第54話 眠り姫 〈11〉
文字数 4,108文字
「待て──っ!」
飛び入った影がある。
田楽師の兄の方、狂乱丸だった。
「姫、待て!」
果敢にも血の滴る〈眠り姫〉の両手を掴んで検非遺使から引き離す。
「ならば、俺のをやる !」
「え?」
「俺の目をくれてやる! それでどうじゃ、姫?」
額が擦れるくらいググッと姫の面前に顔を寄せると、
「ほれ、よく見てみろ。こんな野暮な男より、俺の目の方がずぅーっと美しいぞ?」
「バカ、いいから──早く逃げろ、狂乱丸!」
「そうだ、婆沙、おまえも来い!」
振り返って、弟を呼びながら兄は言った。
「姫、俺たちから、目玉一個づつでどうだ? それで、勘定は合うだろう?
だから、検非遺使は放してやれ」
一度、検非遺使を見て、花のように笑う田楽師。
「検非遺使の目はな、あまねく京師 を見守る大切な目じゃ。
この目があるから、姫だって安心して眠っていられるのだぞ?
さあ、だから、そっちの目は諦めて、俺と弟のにしろ」
「狂乱丸……」
「何をグズグズしている、婆沙! 姫に目を差し出すぞ!」
「いっ?」
驚いたのは婆沙丸である。床に尻餅を付いたまま、あんぐりと口を開けている。
その様子に焦れて、更に兄は怒鳴った。
「早く、来いったら! 成澄を助けるためじゃ。この際、お互い目の一個くらいいいではないか!」
「いや、いや、いや、いや……待てって、兄者!」
流石に弟の方は躊躇して頭を振った。
「俺は、兄者とは違う。そこまで、検非遺使に思い入れは──」
「何だと! 兄であり、座長である俺に逆らうのか?
常日頃、何事も俺に従うと言っておるのは偽りかよ?」
「いくら何でも、今回ばかりは従えぬわ!」
死に物狂いとはこのこと。
この場はなんとしても切り抜けないことには!
兄者はいい。婆沙丸は思った。
どんな姿になっても、兄者はモテるだろう。そんなのはわかっている。
〈隻眼の田楽師〉 〈美憂の歌舞い〉……!
だが 、俺は ?
俺はどう なるよ ?
今だって、モテなくて、失恋続きで、散々苦労しているというのに?
更に恋の成就が難しくなってしまうっ!
── 俺は、絶対、目玉は死守するからな!
「玉、玉って、姫、そんな──人間の目玉なんてちっとも面白くないぜ?」
一転、血を流している検非遺使を指差して婆沙丸は叫んだ。
「取り出したところで、ドロッとしてて……弾みもしないんだぞ。
そ、そうだ、遊ぶんなら──
やっぱり、こっちの玉だろう?」
袂 を探って取り出すと、床に転がした。
それこそ、何の変哲もない、玩具の玉──手鞠だった。
コロコロと転がって行く。
「!」
やおら、姫が飛びついた。
膝を折って、手鞠を拾い上げる。
呪術陣内から陰陽師たちの声が響いた。
「成澄!
