【25】有能な部下

文字数 2,843文字

翌日、幸栄達には休んでもらい昨夜の片付けをするために匠君と會舘へときていた。

『いやー、昨日は楽しかったね!なんかさ弥生ちゃんって年も離れてるし、みんなの妹って感じがするよ。翼もそうでしょ?』

「そうだね!まぁ、匠君は熟女好きだしね?これで若い子が好きって聞いてたら少しヤキモチ妬いちゃってたかもしれないけどさ。」

『もぉ、俺は翼一筋だから!』

「知ってるー。」

片付けを終えて自宅に戻ろうとしていると事務所の電話が鳴り出した。どうやら神様は私達に休みを与える気は更々ないらしい。

「はい、輪廻會舘でございます。……、はい家族葬のご依頼ですね、かしこまりました……、承知しました、では明日の朝9時にお待ちしております。」

『…翼、何だって?』

「あ、家族葬の依頼なんだけど、どうも殺人事件の被害者らしくて…検死とかあるからここに御遺体が到着するのが明日の午後以降らしいの。でも、うちでやりたいから予約できますか?だってさ。とりあえず明日の朝から説明と契約ってことで、資料だけ準備したら今日は休みましょ!私、やっておくから寿郎君に電話しといてくれる?」

『…殺人事件か。何か重い依頼が続きますね。とりあえず電話しとくわ!』

今日一日でも、幸栄達に休んでもらうことが出来ただけよかったと思いながら明日の準備を進める。…あれ?頭が痛い…。今日は天気が悪いからなのか?久々の頭痛に耐えきれずソファーに横になっていると、電話を終えた匠君が戻ってきた。

『ただいまー!って翼?大丈夫!?』

「あ、ごめん、大丈夫。久しぶりに少し頭痛がきただけだからさ?天気悪いし、多分低気圧にやられちゃっただけだよ!」

『そう?…ならいいけどさ?とにかく今日は家に戻ってゆっくり休も!明日は寿郎達もくるしさ、朝痛かったら休んでくれても大丈夫だし!』

匠君に抱えられるようにして會舘を出ると徒歩一分の帰宅時間。こういう時家が近いのは本当に助かる。帰宅後私はまた発熱してしまい、せっかくの休日を匠君と楽しむこともなく結局朝まで布団で過ごすこととなった。


『…翼?おはよー。うん、まだ少し熱があるみたいだ。9時に昨日の人くるから、とりあえず俺行ってくるわ!翼は俺が戻ってくるまで寝ててね?あ、朝食はおかゆ作ってあるからお腹空いたら食べてよね!じゃ行ってくるよ!翼?愛してるからね!』

言葉を発する間もなく、私のおでこにキスをしてそそくさと出勤してしまった匠君。熱を測ってみると微熱よりも少し高いくらいの体温が表示されている。頭も昨日ほどではないがまだ少し痛い…。お言葉に甘えて少し休ませてもらうことにしよう。


~~~~~~~~~

『匠君おはよー!あれ?翼は?』

「二人ともおはよー!翼、また調子悪いみたいでさ?熱も少しあったから家に置いてきた!9時の説明だけ終わったら一回家に戻るけどいいかな?」

『え?また具合悪いの?もちろんだよ!一度大きい病院で検査したほうがいいかもしれないよね。この前もあったじゃん?』

「…そうだな。終わったら連れて行ってくるよ!よし、とりあえず仕事頑張るわ!」

応接室に準備をすませると、ちょうど見知らぬ車が駐車場へと入ってきたのが見えた。降りてきたのは憔悴しきった初老の女性一人のみである。幸栄さんがお茶の準備を始め、寿郎は玄関で出迎えをしてくれている。阿吽の呼吸とはこのことだな、やはり俺はこの二人がいないと何もできないのかもしれない。

「渡辺様、朝早くからありがとうございます。私は当會舘の支配人をしております"岩崎"と申します。…この度は御愁傷様でございました。早速ですが話に入らせて頂いてもよろしいでしょうか?」

『…はい、よろしくお願い致します。』

「それでは早速…………」

何個かのプランを提案し、結局御遺体の到着が何時になるかわからないとのことだったので通夜は行わずに明日葬儀を執り行い、そのまま火葬へと出発をするプランで進めることとなった。

「渡辺様?大変な時に申し訳ありません。お見受けしたところ、かなりの心労でお疲れのようですが、他に親族と呼べる方はいらっしゃいますか?」

『……、すみません、最期くらい母親の私がしっかりとしていないといけないのに…。聡は私が一人で育ててきたので父親はいません。私の母は生きているのですが遠方でこちらまでくることも体力的に無理なんです。しかも、大切な孫が殺されて死んだなんて聞いたらきっと心労で母まで亡くなってしまうような気がして、声をかけてないんです…。』

「…そうでしたか、辛い中お話頂きありがとうございました。私共のスタッフには女性も在籍しておりますので、同性のほうが言いやすいことなどありましたら遠慮なくお申し付けください。では、お忙しいと思いますので一度お引き取り頂いても大丈夫ですよ!困ったことなどありましたら、お電話頂けましたら検討いたしますので連絡お願いします。」

『岩崎さん、ご丁寧にありがとうございます。では、一度帰宅いたしますのでまた午後からよろしくお願い致します。』

渡辺様を見送ると、御遺体の受け入れと明日の葬儀の準備を二人に任せて一度自宅へ戻ることにした。

「ただいまー!」

翼の返事はないのでまだ二階にいるようだ。寝室のドアを開けて中を覗いてみると、まだ寝ている様子の翼。熱は朝よりも下がっているようで一安心。

『…あれ?匠君、もう終わったの?…ってもうあれから二時間も経っているじゃない!仕事は大丈夫なの?』

「うん、今日の通夜はなしで明日葬儀の後にそのまま火葬することになったからさ。準備は二人がゆっくり進めてくれてる!だからさ、病院行こ?」

『…うん、わかった。』

近くの総合病院の初診受付にギリギリで間に合い、何とか検査を受けることができたが受診した時間が遅かったのと、本日は週の終わりということもあり、結果は週明けにということで今日は帰宅することになった。

「あー、翼俺モヤモヤするよー!総合病院って何であんなに待たされるのに、大事なところ焦らすんだろうな?」

『まぁまぁ、私単純だから病院きて検査受けたら治ってきた気がするよ?ほら、病は気からっていうし!それより、幸栄達頑張ってくれてるんだからお土産のケーキとお昼ご飯買って早く會舘に戻りましょう。』

「わかった!けど、翼はみんなでお昼ご飯食べたら帰って家で寝ててよね?これは社長命令だから!」

『社長!かしこまりました。』

馴染みの弁当屋と、ケーキ屋に寄って人数分の食料とデザートを調達し、會舘へと戻るともうすでに明日の葬儀の準備はほとんど終わりというところまで進められていた。御遺体はまだ到着していないようだ。そして、みんなで昼食を食べている時は元気なようにも見えたが、時折ふらついていたのを見逃さなかった幸栄さんにより、翼は強制退場させられてしまった。
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