手順18 内緒の話をしましょう
文字数 3,173文字
「あ、尚くーん☆ こっちこっち~♪」
つづら達と渋谷に行った翌日の午後二時、待ち合わせ駅の指定された出口まで行けば、既に待っていてくれたらしい寺園先輩がボクに声をかけてきた。
「どうも寺園先輩……」
「どうしたの? なんか疲れた感じだけど……」
ボクの顔を見るなり寺園先輩は驚いたように聞いてくる。
いつもの話し方も抜けている。
「やっぱりわかりますか……実は昨日から今朝の八時までつづらと延々ゲーム大会をしてまして……」
一応クマはコンシーラーで隠してきたのだけど、寺園先輩には雰囲気でわかってしまうらしい。
「え、いつもそんな事やってるの?」
「いえ、普段はそんな事ないんですが、姉は昨日、すごく楽しかったようで、興奮して眠れないからと……」
「でも昼過ぎからとはいえ今日も予定あるのによく付き合ったね? 断れなかったの?」
心配したように寺園先輩が言う。
「…………正直、姉の部屋で夜中までゲーム大会というので、ちょっと下心もありました」
それに、寺園先輩と仲良くなれて嬉しいとはしゃいでいるつづらに、明日は寺園先輩の家にボクだけお呼ばれされてるなんて言えなかった。
……あれ、こっちの方を話せばよかったんじゃないか?
だめだ、寝不足で頭が回らない。
「あ~☆ 途中で寝落ちしちゃってそのまま一緒のベッドで、とかそういう?」
でも、寺園先輩は普通に話を聞いてくれる。
「ご丁寧に姉がカフェラテを作ってくれたので、全くそんなイベントは起こりませんでしたけどね。姉は朝食を食べた後、やっと寝ましたけど、ボクは寝たら起きられる気がしなかったのでそのまま起きてました」
「そうなんだ☆ お疲れ様♪」
「ありがとうございます……」
とりあえず、駅前のコンビニでエナジードリンクでも買おう。
「それじゃあ今日の本題はあんまり人がいる所じゃしづらいし、私の家に行こっか☆」
「はい」
コンビニでとりあえずいちばん効きそうなエナジードリンクを適当に選んで買い、ボク達は寺園先輩への家へと向かう。
「ところで、寺園先輩と岡崎先輩って幼なじみなんですよね?」
寺園先輩の家へ向かう途中、ボクはエナジードリンクを飲みながら寺園先輩に尋ねる。
「そうだよ~♪」
「家が近所って事は、行く途中で会ったりするかもしれませんね」
「この時間は道場に行ってるはずだから、そっちに行かない限りは会わないと思うよ☆」
さすが幼なじみと言うべきか、どうやら寺園先輩は岡崎先輩の普段の行動パターンを把握しているらしい。
「そうなんですね」
「まあ、私の家の隣にある道場だから、その気になればいつでも会いにいけるよ♪」
「近いですね!?」
目の鼻の先じゃないか。
「うん、元々私のおじいちゃんがやってた道場で、今は私のお父さんが引き継いでるよ☆」
「……んん? もしかして、寺園先輩って柔道界のサラブレッドみたいな家系だったりします?」
さらっと寺園先輩は言うけれど、それって実はすごい事なんじゃないか?