「今だ!」
「諾!」
鞠を胸に抱き、蹲ったまま動かない姫に向けて、検非遺使は二本目の矢を放った。
念には念を入れて帝の陰陽師が用意した予備の矢――
たった今、姫に引っ掻かれて、右目から血を流しているとはいえ、
片目でも、この距離で静止している標的を射損じる中原成澄ではなかった。
「ギヤーーーーーーーーーーーーーーー!」
凄まじい悲鳴が廃邸に響き渡った。
「ギャーーーーーーーーーーー……」
その瞬間、その場にいた一同は確かに、見た。
霧のようなものが姫の体から迸 って、揺らぐと、形になった。
尖った耳と細い体、長い尻尾……
と、見る間に、氷が砕け散るごとく、爆ぜて、消えた。
皆、その形が何であるか 知っていた。
「あれは──」
「猫?」
「ハッ、姫!」
我に返った蔵人所陰陽師、結界から飛び出して姫に駆け寄る。
姫は手鞠を抱いたまま床に倒れていた。
目を閉じて眠っている。
だが、その眠りは、明らかに普通の眠りに見えた。
可愛らしい寝息を立てて上下する胸。それに合わせて鞠も揺れている。
「──」
そっと抱え上げると、帝の陰陽師は御帳台まで静かに姫を運んだ。
「姫君が眠りに取り憑かれた六月十七日の朝、あったのはこういうことです」
姫に使える女房の小郷が明かした話はこうである。
その朝、姫の住す内裏の上局の渡殿に、姫が平生から可愛がっている猫が血塗れで倒れていた。
夜半、外へ出て、野犬に襲われたらしく、傷だらけの無残な姿だった。
それでも、姫の元へ帰ろうとしたのだろう。姫の室まで、あと少しの距離だった。
しかも、まだ、微かに息はあった。
だが、あまりの悍 ましい姿に、姫に見せるのを女房たちは躊躇した。
それこそ、手中の珠のごとく大切に育てられた三の宮の姫君である。
こんな恐ろしいものを見せるぐらいなら、いなくなったとお教えしたほうが良い。
そういうことに決まって、その際、血だらけの猫の始末を命じられたのが、一番歳の若い小郷だった。
と言っても、警護している衛士に渡せばよかったまでのこと。
だが──
常日頃、姫の一番近くにいて一緒に遊んでいる小郷自身、この猫に愛着があった。
あまりに哀れに思って、引き裂かれたその体を、姫から下げられた小袿 に包み、姫の室の床下に置いたのだ。
猫の遊び道具だった鞠の方は別の女房が処分した。
それを見るたび、猫のことを思い出して姫が悲しい思いに囚われては、と慮ったからである。
皆、良かれと思って、善意から行ったことだった。
後日、改めて、床下から取り出した姫の愛猫は、婆沙丸が与えた手鞠と一緒に、蔵人所陰陽師の監督の元、丁重に埋められた。
「本当に? 今回の騒動は、その姫の飼い猫が引き起こしたものだったのか?」
一条堀川の田楽屋敷。
主である兄の田楽師の問いに官人陰陽師は首を振った。
「私もはっきりとはわからぬ。だが、そう考えれば辻褄は合う」
最期に一目なりとも姫に会いたがった猫が、それを果たせず、恨みを抱いたまま死んで、
会いたい、会いたいと言う、その切実な思い故、姫と一体化してしまった?
その証拠と言ってはなんだが、
〈眠っている姫〉〈夢の中で会った姫〉は、どう見ても猫自身 だった気がする。
だから、あんなに、犬飼の連れた犬を怖がったのだ。
一方、時折、覚醒した際の、いわゆる〈半覚醒の姫〉は姫本人に近かった。
『たまはどこじゃ?』
今回、偶々 〈たま〉が重なって、ややこしくなったせいもある。
布留佳樹は認めた。
憑依した猫があれほど求めた〈たま〉は鞠のこと。
片や、姫が口にしたのは、愛猫の名前。
姫の猫はたま という名だった……!
「では、猫をきちんと姫に会わせ、それから愛用の鞠 も一緒に埋めてやっていれば、今回の騒動は起こらなかったってことか?」
重ねて、訊く理論派の狂乱丸。
布留は正直に答えた。
「さあなあ。それも、わからぬ」
人の心の深淵は常に謎である。
いや、獣の心も?
