第33話 川の中でのあれやこれや

文字数 3,169文字

 ふふーん、いいねーいいねー。
 水はいいねー、川はいいねー、ついでに海もいいよー。


 湖に飛び込んだ私は、あれから川の流れを操りながら水中をすいすいと進んでいた。
 あっ水はいいっていたけど、雨はダメ!! 細かく分かれて空気に触れている辺りが別物だからね!!

 しかし大精霊様が追って来れないように、水の流れを本来のものからグチャグチャにしちゃったのはちょっとやり過ぎだったかな……!?
 まっいいかー!! やりすぎなくらいの方が安心だしー!!
 川の流れもしばらくしたら勝手に元に戻るはずだから後々の問題も残らないしー!!


 さてさて、もう随分(ずいぶん)距離も取れたところで改めて…………助かったぁぁ!!

 さっきの豹変(ひょうへん)っぷりは何あれ!?
 怖かったんだけど!! 私以外の女の子なら泣いてるんじゃない……?

 そりゃあ、気を紛らわすために変な歌をつくって頭の中で作って歌っちゃいますよー!!
 考え事するのにも変なハイテンションになりますよー!?


 よし、いったん落ち着こう冷静になろう……!!

 まずは深呼吸をして……っていけない、ここは水中だったね!?
 私にはイイ感じのアレがあるので、水中でも大丈夫なんだけど流石に深呼吸は出来ないよ。そもそも吸う空気がないからね!!

 どうしよう、全然冷静になれてない……とりあえず数字でも数えようかな。
 そうだそれがいい……!! 100くらいまで数えれば冷静になれるだろう、たぶん!!



―――――――――――――――――――――――――――……



 早速本国に連絡を取ってみたが……。

「ここしばらく姿を見ていないか……」

 誰に向けるでもなく、ぽつりと呟く。
 確かにアイツは定期的に姿を消すが、長期間で消息不明というのは異常だ……。
 それに姿を消した時期が私の長期出張に出てからと、ほぼ同時期というのはどういうことだろうか……。

 ……本当にただの偶然(ぐうぜん)か?

 仮にも『気のせいだと』強く念を押されたことではあるし、私の思い過ごしならそれはそれで構わない。

 ……いや、私は自分の言葉通りの行動をしよう。

 だからアイツのことは、最低限の捜索に留めておくとしよう。
 そう、最低限だけな……。



―――――――――――――――――――――――――――……



 ……98、99、100っとー。

 よしよし、だいぶ落ち着いたね!!

 落ち着いたところで考えを整理していこうー!


 まずは今後の予定かな……?

 とりあえず今の私は昨晩(さくばん)借りて目を通した地図のお陰で、一帯の川がそれぞれどこに繋がってるかは把握(はあく)済みなのでルートも行き先もだいたい決めてある。
 そこまで警戒する必要はないかも知れないけど、念のために大精霊様の森の反対側の位置まで行ってから川から上がろうと思っている。それでそこからアルフォンス様の城に戻る予定。

 現在地についてはザックリだけど、なんとなる程度には分かってるつもりだし、移動についても川の流れが勝手に大体の目的地まで連れて行ってくれるように設定してあるから割と悠長(ゆうちょう)に構えてても平気なんだよねー。

 何もしなくても目的地に着く、つまり考え事もし放題!! うん、川って便利だなー!! 逃げ場にもなるし最高!!


 移動についてはそんなところで、お次は大精霊様について考えなきゃね……。気は進まないけど今一番、避けて通れない問題だし……。
 えーと、あれはね呼んでもいないのに出て来られて迷惑だったけど、私の華麗(かれい)気転(きてん)でどうにかなった! と思ったところからの謎のブチギレ……という怒涛(どとう)の展開で、さすがに理不尽(りふじん)過ぎません?