「もう引退しちゃったけど、おじいちゃんもお父さんも昔選手だったよ☆ なんか二人共オリンピックでメダルとかとったらしいけど、だからと言って一人娘の私もそうならなきゃいけない義務は無いよね♪」
思った以上にものすごい家系だった。
確か寺園先輩は小学生の時に何度も全国大会で優勝して、世界もねらえるとまで言われていたそうだけど、その環境なら納得だ。
「え、あの……柔道やめるとき大変じゃありませんでしたか……?」
「大変だったよ~☆ でも、別に柔道は物心ついた頃から気づいたらやらされてたけど、自分でやりたくてやってたって感じでも無かったし、周りはかなりうるさかったけど、頑張って説得したよ♪」
「ちなみに、どう説得したんですか?」
「もう柔道なんてやらないで済むなら腕や足の一本や二本折ってやる! 一生動かなくなったっていい! って言ったら皆急に下手に出て大人しくなったよ☆」
「それは説得ではなく脅迫というのでは……」
娘がそこまで思いつめていたら、どんなに娘の才能に期待していても、流石に引き下がるしかないだろう。
「でも、私も結構本気だったよ?」
「なお怖いですよ! ……何がそんなに嫌だったんですか?」
「うーん……色々かな☆」
「な、なる程……」
その色々、にはなんだか恐ろしい闇を感じるので、ボクはそれ以上聞かない事にした。
「あ、着いたよ♪」
「おおう……」
ボクが駅で買ったエナジードリンクを飲み終える頃に着いたのは、立派だけどまあ普通の一軒屋だった。
隣にずっと掛け声が聞こえてくるかなり大きな道場がある以外は。
「さ、あがってあがって☆」
「おじゃまします」
都内の結構いい場所なのに田舎のじいちゃんばあちゃんの家みたいな広さだな……なんて思いながら寺園先輩の家に上がる。
「あら杏奈、お客さま?」
「うん☆ 学校の後輩の尚ちゃんだよ♪」
「はじめまして、井上尚です。寺園先輩にはいつもお世話になってます」
家に上がると、多分寺園先輩の母親らしき人に会った。
寺園先輩が一人っ子だと知らなかったら、歳の離れたお姉さんかと思うくらいに見た目が若い。
「こちらこそ杏奈をよろしくね、じゃあ後で飲み物でも持っていく?」
「いいよこっちから持ってくよ☆ 尚ちゃん、ドクダミ茶でいいかな?」
「あ、はい、なんでも大丈夫です……」
それから寺園先輩は冷蔵庫からお茶の入ったガラスのボトルとコップをお盆に乗せて、玄関の前にある階段から二階へと上がり、僕もそれについて行く。
案内された寺園先輩の部屋は、なんというか、いかにも女の子の部屋って感じの可愛らしい内装だった。
家具は桃色を基調としていて、アンティーク調の小物があちこちにあり、なんだか甘い香りがする。
まさか部屋もここまで徹底しているなんて……。
つづらの部屋も比較的女の子らしい感じだけど、ここまで突き抜けたあざとさはない。
「ドクダミ茶って美容や健康にとっても良いんだよ☆ 私はいつも自分専用に作って冷蔵庫にストックしてあるの♪」
部屋の真ん中の座卓にお盆を置き、グラスにお茶を注ぎながら寺園先輩は言う。
「……なんか、独特な苦味がありますね」
出されたお茶を飲んでみれば、口の中になんともいえない苦味が残る。
「慣れたら美味しいよ☆ ドクダミ茶はニキビや吹き出物に効いて肌がきれいになるんだよ♪」
そうか。じゃあ飲もう。
お茶を飲んで一息ついたところでボクはふと棚に飾られた写真に気づく。
日に焼けた男の子と色白な男の子が二人、肩を組んで楽しそうに笑っている写真だ。
そして、色白な男の子の方には見覚えがある。
「あ、これもしかして小さい頃の岡崎先輩ですか?」
「そうだよ~♪ 隣にいるのが小学生の時の私♡」