「はっきり言えるのは──今回の一番の功労者は婆沙丸だ!」
成澄が叫んだ。
右目に包帯を巻いているが、隻眼の検非遺使も中々乙なものだ、とこっそり狂乱丸は思っている。
命懸けで俺(婆沙丸もだが)を庇ってくれたし。
擦り寄って、蛮絵の袖を引くと喉を鳴らした。
「なあ、成澄? 俺は惚れ直したぞ……」
「それにしてもっ! よく、あんなもの持っていたものだ、婆沙丸はよ!」
更に声を大きくして叫ぶ検非遺使である。
受けて、橋下の陰陽師。
「全くだ! 普通、あの場面で、誰が手鞠なんぞ持っているよ?」
「あれは俺のじゃない」
弟の田楽師は大いに照れた。
「最近、仲良くなった娘が河原に落として行ったのさ。
返してやろうと思って、忘れぬようずっと持ち歩いていたんだ」
「婆沙丸──!」
「あーそ-ぼー!」
「噂をすれば、これじゃ」
「人気者だな、婆沙?」
「そうさ。だけど、何故だろう?」
腰を上げつつ婆沙丸は首を傾げた。
「あの年頃までは、俺は兄者よりモテるんだけどなあ……!」
どっと起こる笑いの渦。
庭に降りると、子供たちの輪の中にあの手鞠の持ち主を見つけた。
「悪かったなあ、すず? おまえの鞠、返そうと思ったんだが──
欲しがったコに、つい、くれてやってしまった」
「そんなの構わないよ!」
笑顔が返って来た。
明るい声で少女は笑うのだ。
「だって、私、もうあれ で一人で遊ばなくってもいいもの。
ほら! 友達ができたから!」
「友か……」
縁の柱に凭れて、有雪が呟いた。
「やっぱり、作っておくに限る……」
「何だ、何だ? やけにしおらしいな、有雪?」
成澄も出て来た。
「例の、鼻風邪のせいか?」
「ほっとけ。風邪なら、ピタリと治ったわ」
「ふーん? それにしても──いつもの毒気がないぞ?
ははあ? 寂しいのなら、今からだって遅くない。俺たちがいつだって友達になってやろう。
なあ、佳樹?」
「馴れ馴れしく呼ぶな。私は帝の陰陽師である」
毎回、博覧強記で薀蓄 を垂れないと気が済まない橋下の陰陽師が、今回は何やらこんな感傷的でしんみりした調子なので──
代わって作者が記すほかなくなったが。
〈眠り姫〉に取り憑いた〈穢悪しき疫鬼〉が猫であることに、一同もっと早く、容易に気づくべきだった。
何故なら、猫の語源は〝眠る子〟から来ているから。
ねむるこ……が縮まって……ねるこ……ねこ……!
それともう一つ。
懸命なる読者の皆様はお気づきですね?
どうも、有雪は猫アレルギーのようです。
さしもの陰陽師も(蔵人所も橋下も)アレルギーを調伏する術は持たなかったようで……
──── 了 ────
飛び入った影がある。
田楽師の兄の方、狂乱丸だった。
「姫、待て!」
果敢にも血の滴る〈眠り姫〉の両手を掴んで検非遺使から引き離す。
「ならば、
「え?」
「俺の目をくれてやる! それでどうじゃ、姫?」
額が擦れるくらいググッと姫の面前に顔を寄せると、
「ほれ、よく見てみろ。こんな野暮な男より、俺の目の方がずぅーっと美しいぞ?」
「バカ、いいから──早く逃げろ、狂乱丸!」
「そうだ、婆沙、おまえも来い!」
振り返って、弟を呼びながら兄は言った。
「姫、俺たちから、目玉一個づつでどうだ? それで、勘定は合うだろう?
だから、検非遺使は放してやれ」
一度、検非遺使を見て、花のように笑う田楽師。
「検非遺使の目はな、あまねく
この目があるから、姫だって安心して眠っていられるのだぞ?
さあ、だから、そっちの目は諦めて、俺と弟のにしろ」
「狂乱丸……」
「何をグズグズしている、婆沙! 姫に目を差し出すぞ!」
「いっ?」
驚いたのは婆沙丸である。床に尻餅を付いたまま、あんぐりと口を開けている。
その様子に焦れて、更に兄は怒鳴った。
「早く、来いったら! 成澄を助けるためじゃ。この際、お互い目の一個くらいいいではないか!」
「いや、いや、いや、いや……待てって、兄者!」
流石に弟の方は躊躇して頭を振った。
「俺は、兄者とは違う。そこまで、検非遺使に思い入れは──」
「何だと! 兄であり、座長である俺に逆らうのか?
