11 ホッブズ『リヴァイアサン』(4)

文字数 3,673文字

ホッブズの国家論(統治論)をアリストテレスと比較してみようか。

アリストテレスは大きく6種の統治形態を描いてたよね。

覚えてる?

①〇王制

②×僭主制

③〇貴族制

④×寡頭制

⑤〇共和制

⑥×民主制

うん、そうだね。

アリストテレスは、

①支配層の数と、

②支配層が共通善を求めているかどうか「〇/×」、

の2点において区分していたよね

うん

けれどホッブズの場合、

①支配層の数、

だけで統治形態を区分するんだ。

なぜだか、わかる?

みんながそれぞれの生命を守るために国家(主権者)の傘下に入ってるから、じゃない?

つまり国家(主権者)の仕事は、みんなの生命を守ることでしょ。

それがそもそもの共通善なんだから。

だから共通善を志向しない国家なんて、最初から論理矛盾してんじゃないの?

そんな国家の傘下には、誰も入らない

鋭い。そのとおり

ゆえに、ホッブズが区分する統治形態は、

①君主制(主権は1人)

②貴族制(主権は合議体)

③民主制(主権は議会)

の基本3つだ

そのうちどれが1番いいのか、ホッブズは明言していない。

肝心なことは権限の一極集中であって、統治形態うんぬんではない、ってことだろう。

ただし、「公的な利益が私的な利益と衝突すると、大抵の場合、私的な利益を優先する」のが人の世の常だが、「君主制においては、私的な利益は公的なそれと重なる。君主の富・権力・名誉は、一に臣民の富・力・名声から生じる。というのも、臣民が貧しかったり卑しかったり、あるいは、貧窮または内紛のために敵と戦えないほど弱かったりすると、その国王は富も栄光もつかめないし、安全を確保することもできないからだ」[②:P47]とか記しているように、やや君主制を推してるのでは? と読めなくもない。ここでは、主権は1人にあったほうが(私的利益を優先することによる)内輪もめが発生しない、ってことを言ってるね。

とにかく、ホッブズは内紛が嫌いなんだよね

いずれにせよ、どのような統治形態にせよ、主権者は「主権者としての権力が信託された目的を果たさなければならない。それは、人民の安全を確保するということである。(中略)ここで言う安全とは、各人が単に生命を維持することだけを指すのではない。その他の、あらゆる暮らしの豊かさも含意される」[②:P286]
うん、くどいくらいにわかってきたよ
それじゃ少し、私見を交えていこうか
思うに、ホッブズは基本的に最小国家論者だといえる
最小国家論?

つまり、国家の仕事はどこまでかって、その範囲を考えたときにね、ホッブズ的国家の仕事はさぁ、臣民の安全を守るってところに特化してるんだ。

具体的にいうと、

まずは①国防だね、

そして、②司法、かな

さらには、③貿易の管理、も含まれる。

これは国防の延長線上にあるもので、今日でいうと、最新鋭の戦闘機を敵国に売るとかね、そういうことしちゃダメ、させないために、国家主権が貿易に介入しないと、ってわけ

さらには、主権者への義務を教えるための④教育、など
ホッブズの言葉を引用してみようか
「(国家の存立のために欠かすことのできない権限は)宣戦および講和の権限。裁判の権限。官職に就く者を任免する権限。その他、公益のために必要とするすべてのことを実行する権限」[②:P212]

「・最上位の裁判権を司ること

・自らの権限によって宣戦または講和をおこなうこと

・国家が必要とするものを判断すること

・自らの良心に照らして必要と判断されるときに必要なだけ徴税と徴兵をおこなうこと

・平時と戦時を問わず、裁判官や執行官を任命すること

・どのような学説が人民の防衛・平和・利益にかなっているのか(また、反しているのか)について講ずる者を指名し、また、みずから審査すること」[②:P288]

国家の仕事が臣民の安全(暮らしの豊かさ)を守ることに特化しているため、たとえば現代の国家と比較して、公共サービスの範囲は著しく狭い。

だから、最小国家だといえる

それ、時代的なもんでしょ
ただ、いつから国家(の役割)はこんなにも大きくなっちゃんだろうと、歴史的、系譜学的にね、振り返るときにさ、この点は押さえておくとよいから、覚えておくとしよう
は~い
さてと、最後に、ホッブズについて言い落したことを列挙してくよ、一応

ホッブズは主権者に権限集中させるべし、と考えているからね、その権限はすこぶる強い。

それはね、法との関係に表れてくる。

ホッブズの国家は法治国家だから、もちろん、臣民は法によって統治されるわけだが・・・・・・主権者はというと・・・・・・

「国家の主権者は、合議体であるにせよ一人の人間であるにせよ、公民法に服さない。なぜか。法律を制定したり破棄したりする権力を握っている以上、いつでも好きなときに既存の法律の支配を脱することが可能だからである」[②:P174]