「えっ」
寺園先輩の言葉に、ボクは固まる。
よく見れば微妙に目鼻立ちが寺園先輩に似てるような気もするけど……。
「うふふ♡ 驚いた?」
「その……ものすごいイメチェンしましたね?」
「すっごい頑張ったよ~☆」
ビフォーアフターが劇的過ぎてボクは固まる。
これ、ボクの女装前と女装後以上に変ってるんじゃないだろうか。
「まあそれはさておきそろそろ本題に入ってもいいかな♪」
「はい、昨日の反省会ですか?」
昨日の夜、ラインで寺園先輩からメッセージが来た時は何事かと思ったけど、タイミング的にこれくらいしか議題は思いつかない。
「ううん、昨日思いついた、さくっと既成事実を作る方法についてなんだんだけど」
「え」
唐突な寺園先輩のその言葉にボクは固まった。
つづら達と渋谷に行った翌日の午後二時、待ち合わせ駅の指定された出口まで行けば、既に待っていてくれたらしい寺園先輩がボクに声をかけてきた。
「どうも寺園先輩……」
「どうしたの? なんか疲れた感じだけど……」
ボクの顔を見るなり寺園先輩は驚いたように聞いてくる。
いつもの話し方も抜けている。
「やっぱりわかりますか……実は昨日から今朝の八時までつづらと延々ゲーム大会をしてまして……」
一応クマはコンシーラーで隠してきたのだけど、寺園先輩には雰囲気でわかってしまうらしい。
「え、いつもそんな事やってるの?」
「いえ、普段はそんな事ないんですが、姉は昨日、すごく楽しかったようで、興奮して眠れないからと……」
「でも昼過ぎからとはいえ今日も予定あるのによく付き合ったね? 断れなかったの?」
心配したように寺園先輩が言う。
「…………正直、姉の部屋で夜中までゲーム大会というので、ちょっと下心もありました」
それに、寺園先輩と仲良くなれて嬉しいとはしゃいでいるつづらに、明日は寺園先輩の家にボクだけお呼ばれされてるなんて言えなかった。
……あれ、こっちの方を話せばよかったんじゃないか?
だめだ、寝不足で頭が回らない。
「あ~☆ 途中で寝落ちしちゃってそのまま一緒のベッドで、とかそういう?」
でも、寺園先輩は普通に話を聞いてくれる。
「ご丁寧に姉がカフェラテを作ってくれたので、全くそんなイベントは起こりませんでしたけどね。姉は朝食を食べた後、やっと寝ましたけど、ボクは寝たら起きられる気がしなかったのでそのまま起きてました」
「そうなんだ☆ お疲れ様♪」
「ありがとうございます……」
とりあえず、駅前のコンビニでエナジードリンクでも買おう。
「それじゃあ今日の本題はあんまり人がいる所じゃしづらいし、私の家に行こっか☆」
「はい」
コンビニでとりあえずいちばん効きそうなエナジードリンクを適当に選んで買い、ボク達は寺園先輩への家へと向かう。
「ところで、寺園先輩と岡崎先輩って幼なじみなんですよね?」
寺園先輩の家へ向かう途中、ボクはエナジードリンクを飲みながら寺園先輩に尋ねる。
「そうだよ~♪」
「家が近所って事は、行く途中で会ったりするかもしれませんね」
「この時間は道場に行ってるはずだから、そっちに行かない限りは会わないと思うよ☆」
さすが幼なじみと言うべきか、どうやら寺園先輩は岡崎先輩の普段の行動パターンを把握しているらしい。
「そうなんですね」
「まあ、私の家の隣にある道場だから、その気になればいつでも会いにいけるよ♪」
「近いですね!?」
目の鼻の先じゃないか。
「うん、元々私のおじいちゃんがやってた道場で、今は私のお父さんが引き継いでるよ☆」
「……んん? もしかして、寺園先輩って柔道界のサラブレッドみたいな家系だったりします?」
さらっと寺園先輩は言うけれど、それって実はすごい事なんじゃないか?
