第6話
文字数 3,861文字
【前回までのあらすじ】
ブラックスミスとの楽曲をかけた対決は佳境!
絶体絶命のピンチの中、
桐子が見つけた『正解』とは?
一体どうやってゾンビであふれかえるスタジアムで、ボスを倒すのか?
####################################
マイケル・ジャクソン、言わずと知れた世紀の大スター。尊敬の念をもってキング・オブ・ポップと崇められている。
楽曲にダンス、ミュージックシーンに革新をもたらし、数々の偉業を成し遂げたことは誰もが知っている。
そんな彼の輝かしい伝説の中に、一本のミュージックビデオが存在している。
「『スリラー』のミュージックビデオの長さが『13分34秒』です!」
桐子はコンタクトリストの【ブラックスミス】の項目にチェックを入れて、喋っていた。
「正解だ、フリフリ。このイベントはスリラーのMVをモチーフにしてる」
すぐにスミスさんから返事があった。まだボスのミュージシャンゾンビの所に到達していないのか、戦闘を繰り広げる激しい音が聞こえてくる。
「私だって、少しは頭を使うんですよ」
「俺はすぐにピンと来たけどな。過去にも『ショーン・オブ・ザ・デッド』やら、『死霊のはらわた』やらをモチーフにしたイベントがあった。このワールドを制作し管理している奴がゾンビモノマニアだって俺は知ってたってからな」
「だから、私にヒントをくれたんですね!」
時間のハンデだけじゃなく、イベントの経験値の差を謎解きのヒントという形でスミスさんは与えてくれていたのだ。
自分を追い詰めるためか、彼なりのフェア精神か……、それだけじゃないのかも知れない。
「謎を解いて浮かれてるみたいだがな、フリフリ、勝負はもう決まってんだ。俺はあと少しでボスの所にたどり着く、あんたはスタジアムの外でボスの首がすっ飛ぶところをコントローラー握ってぼけーっと眺めてな!」
「握るのはコントローラーじゃありません!」
マップを開いて、オート移動の設定をする。
目的地は数千数万のゾンビが待ち受けるスタジアムの中心だ。
「私が握るのは、マイクです!」
デスク上のスタンドからマイクを引き抜いた桐子は、椅子から立ち上がる。
「灰姫レラ、歌います!」
最後にパソコンのアプリで音楽を再生する。桐子の部屋だけでなく、ゲーム内に向かってもイントロが流れ始める。
「曲はアオハルココロちゃんで『エモートボム』!」
☆★☆★☆★☆★☆★
灰姫レラがハイハットの刻むリズムに合わせ、軽やかに歩き出す。
キラキラ、ドレス翻し、
カツカツ、踵ならして向かうは、
ギラギラ、死霊うずまくこの世の地獄。
生(リアル)と死(バーチャル)を繋ぐ、
灰姫レラの歌声が響き渡る。
『
教室の隅っこで 今日も無表情に笑ってる
みんなが笑っているから 僕も笑顔を作ってる
』
歌声に気づいたゾンビたちが振り返る。
虚ろな目に見つめられながら、灰姫レラは無防備に近づいてく。
『
SNSの中で 今日も無意味に怒ってる
誰かが叩けと叫ぶから 僕は棒を握ってる
』
灰姫レラが数歩の距離に迫り、ついにゾンビたちが動き出す。
汚れた牙を剥き、歓喜のうめき声を上げ、
――道を開けていく。
生者に襲いかかることを本能に組み込まれたゾンビたちが、
聖者を崇める敬虔な使徒のように、
スタジアムへと続く道を作り出す。
『
リモートな感情なんて要らないんだ
僕には言葉にならない爆弾が必要なんだ
』
2つに割れたゾンビの海を、灰姫レラは悠然と渡っていく。
花道を飾るゾンビたちは興奮気味に手を伸ばすが、
その指先は決して灰姫レラには触れない。
ステージ上のミュージシャンゾンビは灰姫レラに気づき、
バックバンドに向かって指を鳴らす。
サビに向かうこの曲をゾンビバンドが大音量で奏で出す。
『
せせら笑う奴らに BANG! エモートボム!
怒りで満ちたネットに BANG! エモートボム!
哀しませる世界に BANG! エモートボム!
退屈な生き方に BANG! エモートボム!
