第63話 エピローグ

文字数 1,465文字

 サークル会員集団自殺事件から三ヶ月後、済、吉井、陽子の三人は中野の焼肉屋に集まっていた。

 この三ヶ月間、色々なことがあった。あの場にいたサークル会員が全員死んでしまったため、済と吉井は貴重な生存者として取材攻めにあった。その奇妙な体験を下地に書き始めたのがこの小説だ。

 一方、陽子も唯一サークルを取材していたジャーナリストとして各方面に呼ばれ、大忙しだったが、ようやく落ち着いてきたところだ。来年度の昇進は間違いないだろう。

 行方不明になっていた恭子だが、その後の捜査で天然痘を培養していた施設が見つかり、寮の一室にいるところを発見された。培養機器の購入を担当していたが、幸い天然痘には感染しておらず、陽子との感動の再会は毎朝テレビで大々的に放送された。

 山崎は事件の後に自首したが、特異な状況下にあったということで執行猶予付きの判決を受けた。今は実家でひっそりと暮らし、化学系メーカーへの転職を準備している。

 梅田有一、天道加世は北朝鮮に逃げているのではないかとも考えられたが、意外にも教団施設にいるところをあっさりと逮捕され、殺人予備と覚せい剤製造で起訴された。ただ、二人は意味不明なことを延々と話し続けており、責任能力があるか精神鑑定を受けている。

 事件が起きた後、島村が現首相の「桜を鑑賞する会」に出席していたことが分かり、大問題となった。しかし依然として支持率は高く、しばらくは政権も安泰のようだ。ただし、マルチ商法への風当たりはかなり強くなり、違法化を叫ぶ議員も出てきている。

 サークル会員達が暴れまわった場所は除染が必要となり、中央区、江戸川区、葛飾区、浦安市、市川市、船橋市は一ヶ月間立入禁止となった。幸い天然痘に感染した市民はおらず、自衛隊と米軍が備蓄していたワクチンを放出したことで今後の感染もなさそうだ。

 三人はチーズタッカルビを食べながら、この数カ月の思い出を話し合った。

 「いやー、まさかマルチ商法がここまで色んなところと繋がってるとは思わなかったな。最初はイラッとした奴を潰そうとしただけだったんだけどね。」
 「結果的に一般人への感染を防げて良かったね。まあでも、吉井さんのサイバーテレビ投影は墓場まで持っていかないと。」
 「おいおい、二人も共犯だぞ。」
 「それにしても、もっと早く気づいておけばここまで大事にはならなかったとも思うんだよな。まあでも俺達一般人じゃ無理か。」
 「あれは仕方ない、まさか天然痘作ってるなんて予想できなかったしな。そういえば、北朝鮮の件はどうなった?」
 「送金してたことまでは分かったけど、それっきり。日本にはスパイ防止法なんかないから、そんなに大きな罪には問えないみたい。それに、まさか北朝鮮が天然痘テロを企画してたとは思えないしね。本気で日本とアメリカを怒らせちゃったら国が危なくなる。」
 「そうだなあ、やっぱり、イカれた教義に従って送金してただけかな。そういえば、妹さんはどうしてる?」
 「実家に帰って休んでる。まあ、またそのうち就職活動を始めると思う。」

 その後もサークルの話に花が咲き、あっという間に終電になった。

 済は二人と別れると、歩いてすぐのところにあるアパートへ戻った。だがこの後、済にある異変が起きるのだった......。

 完

 (次作、「異世界マルチ!〜異世界転生しても悪徳商法をぶっ潰すことになった件〜」を来春連載予定です。ご期待下さい。ここまで読んで頂きありがとうございました。)
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登場人物紹介

青山済 東西大学出身、大日本データ勤務のSE。マルチ商法信者にFacebookで絡まれるが、黎明期のインターネットで培った特定スキルと祭りスキルで相手を再起不能にする。ところが、それをきっかけに現在進行系で危険な団体と絡んでいることを知ることになる。

吉井大介 東西大学出身、帝国化学勤務の研究者。済とは学生時代の同期であると共に、インターネット黎明期に特定祭りに参加していた「特定班」だった。マルチ商法女再起不能作戦に協力したり、危ない団体にスパイとして潜り込んだりと、様々な面でサポートしてくれる存在。大阪で二人の同期、山崎が新興宗教にハマっていることを知るが...。元ラグビー部の動けるぽっちゃり。


杉永陽子 東西大学出身、毎朝テレビの記者。済とは学生時代、一緒に政治活動をやっていた仲。両親共に共産党員で、子供の頃からデモに行っていたバリバリの左翼サラブレッド。済のマルチもどき団体吊し上げ会に参加するが、これをきっかけに妹が怪しい自己啓発セミナーにハマっているのではないかと疑う。

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