終 ナルオン

文字数 2,209文字

 一帯が青く、雲の白で染まった世界に緑色の光が一条の線となって走った。線は面となって広がり、インシグネとサンセベリアが光から現れた。光は消滅した。
 暮広は周囲一帯に見える光景を見て、座標を確認するも、不明だった。外気や発信している波長から半径100キロメートル圏内の状況を読み取り、映した。はるか下にある地面の地形が推測で現れる。南米の一部に似ていた。先に見えるサンセベリアに目を向けた。
 沙雪もインシグネを確認した。読み取った地形が映っていて南米とわかった。座標と衛星との接続が不明になっている。人工衛星への接続が空中でもできないのなら、ブラジルに飛んだのではない。衛星のない異世界か別の惑星に飛んだのだ。「暮広、聞こえる」通信を試みた。反応がない。
 通信が暮広の元に入ってきた。ノイズで聞こえない。インシグネとサンセベリアが放つエネルギーと揺らぎが通信を阻害している。「排除に成功したか」縮退炉のエネルギーを確認した。1割しかエネルギーが残っていない。縮退炉から発生するエネルギーは膨大で1パーセントでも稼働に問題ないが、転移は不可能だ。
 インシグネはチェーンガンを構え、サンセベリアに向けて射撃する。鈍いモーター音を出し、エネルギーの弾丸がサンセベリアに向けて飛んでいく。
 サンセベリアは転移を繰り返し、弾丸を避けていく。当たってもバリアで弾くので問題はないが、正面から懐に入れば剣による攻撃が待っている。変則な動きで近づく必要がある。
 暮広は警戒し、息を荒くして身構えた。サンセベリアはインシグネに近づいてくるを確認した。
 インシグネは背部に格納している剣をか片手で抜き、水平になぎ払った。インシグネは引き下がった。不意をついてチェーンガンを格納し、一旦間合いを開けて剣を青眼に構え直す。
 沙雪は顔をしかめた。相手は敵とみなして破壊する気だ。達成するのに必要な兵装を、一覧から確認する。エネルギープライマーと称する兵装を認め、詳細を確認した。最低限のエネルギーを残して使い切るが、他に手段はない。
 インシグネは剣を青眼に構え、近づいた。サンセベリアを斜めに切払うも、サンセベリアは避け、間合いを離す。同時に手甲にある、赤い宝石状のエネルギー発信装置に光が集まる。
 沙雪は照準をインシグネに合わせる。
 サンセベリアはエネルギーを充填した側の腕をインシグネに突き出す。インシグネは間合いを詰めてくる。一気に発信装置から光を放った。緑色の光が周囲一帯に拡散し、すぐに消滅した。
 沙雪はインシグネに何のダメージもないのに驚き、がく然とした。エネルギーは底を尽きつつあった。
 インシグネは構えた状態のまま硬直していた。空中での固定ができず、落下していく。サンセベリアも固定が外れ、落下した。
 沙雪はサンセベリアの状況を確認した。バリアが薄まっていて、地面に落下すれば機体が破損する。エネルギー接続に難があり、行き渡っていない。エネルギーを集中した反動だ。回路を接続し直して構築し直す。
 暮広は真っ暗になった操縦席内であえいでいた。生命維持に必要なエネルギーすらなくなり、酸欠に陥ったのだ。緑色の光を浴びた瞬間、エネルギーが一瞬で尽きた。サンセベリアがエネルギーを一瞬で奪ったのだと気づいたが、遅い。手元にあるボタンを適当に押す。反応がない。落下の感覚が体に伝わってくる。
 インシグネとサンセベリアは地面に落下した。
 沙雪は地面を確認した。街が見える。街があるなら、人が住んでいる。人を避けねばと動かすも、エネルギー回路の再構築をしている状態で、まともに動かない。
 2機は地面にぶつかった。衝撃は地面をえぐり、赤いチリを発生して街を飲み込んでいく。人々の叫び声は衝撃の音で消えた。
 沙雪は操縦席に来る衝撃に耐え、映像を確認した。ディスプレイは衝撃でノイズとブラーがかかっている。エネルギーの接続状況を確認した。地面にぶつかる直前で揺らぎが発生し、衝撃を緩和した。致命のダメージはないが、エネルギーは維持に必要な分しかない。縮退炉も1基に異常がある。通常稼働に至るまでの充填速度が映る。
 ディスプレイが回復した。衝撃で発生した赤いチリは沈み始め、えぐった地面が見える。クレーターの底にいるのだと気づいた。
「暮広」沙雪は通信を入れた。何も反応がない。やむを得ないとは言え、暮広を殺したのだと気づき。うつむいた。しばらくして周辺に浮かぶ情報を確認した。
 エネルギーは尽きかけていた。元の世界に戻るまで、必要なエネルギーの充填時間を計測する。縮退炉が1基停止している状態で、エネルギーの充填に40年近い月日がかかると映る。待機せざるを得ないと判断し、入力モードに切り替えた。キーボードが浮かぶ。入力を開始した。情報が次々と切り替わる。一通り打ち込みを終えた。
 操縦席が徐々に暗くなる。沙雪の体の内部から冷えた感覚が染み渡る。生命活動を最小限に留め、冷凍状態で細胞破壊を防ぐ液が体に入り込む。沙雪の意識が薄くなっていく。サンセベリアが消費するエネルギーをサンセベリアを保護するバリアと冷凍睡眠の維持に使用する。エネルギーが異世界に転移可能なまでに充填するか、緊急時に起動し、冷凍状態を解除する仕組みだ。
 沙雪は意識を失った。
 サンセベリアはバリアを張ったまま動きを止めた。クレーターにもバリアの影響から誰も近付かず、月日が経過した。
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