』
間奏の間もスタジアム全体が揺れていた。
灰姫レラの歌声とゾンビサウンドに、
観客ゾンビたちは盛り上がり続けている。
激しいヘッドバンキングに首がもげ落ち、振り回した腕が宙を舞う。
「ひゅ~、やるじゃねえか、フリフリ!」
口笛でメロディを重ねながらステージを目指すブラックスミスに、
ゾンビたちは灰姫レラの邪魔をするなとばかりに激しく襲いかかる。
「ご機嫌なダンスタイムだ! 俺も踊り狂ってやるよ!」
大刀を振るうブラックスミスは小さな竜巻と化す。
迫り来るゾンビたちをまるでリズムゲームのように次々斬り飛ばしていく。
『
リビングの椅子で 今日も無感動に泣いている
テレビが悲しめと言うから 僕は涙を流してる
』
灰姫レラの音楽と、ブラックスミスの殺戮が、
同時に中央のステージに迫っていく。
『
退屈の中で 今日も無価値に生きている
僕が生きろと願うから 僕は死なずにすんでいる
』
ゾンビたちの歓声と悲鳴がスタジアムを狂気に染め上げる。
『
スマートな人生なんて無理なんだ
僕には言葉にならない爆弾が必要なんだ
』
救済と処刑の果て、
先にステージに足をかけたのは、灰姫レラだった。
目の前にボスがいる。
弾丸を撃ち込めば全てが終わる。
でも、まだ歌は終わってない。
ステージに立った灰姫レラはダンスエモートを披露する。
ゾンビたちの盛り上がりは最高潮に達していた。
『
せせら笑う奴らに BANG! エモートボム!
怒りで満ちたネットに BANG! エモートボム!
悲しませる世界に BANG! エモートボム!
退屈な生き方に BANG! エモートボム!
』
灰姫レラはロケットランチャーをぶっ放す。
狙いなんてつけてないロケット弾がスタジアムの客席に突っ込み爆炎をあげる。
右に、左に、真ん前に。
ついでに残っていた手榴弾も全部、放り投げる。
スタンドもスクリーンもフィールドも全部を破壊し、
ゾンビたちごと屠っていく。
『
一発じゃ足りない!
百発でも足りない!
全てを破壊し尽くすほどのエモートボム!
』
スタジアムのあちこちで爆発が起こり、業火が燃えがる。
やけくそになった他のアバターたちも重火器をぶっ放していた。
『
BANG! BANG! BANG!
(BANG! BANG! BANG!)
』
耐えきれなくなったスタジアムがゾンビを巻き込んで崩壊を始める。
『
BANG! BANG! BANG!
(BANG! BANG! BANG!)
』
巨大な照明の支柱が爆破され、スタンドの椅子をなぎ倒しながらフィールドに倒れ込んでくる。
足止めするゾンビが居なくなったブラックスミスが、ステージに駆け上がる。
『
BANG!(BANG!)
BANG!(BANG!)
BANG!(BANG!)
』
短い息を吐きブラックスミスが大刀を振るう。
歌詞ともに灰姫レラはロケットランチャーの最後の一発を放つ。
激しいダンスの果てに絶頂したミュージシャンゾンビを、刃とロケット弾が襲った。
『
BAAAAAAAAAAAAAANG!!!
』
吹き飛ばされたミュージシャンゾンビは、ロケット弾ごと客席にダイブ。凄まじい大爆発を起こし、崩れつつあった客席にとどめを刺す。
客席が崩れる轟音に、
イベント終了を告げるサイレンが重なった。
☆★☆★☆★☆★☆★
動く者がほとんどいなくなったスタジアムのフィールド上で、桐子とスミスさんは並んでその時を待っていた。
言葉は要らない。
必要なのは純然たる結果だけだ。
システムアナウンスが流れる。
『感染源は無事に処分されました。功績のあったハンターにはスコアに応じて、共通ポイントが与えられます。ランキングを確認して下さい』
奇跡的に被害をまぬがれていたスタジアムのスクリーンの一つに、ランキングボードが映し出される。
その最上段に輝いていたのは――。
「あっ……」
「まあ、こういう結果になるな」
桐子が息を呑み、スミスさんが大刀を背負い直す。
1位 灰姫レラ
2位 ブラックスミス
####################################
勝負は桐子の大逆転で幕を閉じた。
楽曲提供の約束を勝ち取ったのだ。
そして次回、
ブラックスミスの口から、ヒロトの過去が語られる。
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ブラックスミスとの楽曲をかけた対決は佳境!
絶体絶命のピンチの中、
桐子が見つけた『正解』とは?
