった袋が視界に入って悔しさが込み上げてきた。
可愛げのないセリフが、咄嗟にでていた。
「許さないんだから。 これは、私のご褒美だったんだからねっ!」
ポカンと間抜けな顔のあなた。
変なところで鈍感なのねと、新しい彼の一面を知れて、私は初めて彼の前で偽りではない笑みを浮かべたの。
捻くれ者同士の私たち、やっと気持ちを繋げたわ。
「...このビリビリに破いた物、何なのか気づいてる?」
私の問いに、彼は気まずそうな顔をして答えたわ。
「飲む前に書かされる割りばしの袋と自宅の場所」
彼は、続けて言い訳をしてきたわ。
「あんたの好きな奴のだって思ったんだ。 自分の知らない場所であんたが他でも酒を誰かと飲んでるのだと思ったら、嫉妬した。 俺以外に、誰かを家まで送り届けてるのかって思ったら...」
嫉妬という言葉に、喜ぶ自分がいた。
でも、だからと言って、修復不可能にするのは、許せない。
「...私の大切な物、なくなった。 粉々になって、直せなくなった。絶対に許さない。」
似合わない仕草だけれど、子どものように頬を膨らませて言ってやった。
「ずっと、ずっと、許してなんかやらないんだから」
鈍感な彼は、このセリフに気付くだろうか。
そう思っていたら、彼は、嬉しそうに笑うのだ。
そして、
「うん、ずっと、ずっと、謝るチャンスを俺にくれ」って。
だから、彼は、私の宝物の代わりを作らないの。
だって、作ってしまうと、謝るチャンスが減るじゃない?
私の恋のアイテムは、二度と戻ってこない。
それが私の幸せの形。