「もう引退しちゃったけど、おじいちゃんもお父さんも昔選手だったよ☆ なんか二人共オリンピックでメダルとかとったらしいけど、だからと言って一人娘の私もそうならなきゃいけない義務は無いよね♪」
思った以上にものすごい家系だった。
確か寺園先輩は小学生の時に何度も全国大会で優勝して、世界もねらえるとまで言われていたそうだけど、その環境なら納得だ。
「え、あの……柔道やめるとき大変じゃありませんでしたか……?」
「大変だったよ~☆ でも、別に柔道は物心ついた頃から気づいたらやらされてたけど、自分でやりたくてやってたって感じでも無かったし、周りはかなりうるさかったけど、頑張って説得したよ♪」
「ちなみに、どう説得したんですか?」
「もう柔道なんてやらないで済むなら腕や足の一本や二本折ってやる! 一生動かなくなったっていい! って言ったら皆急に下手に出て大人しくなったよ☆」
「それは説得ではなく脅迫というのでは……」
娘がそこまで思いつめていたら、どんなに娘の才能に期待していても、流石に引き下がるしかないだろう。
「でも、私も結構本気だったよ?」
「なお怖いですよ! ……何がそんなに嫌だったんですか?」
「うーん……色々かな☆」
「な、なる程……」
その色々、にはなんだか恐ろしい闇を感じるので、ボクはそれ以上聞かない事にした。
「あ、着いたよ♪」
「おおう……」
ボクが駅で買ったエナジードリンクを飲み終える頃に着いたのは、立派だけどまあ普通の一軒屋だった。
隣にずっと掛け声が聞こえてくるかなり大きな道場がある以外は。
「さ、あがってあがって☆」
「おじゃまします」
都内の結構いい場所なのに田舎のじいちゃんばあちゃんの家みたいな広さだな……なんて思いながら寺園先輩の家に上がる。
「あら杏奈、お客さま?」
「うん☆ 学校の後輩の尚ちゃんだよ♪」
「はじめまして、井上尚です。寺園先輩にはいつもお世話になってます」
家に上がると、多分寺園先輩の母親らしき人に会った。
寺園先輩が一人っ子だと知らなかったら、歳の離れたお姉さんかと思うくらいに見た目が若い。
「こちらこそ杏奈をよろしくね、じゃあ後で飲み物でも持っていく?」
「いいよこっちから持ってくよ☆ 尚ちゃん、ドクダミ茶でいいかな?」
「あ、はい、なんでも大丈夫です……」
それから寺園先輩は冷蔵庫からお茶の入ったガラスのボトルとコップをお盆に乗せて、玄関の前にある階段から二階へと上がり、僕もそれについて行く。
案内された寺園先輩の部屋は、なんというか、いかにも女の子の部屋って感じの可愛らしい内装だった。
家具は桃色を基調としていて、アンティーク調の小物があちこちにあり、なんだか甘い香りがする。
まさか部屋もここまで徹底しているなんて……。
つづらの部屋も比較的女の子らしい感じだけど、ここまで突き抜けたあざとさはない。
「ドクダミ茶って美容や健康にとっても良いんだよ☆ 私はいつも自分専用に作って冷蔵庫にストックしてあるの♪」
部屋の真ん中の座卓にお盆を置き、グラスにお茶を注ぎながら寺園先輩は言う。
「……なんか、独特な苦味がありますね」
出されたお茶を飲んでみれば、口の中になんともいえない苦味が残る。
「慣れたら美味しいよ☆ ドクダミ茶はニキビや吹き出物に効いて肌がきれいになるんだよ♪」
そうか。じゃあ飲もう。
お茶を飲んで一息ついたところでボクはふと棚に飾られた写真に気づく。
日に焼けた男の子と色白な男の子が二人、肩を組んで楽しそうに笑っている写真だ。
そして、色白な男の子の方には見覚えがある。
「あ、これもしかして小さい頃の岡崎先輩ですか?」
「そうだよ~♪ 隣にいるのが小学生の時の私♡」
「えっ」
寺園先輩の言葉に、ボクは固まる。
よく見れば微妙に目鼻立ちが寺園先輩に似てるような気もするけど……。
「うふふ♡ 驚いた?」
「その……ものすごいイメチェンしましたね?」
「すっごい頑張ったよ~☆」
ビフォーアフターが劇的過ぎてボクは固まる。
これ、ボクの女装前と女装後以上に変ってるんじゃないだろうか。
「まあそれはさておきそろそろ本題に入ってもいいかな♪」
「はい、昨日の反省会ですか?」
昨日の夜、ラインで寺園先輩からメッセージが来た時は何事かと思ったけど、タイミング的にこれくらいしか議題は思いつかない。
「ううん、昨日思いついた、さくっと既成事実を作る方法についてなんだんだけど」
「え」
唐突な寺園先輩のその言葉にボクは固まった。