 やっぱりおかしいよね? ね?
 アレは急に何かに腹を立てたというより乱心した……? みたいな感じだし。

 明らかに1000年前の出来事を話し始めた辺りで様子がおかしくなったし、特に何が原因になのかと考えると……。


『既に息も……絶え絶えになった……彼の姿を……』

『救えなかった……』

『守れ、なかった……』


 この辺りの大精霊様の台詞が気になるよね……。
 本人の話によると元々クリスハルト様と会う約束をしていたみたいだし、ここで言ってるのは間違いなく彼のことだろう。

 でもクリスハルト様の死因(しいん)っていうと、私の記憶が正しいならば流行病(はやりやまい)での病死だったはず。でもそうすると、『救えなかった』はともかく『守れなかった』は不自然なんだよね。
 それを考えると彼は何者かに殺害されたと解釈する方が自然だ。
 そうすれば完全に取り乱しながら言った『殺せなかった』の言葉にも納得がいくけど……。

 しかしそれでも納得出来ないのは、大精霊様が殺せなかったという点だ。
 だって大精霊様ほどの力を持っていて、殺意を持った相手を殺せないというのは不自然だから。
 伝説上で語られる光の魔力以外が効かない闇のモノならともかく。それ以外で大精霊が殺せないものなんて、まずこの世に存在しないだろう……。

 うーん、殺したくなかった? 殺せない理由があった?

 あの様子をみるに殺したくなかったは有り得ないだろうね。
 だって物凄く殺意が高かったもの……!! 思い出すだけで恐ろしいくらいですもの……!!

 そうなって来ると当時の出来事や関係者を洗ってみるべきじゃないかと言いたいところだけど、そもそもが1000年前だからね……どうにかなれば良いんだけど、まず情報が手に入るかな……。



 あと調べて何かしら分かったとしても、また同じ話題を出して大精霊様の精神状態がああなること自体を防げないと意味ないよね。

 アレの原因は、たぶん衝撃的だった当時の記憶に引きずられていると考えるのが妥当(だとう)かな……とりあえず現状だとそれ以外に要因があるか分からないし……。でも過去のトラウマをどうにかするってかなり難しいよね。
 そもそも大精霊様でもトラウマを持ったりするんだ!? と思わないでもないけど、それはそれとして上手く落ち着いて貰える方法を見つけるのが今後の課題かな……うん。



 と、ここまで必死に色々考えてみたけれど、ここまで一つあえて無視してきた重要な疑問点問題点が残っている。

 そうそれは、この一件がアルフォンス様の件と全く関係なかったらどうしようという部分だ!! 1000年前の一件が大事件っぽいのは確かなんだけど、それとは別にアルフォンス様の呪いと関連してるかというと今のところ全然分からない。なんか繋がってそうかなって雰囲気は感じるけど、本当に繋がってるという確信はまったくもって持てない!!
 いや、本当にどうしようこれ……。しかも私、今回の件で大精霊様に目をつけられた気もするんだけど……まぁ、でもそっちは正体がバレてないうちはどうにか誤魔化せるかな。接触が増えるごとにリスクは上がりそうだけど、その辺は頑張って少なくすれば……うん、大丈夫いけるいける。


 おっとと話しが逸れてしまったけど、重要なのはアルフォンス様の件と関係があるかどうかなわけです!! そしてなんとなくだけど私のカンでは関係があるような気がしてならないわけです……一回言った通り確証はまったくもってないけどね!!

 いや、でも信じよう私のカンを!! この一件はきっと繋がっているんだ……!!
 その方向性で決定!! うん、これで心境的には完璧……!!



 さてさて、じゃあ次は何を考えようかな…………。


 何……を………………………………はっ。

 なんだか急に眠気が…………。

 ……そう言えばずっと寝てないし、大精霊様とのやり取りも含めて緊張続きだったから……急に疲れが出たのかも知れない……。


 ふぁ…………水音がまるで子守唄みたいで……気持ちいいような気がしてきた……。


 ………………………………。


 ……うん、時間もあるし少しだけ寝よう……。

 大丈夫、大丈夫ちゃんと着く頃には起きれるから………………うん……。

 ……………………ふにゃ…………。
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登場人物紹介

リア

 本作の主人公なヒロイン。本人も自覚のあるやや抜けた性格。

 アルフォンスいわく幻想的な雰囲気を持つ可憐な美少女。一見可愛らしいけど性格がアレなので喋ると台無し。

 魔術師であるが、はっきりと出自を明かさなかったりと怪しい。どうみても怪しいけど、持ち前の明るさと美少女だから許されている感がある。



アルフォンス・サン・マーシャル・カストリヤ

 本作のメインヒーロー()な王子。諸事情により呪いを掛けられ獅子(ライオン)のような獣人っぽい姿。毛並みはもふもふである。

※アイコンは作者が作風をミスったためヒロインにくらべデフォルメマスコット化していますが、基本的なキャラのイメージとして間違ってないので問題ありません。

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