第109話  私は女。男じゃないわよ 1

エピソード文字数 3,601文字

 ※


 美神グループってのは、マジで凄い。


 敷地内に高級旅館みたいな建物に、アホみたいにでかい浴場まであった。マジで異世界に来たんじゃねぇかって規模の浴場は、俺の家よりも遥かに大きかった。


 もしこんな場所に宿泊しようものなら、一泊でうん十万取られそうな気がする。

 当然敷地内の浴場なので、客などおらず貸切状態だった。


 そんな中、浴場にいるのは俺と平八さん。そして魔樹である。

うぉ~~~~あつ、いってぇ~~~

 思わず声が出る。あっつクソ痛てぇ~~!

 特にすり傷がやばいほど痛いんだって!


 悶える。悶絶! しかも風呂の湯が熱くて顔が爆ぜるぅ!

お。おぉ~~~! うぉ~~~!

 湯船を肩まで浸かると、自然とおっさんみたいな声が出る。

 あぁ……すげぇ。気持ち良すぎだろこれ。



 いいなぁ。たまらん。こんな風呂にいつも入れたらどれだけ幸せなのだろうか。

お前も早く入れよ! 何でそこでつっ立ってんの

 魔樹はバスタオルで全身を隠していた。

 どうでもいいけど、男なんだから堂々としてりゃいいじゃないか。

…………どうしよう。

 あ、ちなみに俺は男となっているぞ。

 というのは、最初楓蓮で男湯に入ろうとしたんだが……


 平八さんがスマホを持って身構えていたからな。

 浴衣を脱ごうとした時にシャッター音が聞こえてきたので、俺は女から男へ入れ替わったのだ。



 すると平八さんは無表情だったが、かなりショックを受けたのかしらないが、今はずっと浴場の端っこの方で落ち込んでやがる。別に普通にしてりゃ女で入ったものの、写メはダメだろ?




 さて。魔樹がようやく風呂に浸かり出したので、泳ぎながら近づいていくと、俺をまるで怪物をみたような目になっちまった。

 また外に出ちまったので、俺も風呂から出ると強引に入らせようとした。

ちょっと待まって!
いいから入れ。身体冷え切ってんだろ
分かったから! 入るからぁ!
女みたいな声出すなよ!
私は……女なのっ!
今は男だろ? どりゃ!
きゃあ!
 魔樹の尻を思いっきり蹴飛ばすと、浴槽にダイブした魔樹は、熱さで悶えていた。

 おおっ~~~~。ビチビチ跳ねてやがるぜ。

何すんのよもうっ! 
ってかお前も男の身体は見慣れてるだろ? 何を今更
ひゃっ! ああっ~~~!

 アホかお前は。俺の下半身指差して叫ぶなよ。

 お前にもついてるだろうが。

あっ……うっ……

 ん? 魔樹? え? えぇ~~~?


 こいつ。白目になって後ろにぶっ倒れたと思えば、マジで気絶してやがる。

おい。大丈夫か? 何で男の股間を見たくらいで……

 ダメだ。マジで逝っちまってる。

 しょうがないので、ぶっ倒れたままの魔樹にお湯をぶっ掛けてやる。


 冷えて風邪引いちゃやばいからな。

おい。起きろよ! っつーか何で気絶すんだよ。

 勢いよくお湯をぶっ掛けてやると、再び跳ねた魔樹を見てご満悦だった。

あっ……あれ?

大丈夫か? 何を男の股間見たくらいで……

てかようやくお前の弱点が分かったぜ。

私は女なのよっ!
は? まだ言ってるのか? ぜんっぜん意味わかんねーぞ
ま、前を隠してっ!
分かってるよ。これでいいだろ?
ううっ……もうやだ……

 顔芸なら魔樹も相当なものである。


 今にも死にそうな顔すんなよ。


 だけど、女というのは本気なのだろうか、今のこいつから、迫力のある顔つきなど皆無であり、その赤ら顔は……女の子そのものだった。

それなら女になって、向こうに入って来いよ
まだ四時間経ってない。後もう少しなんだけど。

 そっか。お前は美優ちゃんに化けてて喫茶店のバイトしてたから。

 風呂に入る前は一時半だったから、そろそろだな。

そりゃご愁傷様だな。でも男のまんま向こうで入ればいいじゃないか?

そんなの出来るわけがないじゃない!

美神さんもいるし。男のままじゃ失礼だろう? それに……美神さんに「こっち」って言われたし

ふはっ。そりゃそう言われるだろ
笑わないでよっ!