常日頃、何事も俺に従うと言っておるのは偽りかよ?」
「いくら何でも、今回ばかりは従えぬわ!」
死に物狂いとはこのこと。
この場はなんとしても切り抜けないことには!
兄者はいい。婆沙丸は思った。
どんな姿になっても、兄者はモテるだろう。そんなのはわかっている。
〈隻眼の田楽師〉 〈美憂の歌舞い〉……!
今だって、モテなくて、失恋続きで、散々苦労しているというのに?
更に恋の成就が難しくなってしまうっ!
── 俺は、絶対、目玉は死守するからな!
「玉、玉って、姫、そんな──人間の目玉なんてちっとも面白くないぜ?」
一転、血を流している検非遺使を指差して婆沙丸は叫んだ。
「取り出したところで、ドロッとしてて……弾みもしないんだぞ。
そ、そうだ、遊ぶんなら──
やっぱり、こっちの玉だろう?」
それこそ、何の変哲もない、玩具の玉──手鞠だった。
コロコロと転がって行く。
「!」
やおら、姫が飛びついた。
膝を折って、手鞠を拾い上げる。
呪術陣内から陰陽師たちの声が響いた。
「成澄!
「今だ!」
「諾!」
鞠を胸に抱き、蹲ったまま動かない姫に向けて、検非遺使は二本目の矢を放った。
念には念を入れて帝の陰陽師が用意した予備の矢――
たった今、姫に引っ掻かれて、右目から血を流しているとはいえ、
片目でも、この距離で静止している標的を射損じる中原成澄ではなかった。
「ギヤーーーーーーーーーーーーーーー!」
凄まじい悲鳴が廃邸に響き渡った。
「ギャーーーーーーーーーーー……」
その瞬間、その場にいた一同は確かに、見た。
霧のようなものが姫の体から
尖った耳と細い体、長い尻尾……
と、見る間に、氷が砕け散るごとく、爆ぜて、消えた。
皆、その形が
「あれは──」
「猫?」
「ハッ、姫!」
我に返った蔵人所陰陽師、結界から飛び出して姫に駆け寄る。
姫は手鞠を抱いたまま床に倒れていた。
目を閉じて眠っている。
だが、その眠りは、明らかに普通の眠りに見えた。
可愛らしい寝息を立てて上下する胸。それに合わせて鞠も揺れている。
「──」
そっと抱え上げると、帝の陰陽師は御帳台まで静かに姫を運んだ。
「姫君が眠りに取り憑かれた六月十七日の朝、あったのはこういうことです」
姫に使える女房の小郷が明かした話はこうである。
その朝、姫の住す内裏の上局の渡殿に、姫が平生から可愛がっている猫が血塗れで倒れていた。
夜半、外へ出て、野犬に襲われたらしく、傷だらけの無残な姿だった。
それでも、姫の元へ帰ろうとしたのだろう。姫の室まで、あと少しの距離だった。
しかも、まだ、微かに息はあった。
だが、あまりの
それこそ、手中の珠のごとく大切に育てられた三の宮の姫君である。
こんな恐ろしいものを見せるぐらいなら、いなくなったとお教えしたほうが良い。
そういうことに決まって、その際、血だらけの猫の始末を命じられたのが、一番歳の若い小郷だった。
と言っても、警護している衛士に渡せばよかったまでのこと。
だが──
常日頃、姫の一番近くにいて一緒に遊んでいる小郷自身、この猫に愛着があった。
あまりに哀れに思って、引き裂かれたその体を、姫から下げられた
猫の遊び道具だった鞠の方は別の女房が処分した。
それを見るたび、猫のことを思い出して姫が悲しい思いに囚われては、と慮ったからである。
皆、良かれと思って、善意から行ったことだった。
後日、改めて、床下から取り出した姫の愛猫は、婆沙丸が与えた手鞠と一緒に、蔵人所陰陽師の監督の元、丁重に埋められた。
「本当に? 今回の騒動は、その姫の飼い猫が引き起こしたものだったのか?」
一条堀川の田楽屋敷。
主である兄の田楽師の問いに官人陰陽師は首を振った。
「私もはっきりとはわからぬ。だが、そう考えれば辻褄は合う」
最期に一目なりとも姫に会いたがった猫が、それを果たせず、恨みを抱いたまま死んで、
会いたい、会いたいと言う、その切実な思い故、姫と一体化してしまった?
