第2話
文字数 1,092文字
志村との待ち合わせ場所に使ったのは、通っていた大学近くの商店街にある喫茶店。僕は引っ越してしまったので、そこに赴くには地下鉄を二本乗り継ぐ必要があったが、数年ぶりに会える親友との再会の事を考えれば大した労苦ではなかった。
店に入ると先に志村が待っていた。僕が軽く手を上げて挨拶すると、志村も手を上げて返してくれた。数年ぶりの再会であったのに、僕たちは数週間ぶりに再会した友人のように親しげだった。
「よう。久しぶりだな」
「こちらこそ」
僕は志村の言葉に軽く答えた。志村はアメリカ西海岸で生活していたせいか、以前よりも大らかで明るい人間になったように思えた。
席に着くと店員が注文を取りに来たので、僕は一番安いブレンドコーヒーを頼んだ。そして改めて志村に向き合い、こう口を開いた。
「アメリカでの生活はどうだったのさ?」
「向こうでの生活は案外普通だったよ。それなりに教養や常識がある人を相手にするデスクワークだったから、暴力に怯える事は比較的少なかったかな」
他人事の様な口調で志村はアメリカでの生活を要約した。苦労や苦痛が滲まないという事は、肉親を失った苦痛を忘れるくらいに充実していたか、忙しい日々だったのだろう。その見返りが億単位の収入ならば。理解できる気がした。
今度は志村が僕に訊いてきた。僕の方から志村に質問したのだから、僕が次に答えるのは当然の事だ。
「君の方はどうだったんだい?結婚したと聞いたけれど」
「結婚したけれど、それ以外の生活は普通かな。あと乗っていた車が変わったよ。大学卒業後に勝った350Zから、中古のAクラスのAMGになったよ」
「あの車手放したのか、いい車で自分の手足みたいにしていたのに」
「いろいろ理由があるのさ。何時までも少年のままでいる事が困難なのと同じでね」
僕はそこで言葉を一旦止めた。今年の初夏に350Zを手放した時の、自分の肉体の一部が消えてしまうような喪失感が、ぼやけた印象として胸の中に蘇ってくる。
「そういえば、アメリカでは仕事以外に何かあったのかい?何か資格を取ったとか、友人が出来たとか」
切なくなってしまった自分の気持ちを断ち切るように、僕は志村に再び質問した。志村はまた質問されるのに戸惑ったのか、ちょっと当惑したような目になった。
「あるよ。それはもちろん」
「どんな体験なんだい?」
興味を抱いた僕は志村に食い下がった。以前の車と同時に手放したはずの少年の部分が、形を変えて現れたような感じだった。
「休日の日に、車を使ってカリフォルニアからネバダ州の北部に行った時の話なんだけれどね」
志村は少し神妙な面持ちになって、こう語りだした。
店に入ると先に志村が待っていた。僕が軽く手を上げて挨拶すると、志村も手を上げて返してくれた。数年ぶりの再会であったのに、僕たちは数週間ぶりに再会した友人のように親しげだった。
「よう。久しぶりだな」
「こちらこそ」
僕は志村の言葉に軽く答えた。志村はアメリカ西海岸で生活していたせいか、以前よりも大らかで明るい人間になったように思えた。
席に着くと店員が注文を取りに来たので、僕は一番安いブレンドコーヒーを頼んだ。そして改めて志村に向き合い、こう口を開いた。
「アメリカでの生活はどうだったのさ?」
「向こうでの生活は案外普通だったよ。それなりに教養や常識がある人を相手にするデスクワークだったから、暴力に怯える事は比較的少なかったかな」
他人事の様な口調で志村はアメリカでの生活を要約した。苦労や苦痛が滲まないという事は、肉親を失った苦痛を忘れるくらいに充実していたか、忙しい日々だったのだろう。その見返りが億単位の収入ならば。理解できる気がした。
今度は志村が僕に訊いてきた。僕の方から志村に質問したのだから、僕が次に答えるのは当然の事だ。
「君の方はどうだったんだい?結婚したと聞いたけれど」
「結婚したけれど、それ以外の生活は普通かな。あと乗っていた車が変わったよ。大学卒業後に勝った350Zから、中古のAクラスのAMGになったよ」
「あの車手放したのか、いい車で自分の手足みたいにしていたのに」
「いろいろ理由があるのさ。何時までも少年のままでいる事が困難なのと同じでね」
僕はそこで言葉を一旦止めた。今年の初夏に350Zを手放した時の、自分の肉体の一部が消えてしまうような喪失感が、ぼやけた印象として胸の中に蘇ってくる。
「そういえば、アメリカでは仕事以外に何かあったのかい?何か資格を取ったとか、友人が出来たとか」
切なくなってしまった自分の気持ちを断ち切るように、僕は志村に再び質問した。志村はまた質問されるのに戸惑ったのか、ちょっと当惑したような目になった。
「あるよ。それはもちろん」
「どんな体験なんだい?」
興味を抱いた僕は志村に食い下がった。以前の車と同時に手放したはずの少年の部分が、形を変えて現れたような感じだった。
「休日の日に、車を使ってカリフォルニアからネバダ州の北部に行った時の話なんだけれどね」
志村は少し神妙な面持ちになって、こう語りだした。