第35話:設定

文字数 2,450文字

 ガスター達の存在が世間に露見した翌日。薬師寺研究所の控室では茉莉とガスター達、武田が応接セットに座り壁掛け大型テレビを見ていた。画面には取材を受けている大二郎のライブ映像が流れていた。
 Q:ロボット達はどこに収容しているのか
 A:薬師寺財閥が所有する専用の研究所で管理している
「違うわよ、茉莉ちゃんのおうちよ」
 アナウンサーの問いに答えた大二郎を、ガスターは不満顔で睨む。
「それは分かっています。しかし津村さんの安全を考え、色々事実と異なる設定にしてあります。不満はあるでしょうが、君達もこの設定を覚えてくださいね」
 武田の説明にロボット達は『これも茉莉のため』と渋々頷いた。
 Q:誰が開発したのか
 A:薬師寺研究所の開発部
 Q:誰かが搭乗していたり、遠隔操作しているのか
 A:搭載したAIでそれぞれ考え、行動をしている
「あら意外。てっきりガンドムみたいにパイロットがいるとか言うと思ったわ」
「それはそれで面倒なことになるんですよ。パイロットは誰かとか、コクピットの安全は確保されているのかとか」
「なるほどね~。一応ちゃんと考えてある設定なのね」
 武田の返答にガスターが納得する。
 Q:AIが暴走する可能性はないのか
 A:可能性はゼロに等しいが、万が一に備え対処法を用意してある
 Q:それは自爆装置を強制的に行う等か
 A:自爆装置は備わっていない。もっと安全かつ平和的な対処法だが公表はできない
「我ら本当に自爆装置はないのであろうか?」
「あったとしてもどうすれば出来るのかアタシ分からないわ」
「……試してみる」
「試しちゃダメ」
 スクッと立ち上がったロキソを茉莉がやんわり押し留めた。
 Q:ロボット達に名前はあるのか
 A:騎士タイプがガスター、武士タイプがボルタ、忍者タイプがロキソ
 Q:それぞれ違うタイプなのには理由があるのか
 A:ビジュアルの格好良さで選んだ。深い意味は無い
「そんなバカっぽい答えでいいの!?」
「いいんです。本当にバカなので」
「アンタ灰色悪鬼に対しては本当に辛辣ね」
 しれっと暴言を吐く武田に感心するガスターだった。
 Q:世界中のどこへでも駆けつけてくれるのか
 A:現時点では全世界をカバーできるほどの準備が整っていないため、当面は日本国内に限る
「いずれは“わーるどわいど”か。しかし拙者、日本語しか分からん」
「大丈夫ですよ。今はスマホで優秀な翻訳アプリがありますから」
「えぇ……」
 新たに翻訳機能を搭載させる等ではなく、お手軽に済ませようとする武田にボルタ達が騒めいた。
 Q:あらゆる有事に対処可能か
 A:基本、警察や消防、自衛隊等の専門機関を押しのけて動くことはしない。国から依頼があれば対処するが、緊急時には独断で活動する場合もある
 Q:自衛隊に所属させればよいのではないか
 A:専門機関に所属すると規約に縛られ行動範囲を狭めてしまうため、どこにも所属させるつもりはない
 Q:薬師寺財閥のお抱え兵器ということか
 A:彼らは兵器ではない。しかし地球外生物等から攻撃を受けた場合は迎え撃つ用意は出来ている
 Q:それはレーザービームやミサイルのようなものか
 A:戦いは白兵戦。全て力で捻じ伏せる
「そうなの?!」
「そうなんです。君達の武器は接近戦向きですから。これからみっちり訓練してもらいますよ」
 淡々と告げる武田に、ガスター達は身震いした。
 Q:力技が通じない敵が現れたらどうするのか
 A:秘策があるので大丈夫
 Q:秘策とはなにか。核兵器か
 A:秘策なので教える事はできないが核兵器ではない
「秘策って、魔法の水のことですか?」
「ええ。でも秘策を使うことはまず無いでしょうね」
 茉莉の質問に返答した武田は、さらに言葉を続ける。
「恐らく、君達が要請される事案は大規模な自然災害のときくらいでしょう。普段の犯罪や人命救助はそれぞれ警察消防自衛隊が面目を保つため対処するので、薬師寺研究所がしゃしゃり出ることはない。まあ昨日のように目の前で起こった事故や事件の場合は別ですが。自然災害の救助活動ならば、秘策を使うまでもないでしょう」
「でも地球外の生命体が襲ってきたら――」
「現在その存在すら不確かなモノが、今更ひょっこり来ると思います?」
 ガスターの質問を逆に質問し返した武田に、ロボット達の動きが止まる。そして数秒の無音ののち、どっという笑いが起こった。
「それもそうよねぇ。宇宙人とかエイリアンの実物なんてアタシ見たことないもの」
「左様。我ら映画の見過ぎであるな」
「ゾンビの倒し方なら、任せろ……」
 やいのやいのと盛り上がるロボット達を『君達は地球外から来たようですけどね』『ガスターさん達は宇宙から来たんじゃないかな……』と微笑みを浮かべて見守る人間達であった。

 * * * * *

「――直った!」
 宇宙船(?)の予期せぬ故障により、目的地への出発が遅れた謎のロボット三人組。そのうちの一人である狐ロボが制御装置の下からスパナ片手に這い出てきた。
「本当に直ったのかよ?」
「おうよ! 見てろよ――」
 怪訝そうな虎ロボに、狐ロボはしたり顔で制御装置を操作する。複雑な手順を踏んだあと、制御装置はフィンという軽妙な起動音を鳴らし、色とりどりのランプを点した。
「っしゃーーーっ!」
 喚起の雄叫びをあげた狐ロボは、思わずガッツポーズをとる。
「よくやった」
「へへっ」
 狼ロボに褒められ、狐ロボは照れ臭そうにはにかんだ。
「これでやっとあいつ等をブチのめしに行けるな!」
 虎ロボがパンッと豪快に拳を打ち鳴らした瞬間、フォォォン……と情けない音をたてて室内全ての電気が消えた。
「……何したんだよ兄貴」
「何もしてねーよ!」
「兄貴がなんか訳わかんねー電波出して壊したんだろ!」
「んな機能付いてねぇ! こちとら殴る蹴るしか能がねぇんだ!」
「脳筋から変な電波出したんだろ!」
「テメェこのクソガキャぁーーーー! 歯ぁ食いしばれーーーーっ!!」
 暗闇の中響く狐と虎の怒号を、狼はどこか遠い所を見ながら聞いていた。
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