一体どうやってゾンビであふれかえるスタジアムで、ボスを倒すのか?
####################################
マイケル・ジャクソン、言わずと知れた世紀の大スター。尊敬の念をもってキング・オブ・ポップと崇められている。
楽曲にダンス、ミュージックシーンに革新をもたらし、数々の偉業を成し遂げたことは誰もが知っている。
そんな彼の輝かしい伝説の中に、一本のミュージックビデオが存在している。
「『スリラー』のミュージックビデオの長さが『13分34秒』です!」
桐子はコンタクトリストの【ブラックスミス】の項目にチェックを入れて、喋っていた。
「正解だ、フリフリ。このイベントはスリラーのMVをモチーフにしてる」
すぐにスミスさんから返事があった。まだボスのミュージシャンゾンビの所に到達していないのか、戦闘を繰り広げる激しい音が聞こえてくる。
「私だって、少しは頭を使うんですよ」
「俺はすぐにピンと来たけどな。過去にも『ショーン・オブ・ザ・デッド』やら、『死霊のはらわた』やらをモチーフにしたイベントがあった。このワールドを制作し管理している奴がゾンビモノマニアだって俺は知ってたってからな」
「だから、私にヒントをくれたんですね!」
時間のハンデだけじゃなく、イベントの経験値の差を謎解きのヒントという形でスミスさんは与えてくれていたのだ。
自分を追い詰めるためか、彼なりのフェア精神か……、それだけじゃないのかも知れない。
「謎を解いて浮かれてるみたいだがな、フリフリ、勝負はもう決まってんだ。俺はあと少しでボスの所にたどり着く、あんたはスタジアムの外でボスの首がすっ飛ぶところをコントローラー握ってぼけーっと眺めてな!」
「握るのはコントローラーじゃありません!」
マップを開いて、オート移動の設定をする。
目的地は数千数万のゾンビが待ち受けるスタジアムの中心だ。
「私が握るのは、マイクです!」
デスク上のスタンドからマイクを引き抜いた桐子は、椅子から立ち上がる。
「灰姫レラ、歌います!」
最後にパソコンのアプリで音楽を再生する。桐子の部屋だけでなく、ゲーム内に向かってもイントロが流れ始める。
「曲はアオハルココロちゃんで『エモートボム』!」
☆★☆★☆★☆★☆★
灰姫レラがハイハットの刻むリズムに合わせ、軽やかに歩き出す。
キラキラ、ドレス翻し、
カツカツ、踵ならして向かうは、
ギラギラ、死霊うずまくこの世の地獄。
生(リアル)と死(バーチャル)を繋ぐ、
灰姫レラの歌声が響き渡る。
『
教室の隅っこで 今日も無表情に笑ってる
みんなが笑っているから 僕も笑顔を作ってる
』
歌声に気づいたゾンビたちが振り返る。
虚ろな目に見つめられながら、灰姫レラは無防備に近づいてく。
『
SNSの中で 今日も無意味に怒ってる
誰かが叩けと叫ぶから 僕は棒を握ってる
』
灰姫レラが数歩の距離に迫り、ついにゾンビたちが動き出す。
汚れた牙を剥き、歓喜のうめき声を上げ、
――道を開けていく。
生者に襲いかかることを本能に組み込まれたゾンビたちが、
聖者を崇める敬虔な使徒のように、
スタジアムへと続く道を作り出す。
『
リモートな感情なんて要らないんだ
僕には言葉にならない爆弾が必要なんだ
』
2つに割れたゾンビの海を、灰姫レラは悠然と渡っていく。
花道を飾るゾンビたちは興奮気味に手を伸ばすが、
その指先は決して灰姫レラには触れない。
ステージ上のミュージシャンゾンビは灰姫レラに気づき、
バックバンドに向かって指を鳴らす。
サビに向かうこの曲をゾンビバンドが大音量で奏で出す。
『
せせら笑う奴らに BANG! エモートボム!
怒りで満ちたネットに BANG! エモートボム!
哀しませる世界に BANG! エモートボム!
退屈な生き方に BANG! エモートボム!