法をつくるのは主権者なんだから、破りたくなったら法を変えればいい。

だとするなら、理屈上、主権者は法によって裁かれない、ということになるわけ。

もし、主権者が法によって裁かれるとするなら、主権者より法(司法)の方が上位権力になってしまい、そもそも主権者とはいえなくなるだろう、ってのがホッブズの考え。

つまり、今日(の日本)でいう国民主権じゃないわけね。

主権が国民にあるなら、トップの政治家を裁くことは論理矛盾にならない。

ここでハッキリするけど、ホッブズ的国家は国民主権ではなく、国民はむしろ主権を放棄し、それを主権者に委ねているんだね

だったら、トップのやりたい放題じゃないですかっ
各人の私的所有権も、いわば公共(国家の平和と安全)のためなら、主権者は侵害することができる、といったことも書いてるね
ほらほら~

でもね、主権者が必ずしも法に縛られないからといってデタラメに行動できるってわけじゃない。

主権者はね、まず、神の法である自然法には逆らえない。

「自然法は神の法であり、いかなる人間もいかなる国家も、それを破棄することはできない」[②:P271]という

続いて、「健全な法は次の二つの条件を兼ね備えていなければならない。第一に、人民の福利にとって必要不可欠であること。第二に、明晰であること」[②:P309]という。

つまり、法の目的は、あくまで万人が万人に敵する闘争状態を終わらせることにあるんだから、主権者の私的利害に基づいて設定されるものではない、ってこと

あくまで安全第一ってことね
そのほか、ホッブズは今日でいう消費税を推奨している

え?

なんで?

国家の仕事は安全管理に特化しているからね。

だとすると、金持ち1人の身を守るのと、貧乏人1人の身を守るのとでは、コストがそう変わらんでしょ、という理屈になる。

だから、受益者負担をできるだけ平等にするなら、消費税が好ましい、となる

『リヴァイアサン』の出版は17世紀だよね?

う~ん、西洋は消費税の割合が大きいっていうよね、そういう意味では、消費税のルーツ、その歴史を辿ってみようとするなら、興味深い発言だね?

そうだね

さて、ホッブズがこれまで述べきてことは、あくまで国家の内側のことでしかない。

国家間、つまり国家と国家の間はね、なお依然として万人(国)が万人(国)を敵とする闘争状態なわけ

そうなるだろうね

国家と国家の間では、自然法が通用するだけだ、とホッブズはいう。

また、この意味での自然法をね、国際法とも言い換えている。

自然法=国際法

ホッブズが論じてきたのは、いわば内発的な国家で、これを政治的国家あるいは制定された国家と呼んでいる。

国家と国家の間はね、自然法にしか縛られないわけだから、逆に侵略されることもある。

ぼくらの国家が壊滅することもある。

その場合、命を助けてもらう代わりにね、敵国に服従する、つまりは主権を放棄する形でね、内側の国家ではなく、外側の国家の臣民になる。

この外側の国家をね、ホッブズは獲得による国家と呼んで区別している。

あ、まったくの余談だけどね

さてと、以上が、じつは『リヴァイアサン』のね、前半部分、4部の内の、1部と2部
え、まだ後半戦があるの?

『リヴァイアサン』の内容でよく知られいているのは前半部分でしかない。

けどね、当時の状況を考えるなら、むしろ後半の方が重要だったかもしれない。

後半戦はね、いわば宗教との戦いだ

ホッブズの基本思想は、内紛(争い)を抑止するために、権力を一極集中させよ、だったね
うん

だとすると、ある意味もっとも邪魔な権力が、宗教(教会)の権力なんだよ。

宗教の権力を認めてしまえば、国家の権力と並んでね、やはり2頭のバケモノになってしまうからね。

それじゃダメなわけ

ホッブズにとって、この地上を統べる神はリヴァイアサン=国家だ。

教会ではない

うわ、時代を思えば、過激な発想!

うん。

最後に、その点にふれて、ホッブズについては終わりとしよう

つーか、市民社会の話がぜんぜんでてこないね

そうなんだよ。

そのことについても後でふれるけど、簡単に一言でいうと、この時代、まだ社会はないんだよ

[引用文献・参考文献]

・ホッブズ『リヴァイアサン(2)』角田安正訳、光文社古典新訳文庫、2018

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登場人物紹介

デンケンさん(49)・・・・・・仙人のごとく在野に生きることを愛する遊牧民的活字ドランカー。かつては大学院にいたり教壇に立ったりしていたが、その都度その都度関心があることだけを考えていきたい、という専門性を磨こうとしないスタンス、及び『老子』の(悪)影響があり、アカデミズムを避けた・・・・・・がゆえに一介のサラリーマンである(薄給のため独身、おそらく生涯未婚)。

朝倉恭平(30)・・・・・・ご近所の鷺ノ森市文化創造センターに契約職員として勤務。

(チャットノベル『毒男女ぉパラダイス!!』の登場人物・朝倉5年後の姿)

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