59.フォーク少佐とショータイムと拷問と

文字数 2,395文字

「さて、ショータイムだ」
 フォークが嬉しそうに笑うと、ソビエト製のマシンピストル、スチェッキマンを腰から抜き、柱に縛られている沖田の太ももを無造作に撃ち抜いた。
「ぐうっ!!わぁああああ!」
 叫びを上げてのたうつが、柱にワイヤーで縛られているため倒れ込むこともできない。食い込んだワイヤーが肌を裂き肉を切り、血がしたたり落ちる。
「やめろ!クソやろう!!!」
 数メートル先で同じように拘束されている吉川が叫ぶが、フォークは気にすることなく、今度は腹に銃弾を撃ち込んだ。
「ッ・・・・!!!」
 声にならない叫びを上げ失神する沖田。
「死にはしないが、痛みは感じるようだな」
 フォークが沖田の傷口が塞がっていくのを、さも面白そうに覗き込む。
「そっちの奴は足を切断してみようか」
 隣に立つ兵士がチェーンソーのリコイルロープを引いた。 
 鋭い歯の並ぶ大型のチェーンソーが煙を吐き、鋭い刃が高速で回転を開始する。
「お前に頭を切り飛ばされたのは俺の弟だ」
 チェーンソーを持った兵士がゆっくりと小坂に近づいていった。

 装備一式を取り上げられ、後ろ手に金属製のいかつい手錠をかけられた沖田達三人は、エリサと共に城内にある中庭へと連れてこられていた。
「貴様らはこっちだ」
 手錠につけられた鎖を乱暴に引かれて、数珠つなぎに引っ張られていく沖田達三人。
「オキタ!」
 悲痛な表情でこちらに振り向いたエリサに、沖田が手錠ごと両手を挙げて微笑んで見せた。
「大丈夫!必ず助けるからねぇ~!」
 ニコニコ笑いながら手を振り続けると、革命軍の兵士にライフルのストックで殴られる。
 三人は壁際に均等に並べられ、地面に打ち込まれたコンクリート製の大きめの柱にワイヤーでくくり付けられた。
 エリサはトラディッチの横に置かれた椅子に座らされ、その目の前でフォークが嬉々としてはじめたのがこの拷問劇だった。

 チェーンソーの刃が小坂の足の付け根に向かってゆっくりと振り下ろされる。
「戦車のキャタピラに巻き込まれた時に比べればましか…」
 高まる動悸を抑え込むように小坂がゆっくり深呼吸する。
 高速で回転するチェーンソーの刃が小坂の大腿に近づいたとき、エリサの悲鳴が上がった。
 エリサの髪をつかみ、その様子に顔を向けさせていたトラディッチが手を挙げると、フォークと兵士の動きが止まる。
「やめさせて…彼らは解放してあげて」
 震え声で言うエリサ。しかし、
「彼らは多くの同志を虐殺した上、研究所を崩壊させていますからな。楽に死なせることはできません」
 冷たい眼でトラディッチがエリサを見下した。
「もっとも、王女次第で彼らを救うことも可能ですがね」
 トラディッチの能面のような顔を見上げたエリサが震える顔をうつむけ頷いた。

 中世の頃からある石造りの地下牢。
 見るからに拷問用とわかる器具が並べられている一角とは対照的に、地下牢の奥には近代的に整備された医療施設が地下牢奥に備え付けられており、そこだけはアクリル製の防弾ガラスで覆われ、床は冷たいタイル張りだった。
 監視カメラに囲まれた備え付けベッドに拘束されているのは、沖田、吉川、小坂の三人だった。
 それぞれ装備は取り上げられ、白い病院服を着させられている。
 ベッド脇の消毒盤台に並べられているのは、大きめ鉗子、アイスピック、ドリル、糸鋸といった、およそ医療器具とは思えない代物ばかりだった。
「俺らは解放するんじゃなかったのかよ!」
 沖田がそれらの器具を見ながら大声を上げる。
「まあ、脱出できないこともないが」
 吉川が拘束具を引っ張ってみる。能力を使えば脱出することはわけもなさそうだが、室内の監視カメラは常に彼らに向けられている。
「早くしないと、モンチッチとエリサちゃん結婚しちゃうぜ」
 吉川が茶化そうとして声色が緊張してしまいばつが悪そうに舌打ちする。
 三人を解放する条件としてエリサが承諾したのは、トラディッチ大佐との結婚だった。
 革命後に続く女王派レジスタンスとの内乱状況を早期平定して、経済活動を再開、内外に自身の統治を認めさせたいトラディッチにとって、女王派勢力を取り込み国内の一般市民の信認を得て、反革命勢力を封じることは急務だった。
 エリサとの結婚を発表することで、トラディッチ自身も正当な王室メンバーとなり、女王からその権力を委譲されようというのだ。
 城内に侵攻している反革命軍やレジスタンスに対しては既に場内の放送で知らされており、女王派の多い彼らの勢力は一旦戦闘停止を余儀なくされていた。
 沖田達自身は、能力を使えば簡単に脱出することは可能だが、少しでもおかしな動きをすれば、女王やエリサに危害を加えると脅されていた。
「ロボトミーって知ってる?」
 危うく右足をチェーンソーで落とされそうになった小坂が首だけ二人に向けた。
「50年代にアメリカで話題になった前頭葉の脳外科手術だろ」
 吉川が応える。
「科学的根拠がまったくないあれが手術と言えるのかね」
 とこれは沖田。
「アイスピックをまぶたの裏から差し込んで前頭葉の神経を切ることで、従順な人間を作り出すらしい」
 二人が小坂の方を同時に見た。
「なんでこういう状況でそういうこと言うかなぁ」
 沖田と吉川がさも嫌そうな顔をした。
 ガチャリと音がして病室のドアが開き、白衣を着た医師と看護婦、重装備の兵士数名が室内へと入ってくる。
「そんな古い話を良く知っているな。君たちは」
 話を聞いていたのか、丸眼鏡をかけ小太りの医者がアイスピックを取り上げた。
「君に焼き殺されたニコライは、私の義兄でね」
 その長いニードルのついたアイスピックを看護婦に渡してアルコールで消毒をさせる。
「オキタ君は麻酔なしだ」
 口の端を引きつらせて笑みを浮かべた。
「サディストどもが・・・」
 さすがの沖田も顔を引きつらせ、その医師を睨みつけた。

To be continued.
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