』
間奏の間もスタジアム全体が揺れていた。
灰姫レラの歌声とゾンビサウンドに、
観客ゾンビたちは盛り上がり続けている。
激しいヘッドバンキングに首がもげ落ち、振り回した腕が宙を舞う。
「ひゅ~、やるじゃねえか、フリフリ!」
口笛でメロディを重ねながらステージを目指すブラックスミスに、
ゾンビたちは灰姫レラの邪魔をするなとばかりに激しく襲いかかる。
「ご機嫌なダンスタイムだ! 俺も踊り狂ってやるよ!」
大刀を振るうブラックスミスは小さな竜巻と化す。
迫り来るゾンビたちをまるでリズムゲームのように次々斬り飛ばしていく。
『
リビングの椅子で 今日も無感動に泣いている
テレビが悲しめと言うから 僕は涙を流してる
』
灰姫レラの音楽と、ブラックスミスの殺戮が、
同時に中央のステージに迫っていく。
『
退屈の中で 今日も無価値に生きている
僕が生きろと願うから 僕は死なずにすんでいる
』
ゾンビたちの歓声と悲鳴がスタジアムを狂気に染め上げる。
『
スマートな人生なんて無理なんだ
僕には言葉にならない爆弾が必要なんだ
』
救済と処刑の果て、
先にステージに足をかけたのは、灰姫レラだった。
目の前にボスがいる。
弾丸を撃ち込めば全てが終わる。
でも、まだ歌は終わってない。
ステージに立った灰姫レラはダンスエモートを披露する。
ゾンビたちの盛り上がりは最高潮に達していた。
『
せせら笑う奴らに BANG! エモートボム!
怒りで満ちたネットに BANG! エモートボム!
悲しませる世界に BANG! エモートボム!
退屈な生き方に BANG! エモートボム!
』
灰姫レラはロケットランチャーをぶっ放す。
狙いなんてつけてないロケット弾がスタジアムの客席に突っ込み爆炎をあげる。
右に、左に、真ん前に。
ついでに残っていた手榴弾も全部、放り投げる。
スタンドもスクリーンもフィールドも全部を破壊し、
ゾンビたちごと屠っていく。
『
一発じゃ足りない!
百発でも足りない!
全てを破壊し尽くすほどのエモートボム!
』
スタジアムのあちこちで爆発が起こり、業火が燃えがる。
やけくそになった他のアバターたちも重火器をぶっ放していた。
『
BANG! BANG! BANG!
(BANG! BANG! BANG!)
』
耐えきれなくなったスタジアムがゾンビを巻き込んで崩壊を始める。
『
BANG! BANG! BANG!
(BANG! BANG! BANG!)
』
巨大な照明の支柱が爆破され、スタンドの椅子をなぎ倒しながらフィールドに倒れ込んでくる。
足止めするゾンビが居なくなったブラックスミスが、ステージに駆け上がる。
『
BANG!(BANG!)
BANG!(BANG!)
BANG!(BANG!)
』
短い息を吐きブラックスミスが大刀を振るう。
歌詞ともに灰姫レラはロケットランチャーの最後の一発を放つ。
激しいダンスの果てに絶頂したミュージシャンゾンビを、刃とロケット弾が襲った。
『
BAAAAAAAAAAAAAANG!!!
』
吹き飛ばされたミュージシャンゾンビは、ロケット弾ごと客席にダイブ。凄まじい大爆発を起こし、崩れつつあった客席にとどめを刺す。
客席が崩れる轟音に、
イベント終了を告げるサイレンが重なった。
☆★☆★☆★☆★☆★
動く者がほとんどいなくなったスタジアムのフィールド上で、桐子とスミスさんは並んでその時を待っていた。
言葉は要らない。
必要なのは純然たる結果だけだ。
システムアナウンスが流れる。
『感染源は無事に処分されました。功績のあったハンターにはスコアに応じて、共通ポイントが与えられます。ランキングを確認して下さい』
奇跡的に被害をまぬがれていたスタジアムのスクリーンの一つに、ランキングボードが映し出される。
その最上段に輝いていたのは――。
「あっ……」
「まあ、こういう結果になるな」
桐子が息を呑み、スミスさんが大刀を背負い直す。
1位 灰姫レラ
2位 ブラックスミス
####################################
勝負は桐子の大逆転で幕を閉じた。
楽曲提供の約束を勝ち取ったのだ。
そして次回、
ブラックスミスの口から、ヒロトの過去が語られる。
『お気に入り』や『いいね』『感想』等ありましたら是非お願いします!
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連絡先 takahashi.left@gmail.com
講談社ラノベ文庫より『エクステンデッド・ファンタジー・ワールド ~ゲームの沙汰も金次第~』発売中!
AR世界とリアル世界を行き来し、トゥルーエンドを目指すサスペンス・ミステリーです。
よかったら買ってください。
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