第109話 私は女。男じゃないわよ 1
エピソード文字数 3,601文字

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美神グループってのは、マジで凄い。
敷地内に高級旅館みたいな建物に、アホみたいにでかい浴場まであった。マジで異世界に来たんじゃねぇかって規模の浴場は、俺の家よりも遥かに大きかった。
もしこんな場所に宿泊しようものなら、一泊でうん十万取られそうな気がする。
当然敷地内の浴場なので、客などおらず貸切状態だった。
そんな中、浴場にいるのは俺と平八さん。そして魔樹である。
思わず声が出る。あっつクソ痛てぇ~~!
特にすり傷がやばいほど痛いんだって!
悶える。悶絶! しかも風呂の湯が熱くて顔が爆ぜるぅ!
湯船を肩まで浸かると、自然とおっさんみたいな声が出る。
あぁ……すげぇ。気持ち良すぎだろこれ。
いいなぁ。たまらん。こんな風呂にいつも入れたらどれだけ幸せなのだろうか。
魔樹はバスタオルで全身を隠していた。
どうでもいいけど、男なんだから堂々としてりゃいいじゃないか。
あ、ちなみに俺は男となっているぞ。
というのは、最初楓蓮で男湯に入ろうとしたんだが……
平八さんがスマホを持って身構えていたからな。
浴衣を脱ごうとした時にシャッター音が聞こえてきたので、俺は女から男へ入れ替わったのだ。
すると平八さんは無表情だったが、かなりショックを受けたのかしらないが、今はずっと浴場の端っこの方で落ち込んでやがる。別に普通にしてりゃ女で入ったものの、写メはダメだろ?
さて。魔樹がようやく風呂に浸かり出したので、泳ぎながら近づいていくと、俺をまるで怪物をみたような目になっちまった。
また外に出ちまったので、俺も風呂から出ると強引に入らせようとした。
おおっ~~~~。ビチビチ跳ねてやがるぜ。

アホかお前は。俺の下半身指差して叫ぶなよ。
お前にもついてるだろうが。
ん? 魔樹? え? えぇ~~~?
こいつ。白目になって後ろにぶっ倒れたと思えば、マジで気絶してやがる。
ダメだ。マジで逝っちまってる。
しょうがないので、ぶっ倒れたままの魔樹にお湯をぶっ掛けてやる。
冷えて風邪引いちゃやばいからな。
勢いよくお湯をぶっ掛けてやると、再び跳ねた魔樹を見てご満悦だった。
顔芸なら魔樹も相当なものである。
今にも死にそうな顔すんなよ。
だけど、女というのは本気なのだろうか、今のこいつから、迫力のある顔つきなど皆無であり、その赤ら顔は……女の子そのものだった。
そっか。お前は美優ちゃんに化けてて喫茶店のバイトしてたから。
風呂に入る前は一時半だったから、そろそろだな。
マジで俺を睨みつけてくると、こいつの熱意が分かった気がする。
ってか、そんな怒るなよ。
魔樹は何も言わずうんと頷いた。
こいつとこれ以上険悪になる意味が無いと思った俺は、身体の事には触れず、湯船に浸かっておきながらも下半身も手で隠した。
だけど……俺が蓮になった途端、元気になりやがったな。
俺だって。そっちの方がありがたい。
さっきみたいな、ドロドロのゾンビみてーな魔樹はもうこりごりだ。
あまり言いたくなさそうだな。
俺は「わかった」と返事すると、今度は魔樹から質問される。
その時――後ろから「恋人よ」と言う声が聞こえてきた。
完全に無防備だった俺は即座に振り返ると――

目をキラキラと輝かせた白竹ママがポーズを取りながら立っていた。
当然、風呂場なのでバスタオル姿での登場だった。
しかも速攻クルクル回りだしたぞ。
そのオペラっぽい声を聞いて、思わず顔が引きつっていた。
いきなり親父の恋人宣言とか。顔が引きつって元に戻らねぇよ。
しかもバスタオル姿でクネクネされて、オペラっぽい声を出されると非常につらい。
だけど平八さんが、平ちゃんって言われるあたり、二人の仲は良さそうだな。
嘘だろ? あの土砂降りの中、屋根に張り付いていただと?
ってかその場面を想像するだけで笑えてくる。よく振り落とされなかったな。
急に神妙な面持ちに変化したママは目がキラっていなかった。
まずは俺に深く謝罪すると、魔樹にも今回の件を謝罪する。


おおっ! 平八さんが声を張り上げるとか異常事態だ。
そして湯船から立ち上がったママと同時に平八さんも立ち上がった。
すげー険悪な空気に申し訳ないが、ワクワクしている俺がいた。
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次回、私は女。男じゃないわよ 2
魔優の反撃。