第2話 始末書

文字数 1,361文字

 さて、システムを立ち上げる段になって、ソウルセイバー・ショウは困惑した。

「あれぇ? 書類作成システムの中に、始末書のフォーマットが無いみたい?」
「はあ? そんなわけないだろ。全部のフォームはここにあるはずだ」
 研修のときに習ったろ? そう言いながら画面を覗き込んだソウルシェイバー・シュウは、数秒後に、同じく困惑の声を上げた。
「…無いな」
「ね?」
 念のためマニュアルを探してみるが、始末書の項目は見当たらない。

「「う~ん??」」
「お、どしたのシュウショウコンビ? なに唸ってんの?」
 現れた先輩に背後から声をかけられ、集中していた2人は飛び上がった。
「うお!?」
「ひゃっ!?」
「ええ? なになになに??」
 奇声を上げて飛び上がったシュウとショウに、先輩もびびって飛び上がった。

「えー、実はですね」
 かくかくしかじか―。

 状況を説明すると、先輩はちょっと困ったような笑い顔で言った。
「あ~、君ら、ほんっとにやらかしたんだねえ。始末書を書く羽目になった奴とか、初めて見たわぁ。まさにゴシュウショウ(笑)」
「ちょっと、その呼び方、やめてください」
 ショウが抗議するが、先輩は涼しい顔。
「だってシュウとショウじゃん? 気に入らないなら、ショウシュウにする?」
「ん~。それもちょっと」
「臭い消しみたい。遠慮したいです(-_-)」
「あれこれ気にするやつらだなあ。で? 何やってたん?」
「あ! そうそう! 先輩、ご存じでしたら教えてください」
「なに?」
「始末書のフォーマットが見当たらなくて」
「そうなの? いやそんなはずは…。ほぇ、ほんとだ」
「ですよね」
「う~ん?? ごめんね、ちょっとこれから打ち合せ。始末書、がんばれ!」

 そそくさと去る先輩を尻目になおも悩んでいると、別の先輩から声をかけられた。さきほどの先輩の、相方である。
「あらどしたの、シュウショウコンビ?」
「またですか(--;)」
「? またって、何が?」
「いえ、こちらの話です。実は、始末書のフォーマットが見つからなくて…」

 かくかくしかじか―。

「は、そりゃそうでしょ、あれは手書きって決まりだもの」
「「手書き?」」

        ***

 そうそう、電子化って一度にあれもこれもできないでしょ? だから、導入するとき、まず何からやるか決めたのよ。当然、利用頻度が高いものが先。稟議申請とか承認とかね。で、ほとんど出番がない始末書は、当然後回しになったってわけ。いまだにあれやこれやシステムの開発が続いているからね、そんな利用頻度の低いものは今現在もまだ放置されているんだわ―。

 すでにかなりの経験値を持ち(今転生すれば、トガリネズミにはなれるらしい。哺乳類なんてすごい!)当時を知る先輩の説明に、2人はがっくりと肩を落とした。

「そうでしたか…」
「て、手書き…」
 呆然とする後輩を気の毒に思ったのか、
「ま、決まったフォーマットが無いんだし、考えすぎず、まずは書いてみたら? ネットからよさげなお手本を見つけてさ」

 ただし、丸写しはやめときな、絶対バレるから、そう付け加える先輩に、
「そうですね…」
 暗澹たる気持ちになりながら、2人は神妙な顔でそう応えた。
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