でも、今更女って言われても、俺には信じられん。

無理無理。絶対無理

別に君に信じてもらわなくてもいい。僕は……女なんだ

 マジで俺を睨みつけてくると、こいつの熱意が分かった気がする。

 ってか、そんな怒るなよ。

わかったわかった。まぁでも今は男なんだからさ、風呂くらい仲良く入ろうぜ

 魔樹は何も言わずうんと頷いた。


 こいつとこれ以上険悪になる意味が無いと思った俺は、身体の事には触れず、湯船に浸かっておきながらも下半身も手で隠した。




 だけど……俺が蓮になった途端、元気になりやがったな



 俺だって。そっちの方がありがたい。

 さっきみたいな、ドロドロのゾンビみてーな魔樹はもうこりごりだ。

じゃあさ。お前は何で女なのに、男として学校に行ってるんだ?
 すると魔樹も素直に答えてくれる。

ひとつは美優を守る事だ。

それに双子でさ、男と女。どっちも似てると……色々と厄介なんだよ

そうか? 俺にはすげー便利そうな能力だと思うけど。


まさか。本当に入れ替わってるなんて思いもしなかったし。

良い事もあるけどデメリットも多い。

言うなれば男と女。二人の人間を美優と二人で共有しなければいけないから。


それに同じ姿で外に出れば色々と勘違いされちゃうし、それ相応に縛りも多いから

でも。双子ってそんなものじゃないのか?

同じ容姿をしてても、何か髪型やら服装で変えてみたり……

それはそうなんだけどさ……まだ色々あって

 あまり言いたくなさそうだな。

 俺は「わかった」と返事すると、今度は魔樹から質問される。

君のお父さんと僕のお母さんは知り合いだって言うけど、どんな関係なのか知ってる? 

いや。俺も美優ちゃんに言われて初めて知ったんだよ。

全然分かんないんだ。むしろこっちが聞きたいくらいなんだが

僕のお母さんもそういう事喋らないんだよ

マジ? 俺の親父もそうなんだ。もったいぶってさ

どんな関係なのか、サッパリだ。

 その時――後ろから「恋人よ」と言う声が聞こえてきた。

 完全に無防備だった俺は即座に振り返ると――

 目をキラキラと輝かせた白竹ママがポーズを取りながら立っていた。

 当然、風呂場なのでバスタオル姿での登場だった。

恋人? 悪い冗談はよしてよ
冗談じゃないわよっ! 本当の事なんで~す~よ~~~!

 しかも速攻クルクル回りだしたぞ。

 そのオペラっぽい声を聞いて、思わず顔が引きつっていた。

蓮ぼっちゃま。先に申し上げておきますが、彼女の証言は嘘っぱちでございますぞ
いつの間にか近くに来ていた平八さんがフォローすると、俺と魔樹はとりあえず胸を撫で下ろした。
もうっ。平ちゃんったら! バラしちゃだめじゃない! つまらないわっ

 いきなり親父の恋人宣言とか。顔が引きつって元に戻らねぇよ。

 しかもバスタオル姿でクネクネされて、オペラっぽい声を出されると非常につらい。


 だけど平八さんが、平ちゃんって言われるあたり、二人の仲は良さそうだな。

参りましたな。いつの間にこの屋敷に潜入したのですか?
あなたの車の屋根に張り付いていたわっ。まだまだ甘いわね!

いやはや。これは一本取られましたな。

さすがは変態を極めし麻莉奈さんでございます

 嘘だろ? あの土砂降りの中、屋根に張り付いていただと? 

 ってかその場面を想像するだけで笑えてくる。よく振り落とされなかったな。

蓮くん。少しだけ真面目なお話いいかしら?
……はい

 急に神妙な面持ちに変化したママは目がキラっていなかった。

 まずは俺に深く謝罪すると、魔樹にも今回の件を謝罪する。

あなたのお父さんには先程報告しました。今回の件は、元はと言えば私が子供たちに口を滑らしたのが原因です
いかにもその通りでございます。子供たちには干渉しない。その取り決めを破った形になりますからな。

本当はもっと後で、白竹家と黒澤家の面会を予定してたんだけど……

両家の縁談もその時にするつもりでした

え?
え?
 魔樹と俺がシンクロした。と同時にママは更に続ける。
美優と魔優。どちらかを蓮くんに決めてもらって、どうせなら二人同時に貰っても構わないし、3pでも「

蓮ぼっちゃま。騙されてはいけません!

麻莉奈さん! こういった場で、冗談が過ぎますぞ。いい加減になされい!

 焦った。今一瞬何を言われたか、理解できなかったぜ。 

平ちゃん。ちょと黙ってなさいっ。

なんなら私でも構わないわっ。入れ替わり専用のまぐわい方も「

麻莉奈さん! およしなされ!

うざいわね、あなた。うざすぎるわっ!

ちょっとは自重なさってはいかがですか? 

平八めは……あなたのそんな無神経な所が嫌いなのですっ!

あら平ちゃん。それは私にケンカ売ってるの?

万年童貞男が、私に勝てると思ってるの?


 おおっ! 平八さんが声を張り上げるとか異常事態だ。


 そして湯船から立ち上がったママと同時に平八さんも立ち上がった。


 すげー険悪な空気に申し訳ないが、ワクワクしている俺がいた。

―――――――――――――――


次回、私は女。男じゃないわよ 2


魔優の反撃。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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