その証拠と言ってはなんだが、
〈眠っている姫〉〈夢の中で会った姫〉は、どう見ても
だから、あんなに、犬飼の連れた犬を怖がったのだ。
一方、時折、覚醒した際の、いわゆる〈半覚醒の姫〉は姫本人に近かった。
『たまはどこじゃ?』
今回、
布留佳樹は認めた。
憑依した猫があれほど求めた〈たま〉は鞠のこと。
片や、姫が口にしたのは、愛猫の名前。
姫の猫は
「では、猫をきちんと姫に会わせ、それから愛用の
重ねて、訊く理論派の狂乱丸。
布留は正直に答えた。
「さあなあ。それも、わからぬ」
人の心の深淵は常に謎である。
いや、獣の心も?
「はっきり言えるのは──今回の一番の功労者は婆沙丸だ!」
成澄が叫んだ。
右目に包帯を巻いているが、隻眼の検非遺使も中々乙なものだ、とこっそり狂乱丸は思っている。
命懸けで俺(婆沙丸もだが)を庇ってくれたし。
擦り寄って、蛮絵の袖を引くと喉を鳴らした。
「なあ、成澄? 俺は惚れ直したぞ……」
「それにしてもっ! よく、あんなもの持っていたものだ、婆沙丸はよ!」
更に声を大きくして叫ぶ検非遺使である。
受けて、橋下の陰陽師。
「全くだ! 普通、あの場面で、誰が手鞠なんぞ持っているよ?」
「あれは俺のじゃない」
弟の田楽師は大いに照れた。
「最近、仲良くなった娘が河原に落として行ったのさ。
返してやろうと思って、忘れぬようずっと持ち歩いていたんだ」
「婆沙丸──!」
「あーそ-ぼー!」
「噂をすれば、これじゃ」
「人気者だな、婆沙?」
「そうさ。だけど、何故だろう?」
腰を上げつつ婆沙丸は首を傾げた。
「あの年頃までは、俺は兄者よりモテるんだけどなあ……!」
どっと起こる笑いの渦。
庭に降りると、子供たちの輪の中にあの手鞠の持ち主を見つけた。
「悪かったなあ、すず? おまえの鞠、返そうと思ったんだが──
欲しがったコに、つい、くれてやってしまった」
「そんなの構わないよ!」
笑顔が返って来た。
明るい声で少女は笑うのだ。
「だって、私、もう
ほら! 友達ができたから!」
「友か……」
縁の柱に凭れて、有雪が呟いた。
「やっぱり、作っておくに限る……」
「何だ、何だ? やけにしおらしいな、有雪?」
成澄も出て来た。
「例の、鼻風邪のせいか?」
「ほっとけ。風邪なら、ピタリと治ったわ」
「ふーん? それにしても──いつもの毒気がないぞ?
ははあ? 寂しいのなら、今からだって遅くない。俺たちがいつだって友達になってやろう。
なあ、佳樹?」
「馴れ馴れしく呼ぶな。私は帝の陰陽師である」
毎回、博覧強記で
代わって作者が記すほかなくなったが。
〈眠り姫〉に取り憑いた〈穢悪しき疫鬼〉が猫であることに、一同もっと早く、容易に気づくべきだった。
何故なら、猫の語源は〝眠る子〟から来ているから。
ねむるこ……が縮まって……ねるこ……ねこ……!
それともう一つ。
懸命なる読者の皆様はお気づきですね?
どうも、有雪は猫アレルギーのようです。
さしもの陰陽師も(蔵人所も橋下も)アレルギーを調伏する術は持たなかったようで……
──── 了 ────